第36話 Yの楽園
十三人と二人で椅子に座り、円を作った真ん中、陸が椅子に座っている。
わざわざこんな風に、囲む必要はまったくないと思うが……、
雰囲気的には、生贄にされているような気もする。
本当に尊敬しているのか、怪しく思えてきた。からかって遊んでいるのか?
「いえいえ、リーダーはやはり真ん中でしょう――キング」
「おおっ」
陸が思わず声を出す。キング。コードネーム。名付けられた時は正直どうかとも思ったが、言われてみたら気持ち良い……この席、誰にも譲りたくなくなった。
「さて、それじゃあ作戦会議を始めるか」
達海の言葉で、全員が一斉に手を組み、顎に添える。
机がないので肘を置く場所がなかった。だが、そこは気合いで空中に置く。
正直なところつらいが、見栄えを良くするためだ。これくらいの努力はするべきである。
見栄えを考えたら、まったくの真逆に突出している光景ではあったが。
「大人数で動くのは危険だな。まずは、チーム分けをする」
達海の提案に、誰も文句を言わなかった。
少数で動くことの重要さは、誰もが理解していることである。
問題は、チーム分けの内容だ。
「オレら三馬鹿は、離れる。
そんで、オレらを中心にして、三つのチームを作るぞ」
達海、陸、天也。
一人だけ、リーダーとしての信頼がまったくない人物が混ざっているが、そこは誰かを代用して、チームの分離を防ぐ。
大木のようなずっしりとしたリーダー性を持っている、オールマイトがいいだろう。
部屋の真ん中、そして左右。均等になるように三馬鹿が分かれた。端にいる天也の元に、オールマイトが近づいていく。他の覆面男子は、どこにも属さない空間に溜まっていた。
人選によって、作戦が変動する……わけでもない。
というか、作戦もなにも、まだ考えていなかった。
作戦によって人選するよりは、人間関係が良好なメンバーでチームを組んだ方が良いだろう。
チーム内でのいざこざがあっても困る。となると、達海が選ぶのではなく、個人が自発的に誰かを誘って、チームに混ざってもらいたい。
達海はこの十三人のことを、なにも知らない。顔も、本名だって分からないのだ。隠蔽された存在が、仲間だ。
信頼を築き上げる要素がほとんど欠けているのだが……歪んだ敬意だなあ、と思う。
達海の意図を伝えると、早速、動きがあった。
まあ、当然とも言える動きではあったが。
「陸さん陸さん陸さ――――んっっ! もちろん、陸さんのチームに入りますよぉ!」
「鬱陶しいっつの! 分かったっ、分かったから暑苦しい覆面を顔に近づけてくるな!」
と、ローターが陸の元へ。
「…………」
そして、静かに、ローターの後を追って、無口なストリップが陸のチームへ。
そうなると、自動的にもう一人もついてくることになる。
「ストリップがキングを選んだので、ぼくも入りますね。
この人の通訳ができるのは、ぼくだけでしょうし」
「そうなのか? なら、助かる」
無口な人間の意図を読む能力は、陸にはない。
タイツの存在は、きっと重宝するだろう。
「陸のチームにはもう一人か、二人くらいがいいか……」
ちらりと周りを見ると、「じゃあ」と手を挙げた者がいた。
「僕がいきましょうか」
「お前はオレのところへこい、ニーハイ」
ニーハイの動きが止まる。
反対意見はなさそうだが、理由が知りたいらしい。
そんな雰囲気がぷんぷんと匂ってくる。
「知りたいか? 別に、大した意味はねえが。お前とオレは気が合うみたいだからな。チーム間の伝達よりも、作戦を練るために一緒にいた方がメリットになると考えた。——不満か?」
「……いえ。そういうことなら、納得です。それに、光栄ですしね」
ニーハイが達海の元へやってくる。
覆面男子は、まだまだ残っていた。
「ふぇ、フェイスぅ……」
「おやおや、どうしたんだい、ホール。どこか、入りたいチームが決まったのかな?」
フェイスに聞かれたホールは、うんうんと頷いた。
そして、ぷるぷると震えながら達海を指差した。
それに、フェイスが、おっ、と声を出す。
「ビンゴ。やはりホールとは気が合う。
――このチーム、入っても構わないかね?」
「いいぞ」
達海は即答で受け入れる。癖が強いフェイスだが、このY団のメンバーは全員、キャラが濃い。誰がきても同じだと思った。
それに、フェイスもホールも、扱いやすそうだ。
そういう計算があっての、即答だった。ニーハイも、織り込み済みだろう。
するといつの間にか、ネック、ヒップ、バストが天也の元にいた。
理由を聞くと、「なんだか楽そうだったから」――らしい。
たぶん、そのチームは一番、苦労することになると思うが……、
「ん? お前……、コードネームは?」
天也が突然、そんなことを聞いた。問われた覆面が答える。
「ガーター」
「よし、合格だ」
「どういう基準なんだ」
陸が呆れるが、天也とガーターは力強く握手をし、頷き合っている。
なにか、通じるものでもあったのだろう。恐らくは理解できないものだ。
理解、したくもない。
「ソックス、だったよな?」
「は、はいっす。うす! ソックスっす!」
「オレのところにくるか?」
達海の誘いに、ソックスが力強く、はい! と返事をして混ざってきた。
分かりやすい後輩キャラだ。これもまた、扱いやすいタイプである。
「では、残った私は、キングのところへいきますね」
「あ、なんか悪いな、ウエスト。人数的に俺のところに強制しちまって」
「いえ、どこでも良かったので気にすることはないですよ」
覆面の上からメガネを指でくいっと上げる仕草……ああ、覆面の下ではメガネをかけているのか――期待を裏切らなければ、頭が良いタイプなのだろう。
これはこれで、陸のチームの配置としては、バランスが良いのかもしれない。
まとめてみよう。
陸をリーダーとした『カエル』チーム。
陸・ローター・ストリップ・タイツ・ウエスト……、
達海をリーダーとした『ヒーロー』チーム。
達海・ニーハイ・フェイス・ホール・ソックス……、
オールマイトをリーダーとした『ゾンビ』チーム。
天也・オールマイト・ヒップ・ネック・バスト・ガーター……。
こうして三チーム、三馬鹿とY団のメンバーが見事にばらけた。
自由に、個人の意思を重視した決め方だったが、偏りがない、良い組み合わせに感じる。
天也のところが若干、不安ではあるが。
オールマイトがいる限りは安心だろう。
「さて、チームが決まったところで――、ここからが本番だぜ、お前ら」
達海が、くっくっくっ、と笑いながら。
一人一人をじっくりと見ていく。
「やっと、スタート地点に立ったところだ。今までのは、準備運動……にもなってねえぞ。
今からだ……これからが、Y団、第一回の、作戦会議だ!」
教室の端にあった丸い机を真ん中に置き、ばんっ! と叩く。
机のおかげで、白熱した会議、という迫力が出た。
状況に飲まれるように、メンバーの士気も上がっていく。
「……一体、なにを始めるつもりなんですか? ……ボイス」
「ああ、ニーハイ――オレらはこのえろいイタズラを、ただの存在のアピールと、欲望処理だけに使うのは、もったいねえんじゃねえかと思ってきたところだ」
メンバー全員の頭の上に、はてなマーク……、
しかし三馬鹿の残り二人は、なるほど、と頷いていた。
既にレベルが違い過ぎる。
Y団は三馬鹿に、まったくついていけていなかった。
「どういうことなんだい? ボス……いえ、ボイス、なにをしようと?」
「分からないか? フェイス」
「自分たちだけじゃなく、他人のためになることだよ」
「同時に、おれらのためにもなる。倍のメリットなんだぜ?」
陸と天也もヒントを出すが、フェイスだけではなく、ニーハイも、他のメンバーも答えが出せなかった。いや、ただ一人、黙々と頷く人物が、一人……、
天也がそれに気づいた。
名を呼び、答えを促す。
「お前は分かったか、ガーター」
「……金儲け」
――こいつらマジか!? と、Y団の全員がそう思った。
ガーターでさえも……、答えながら、言葉を疑った。
金儲け。
えろいイタズラをし、その狙った女子を、写真や動画に収め、それを――、
「周りの男子に売りつける。無料配布なんて甘いことはしねえぞ? 金を払った者だけが見れる楽園だ……需要は、途切れることがねえんだ。これは商売であり、救済だ――」
夢見る男子たちへの。
手が出ない、男子たちへの。
羨望を向けるだけの、男子たちへの。
非リア充に贈る、プレゼントという形の、救いの手だ――。
ただ手を差し伸べるだけ。掴むかどうかは、彼ら次第だ。
「きっと掴むだろうぜ。だって、それが男ってもんだろ?」
ごくりと、Y団、全員が唾を飲む。
やはり――格が違う。
これが学内に悪名を轟かせている、例の三馬鹿なのか!!
「やめるなら、今だぜ? どうする、お前ら。
クリエイターか、ユーザーか。進むべき道は、お前らが選べよ」
問われたY団、そのメンバーは……、
全員、黙って頷き、
その拳を天に、思い切り突き上げた。
『——楽園を、創り上げる』
三馬鹿を含めた、Y団にしかできないことだった。
―― to be continued ――
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