第33話 Y団と三馬鹿
気になることは他にもたくさんあったが、最重要部分だけを聞く。
ここが意図的なのかそうでないかで、今後の展開ががらりと変わる。
「罪を被せているつもりはありませんよ。
いま思えば、必然だとは思いますが――最初はただの真似だったんです」
と、ニーハイが申し訳なさそうに言う。
なさそう、であって、本当に申し訳ないと思っているかは微妙なところだが。
「オレらの真似?」
「はい。あなた方、三馬鹿に憧れている者が集まった集団——【Y団】ですから。誰も彼もが、あなた方のようになりたいと思っています。漫画家を目指す人が好きな漫画家の絵柄を真似るように。技術というものはまず、真似ることから始まります」
自分で言うのもなんだが、三馬鹿の技術なんて最低なものでしかないのだが……と、達海が心の中で呆れる。
もっと他にすることがあるだろう。絶対に後々、黒歴史になるはずだ。
だがまあ、嫌な気はしない。三馬鹿が自己満足でやっていた最低評価なおこないも、きちんと誰かの心に響いている。いや、いいのか、それは。
「あなた方の真似をすれば、僕たち【Y団】の悪名が轟くかな、と思ったのですが」
「……非難が全て、オレらのところにきたってわけか」
はい、とニーハイが頷く。
確かに必然ではあるか。三馬鹿を真似たことをすれば、周りは三馬鹿のせいだと認識する。もしも清廉潔白だと誰かが知っていたところで、世間の流れはそう簡単には覆らない。
多少の食い違いがあろうとも、三馬鹿のせいと言われたら、三馬鹿のせいとして浸透する。
理不尽だ。三馬鹿に冷た過ぎるだろう、学内の女子どもは。
「Y団をもっとアピールすればいいんじゃねえの?」
思ったことを陸が提案する。
しかし、ニーハイは首を左右に振った。
「Y団をアピールしても、認識はされるんですが……、悪行がY団のものだと信じてもらえないんです。全て、三馬鹿のせいだ! に流れてしまって――」
どれだけ影響力が強いんだ、三馬鹿は。
学内全員でするいじめではないだろうか?
「そういう事情があって、御二方には迷惑をかけてしまいました……すいませんでしたっ!」
「って、ちょ、頭を下げなくていいってば!?」
「止めなくていいぞ陸。……ニーハイ、それで気が済むなら、いくらでも謝れよ。気が済んだら、全部を教えてもらうからな」
頭を上げたニーハイは、分からないと言った様子で……、
達海は凶悪な笑みを浮かべて、答えを告げる。
「で、お前ら一体、なにやってんだ?」
えろいことと言えば三馬鹿、と言われる通りに、Y団がおこなっていたイタズラはもちろん、えろいことだった。三馬鹿を真似しているのだ、そうなるのは当然だと言える。
スカートめくりや、女子更衣室などに潜り込んで下着を盗んだりはしない。
できるだけ接近を避け、遠方から楽しむのが、三馬鹿の流儀だった。こういうところは異能を使ったイタズラと本質はまったく変わらず……、
異能によって、イタズラの幅が広がったと言えるだろう。
イタズラには入念な準備が必要だ。別にしなくとも可能だが、達成感や楽しみ、ばれる確率に密接に関わってくる。
怠ってもいいが、困るのも満足できないのも自分だ。そこは個人の自由である。
しかし、そこで妥協をしないのが三馬鹿だった。陸たちにとって気を遣うのは準備段階である……本番は当然、実行する時。
ここではあまり気を張ってはいない。どちらかと言えば、気楽にやっている方が多いだろう。
だからこそ三馬鹿は、Y団、そのメンバーに告げる。
お前らは甘ぇよ――、と。
「お粗末な準備と、起こる可能性を網羅できてねえ、不足した危機察知能力だな。まあ、お前らの場合は、ばれてもチームをアピールできるから、いいのかもしれねえが――」
しかし、覆面を剥ぎ取られて個人を特定されてしまえば、普段の生活に支障が出るし、その場で袋叩きにされる。ばれる危険性を放置していいわけではない。
「きちんと危険については想定していたつもりですけど……」
「イタズラをする時に起こるかもしれない危険……、そのメモを見せてもらったけど、これじゃあ不安ばかりだよ。もっと可能性を広げなくちゃ。
それと、一つ一つを潰していかなくちゃな……潰せなくとも、当日にそうなった場合の対処法まで考えて、初めてイタズラに踏み込めるんだよ」
「急いで決行するんだったら、仕方ねえかもしれねえけどな。それでも最悪の要素、一つくらいは確実に回避できる準備をしねえと。お前ら、それでもおれらに憧れてるのか?」
いや、お前には憧れていないが。
Y団一同、天也に向けた言葉が綺麗に重なる。
「お前らマジでぶっ飛ばすぞ!? なんで陸と達海は自然と受け入れられてんだよッ!」
「ともかくだ」
達海が、椅子にロープで縛られたままの天也の肩を押す。バランスが後ろに移動した天也は、そのまま背中から倒れた。
背もたれの出っ張りが肩甲骨の隙間を押す。
声を出すほどではないが、地味な痛みが長く天也を苦しめる。
「お前らのために言っておくが、これ以上に慎重にならねえとダメだ。これをこのままにしていたら、お前らはマジで退学になったり、転校しなくちゃいけない状況になっちまうぞ?」
達海の言葉に、Y団一同、ごくりと唾を飲み込む。
聞き流していい話では決してない。最前線で戦っている現役のえろすなのだ。
どんな言葉でも教訓にしなければ、地獄を見るのは自分である。
「現役のえろすって……思春期の男子の全員がそうだと思うんだけど」
達海に敬意を払って敬礼をしているY団に、ぼそりと呟く陸。
誰も聞いていなかった。
天也とはまた違うけど……、なんだこの中途半端な疎外感は。
芸人魂に聞けば、まったくおいしくないこの立ち位置……、不満だった。
「だったら……、これは、失礼なお願いかもしれません」
「いいぜ、構わねえよ――言え、ニーハイ」
はい、とニーハイが頷く。
……この時点でもう、達海がY団を仕切るリーダーのように見えるのだが。
「僕たちでは慎重になれ、と言われても、どこまで慎重になればいいのか分かりません。慎重になればなるほど、いいのかもしれませんが……、あまりそれを追求し過ぎると、今度はまったく動けなくなりそうです。
それに、質だって、よくはありません。危機を想定する……しかし想定する想像力が乏しければ、数が多くても、僕らの危険は減りませんからね。ですから――」
ニーハイが椅子に座る達海の前に、片膝をついた。
それは忠誠を誓う、家来のようだった……。
その通りに、ニーハイは達海に忠誠を誓おうとしている。
それは、つまり……、
「田頭達海さん。
僕たち、Y団に、入ってくれませんか? もちろん、僕たちを束ねる、リーダーとして」
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