第29話 きっとこれからもずっと――、
――前日の夜中、親友である秋との定期的な電話の会話で、こんなことを聞かれた。
「どうして陸に告白しないのー?」
「ぶーっ!?」
今までの話題、関係なく、突然に挟まれた言葉だったので、思わず噴き出してしまった。
部屋に一人でいたので被害は最小限である。
「どうしてって……」
そんなの、理由はたくさんあるけど。
「まあ、どうせ勇気が出ないんだろうけどさー」
言い当てられている。いや、誰にでも当てはまることを言って、そうそう! 当たってるー! と共感させる手法なのかもしれないが……。
「あと、あれでしょ。告白は男子からするべきー、みたいな変なプライドでもあるんでしょ?」
「そ、そんなのないわよ!」
向こうから言ってくれた方が自分から言わなくて済むので楽だとは思っているが。
あとは、告白されて、「……はい」と答えたい、という夢もある。
まあ、色々と言ったが、陸の好意が自分に向いていないことを知っているので、今更、言い出せない、というのが一番かもしれない。
一度、あんなに強くフッておいて、自分から告白するなんて……、
自分からしたって、なんだそりゃ、って感じだし。
フッておいて、フラれるのが怖くて仕方ない自分は、身勝手だろう。
陸を失った後のことなんて考えられない。
だから、失う可能性が高い告白というイベントを、自分からおこなおうと思えなかったのだ。
今のままで充分だった。陸の馬鹿な行動を叱って、制裁をして。そういったコミュニケーションが、小さな幸せだ。陸からしたら暴力を受けているのでたまったものではないが。
あの、鬼が金棒を振ったような暴力行為を、小さな幸せと表現してしまっているのだ。内面と見た目がちぐはぐ過ぎる。
「ふーん。森は昔から変わらないよねー。まさか好きな子から告白されて、恥ずかしさのあまり強がって断っちゃうなんて」
「む――っっ!!」
枕に顔を埋めて思い切り叫ぶ。どうして小学生時代のわたしは、そんな無駄な強がりを! あれからというもの、陸との間には、明確な溝ができた。そして、陸は森のことを、恋愛対象としては見なくなっていた。
……それなのに、自分はずっと、気持ちが変わらず、今も想い続けているなんて。
一度、フッているから、こちらが好意を寄せているとアピールをすることもできないし。だから冷たくあしらうしかない。本当は同じように馬鹿をして、盛り上がりたいのに。もちろん、三馬鹿のえろい妄想の中に混ざりたくはないが。
森はこのことを、親友の秋にしか言っていなかった。自分から言ったわけではなく。
どこから嗅ぎつけたのか、それともただの観察眼なのか。
秋に本音を指摘されて、大きく動揺してしまったのが、確信になったらしい。
あることないことを混ぜて噂として流されるくらいならば、全てを吐露してしまった方が、最終的に被害が少ないだろう。そう考えて、秋に全てを打ち明けた。
相談相手になってくれているので、教えたことに後悔はしていない。
するとしたら、この後である。
この時の森には、知る由もないが。
「はあ……、あれから時間が経って、もう高校生——、どうすればいいんだろ」
なにも打開策が浮かばないまま……、森は陸を想い続けていた。
ずっと、このままではいられない。分かっている。陸が、新しい恋を見つけてしまったら――、……今だって、なぜ見つかっていないのか不思議なくらいだ。
……いや、例の三馬鹿として悪名が轟いているのだから、当然とも言えるが。
でも、家族だからずっと一緒、ではない。
いつか、自立する。いつか、この家から出ていってしまう――。
森の隣から、去っていってしまう。
その時のことが、想像できないくらい、酷く、怖い……。
「結局、森はどうしたいわけ?」
親友の強めの言葉に、びくりと反応する。……自分は、どうしたいのだろう? 陸が好きだ。でも、告白をして、断られるのが怖いから、告白はできていない。
再認識すると、なんてダメダメなんだと嫌悪する……。
「陸が、もう一度、告白してくれたらいいのにな……」
「じゃあ、させればいいじゃん」
え? と声が出た。
そんなこと、できたらすぐにやっている。
「いやいや、もっと本気で。
というか、普通の女の子は当たり前のようにやっているんだけどね」
森が疎いだけで――、とも言われた。
だったら、気になるのはその内容である。
「えっ……? 内容、ねー。
森が陸のことを好きだ、って、アピールはできないわけでしょう? うわ、面倒くさいな」
「あ、そんなに本気で考えなくてもいいよ? ないなら別にいいし」
無理に出撃して、傷を受けては本末転倒な気がする。
できるだけ、リスクは少ない方がいい。
「ここは思い切って、リスクは大きくしていこうか」
「ねえ、話っ、聞いてた!?」
「効果が大きい方がいいでしょう?」
そういう『賭博で一発、当てようぜ!』みたいな考えはやめた方がいい。
絶対に身を滅ぼす結果にしか繋がらない。
「大丈夫、大丈夫。森がやったらほぼ成功すると思うし」
「そ、そう……かな?」
未来の森からすれば、どの口が言う、と言いたくなる言い分だが。
もったいぶるようにしてから、電話先の親友は、その作戦を伝えた。
要点は、一つ。
「――ギャップよ」
嘘つきー! と叫びたくなった。それだけ、前日に思い描いていた景色と今の景色は違っていた。やはり、賭博で一発、当てるっ! は、危険だったのだ。
分かっていても手を出してしまう。これが賭博の怖さなのか……。
だが、悪い方に考えてしまっているから、絶望的な結果になったと勘違いしてしまっているだけだ。陸の反応は、そこまで悪くはなかった。ちょっとだけ、気になる女の子、くらいには意識してくれているのかもしれない――。
あまり目線を合わせてくれない。
悪い方向に解釈すると、既に終わっている気がするので考えないように。
大丈夫。陸はどんな時だって助けてくれた。誰よりも絆は深いと、自信を持って言える。
今のギャップに面食らったとしても、それで嫌いになるはずがない……。
陸を、信じているからこそ、出た結論だった。
むずむずするような場の雰囲気を変えようと、明るく振る舞う森。
それがもう普段と違うのだが……、自覚なく、自然とギャップが生まれている。陸の方も同調して、乗ってきてくれた。
二人で一緒に同じことをすると、不思議とそれが普通になってくるのだ。
緊張していた森の表情から、固さが取れた。ぬいぐるみを体の前で抱えるなんて幼い子がしそうなこと、陸の前では絶対に見せない。
今、それを、意識して森はやっていないのだ。
思わず出てしまった行動。陸も一緒に盛り上がっていることで、それが森の本質なんだという証明になっている。二人して笑い合い、楽しそうに店内を周り始めた。
森が乗り切れていないという狂った歯車一つのせいで、二人の間に大きな溝ができていたが、吹っ切れてみたら、どうだ? 歯車がかっちりとはまり、勢い良く回り出した。
どちらかがもっと積極的に動いていれば、手助けなどいらなくとも、ここまでは回り出すだろう。まあ、この後、告白まではさすがに介入が必要だろうが――、
それでも、一歩。
二人の中では、大きな前進だった。
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