第15話 探られた異能
「――で、どういうことなのか説明してくれる? してくれるわよね?」
生徒会長が仁王立ち。
三馬鹿は、ひゅう、と抜ける風を肌で感じながら、コンクリートの地面に正座していた。
斜め上からの圧力で、太ももが重い。暑さとは関係ない汗が出てきた。
(説明しろ、って言われてもなあ……)
御花の求める説明が、隣の透明人間のことなのならば、こちらの方が教えてほしい。
分からないことは説明のしようがない。
推測しかできず、逆に、それを喋って混乱させてしまう可能性もある。
だが、そう言っても、誤魔化していると取られてしまうのだろう。
今の御花は瞳を開けている。言い訳が通用しない状態だ……。
彼女の思い通りの答えを返せなければ、最悪、暴力が迫ってくる。
温厚な御花も、根本的なところでは森の姉だ。
いくら抑えていても、感情的になれば手が出てしまう。
それを知っているので、言おうとしても口が開かない。この状況のままだと、どっちを選ぼうと、選ばなかったとしても、暴力が飛んでくるのは目に見えているのだが――、
ちらりと隣を見る陸。達海は眠っている。いや、斜め下を向いて、まぶたを下ろしているだけなので、眠っているとは言えない。寝たふりをしているのだろう。
御花と話すのは緊張するから、ではなく。単純にこの件に関して、言うことはない、という意思表示だった。誤魔化す気はなく、白状する気もないらしい。
どちらを選ぶにしろ、言うのは陸だと訴えているのだ。
ふざけんな、と思うが――それよりも天也だ。
全ての元凶。そしてこの状況を作ったのは、天也だ。
(あれだけ異能を使うな、っつったのに……っ!)
「(いやいやっ、おれは使ってねえっての! お前らからしたら、おれのことが透明に見えているだろうけど、おれに、透明になる意思はねえってのっ!)」
言い訳にしか聞こえない。
表情というか、顔が見えない。天也が見えない。
見えるのは、ハンガーにかけたような、上下の制服だけなのだ。
声だけでは嘘か本当か分からない。
高いテンションで乗り切ろうとしているのか?
「ん? 二人でぼそぼそぼそぼそ…………、なにを相談しているの?」
いつの間にか、御花の顔が近い。至近距離で目が合った。……それに、恐ろしい声だった。
達海まで、びくっ、としていたので、起きているのは確実である……。
ともかく、そろそろ、決めなければいけない。
異能のことを話すのは、もう決まっている。
でないと、御花は納得しないだろう。
問題は――、達海と陸の異能について。ここを話すのか、どうかだ。
「この不思議な力、天也だけではないんでしょう?」
「いや、天也だけだよ。こんな不思議な力、ぽんぽんと出ちゃたまらないっての」
言いながら、お手上げ、とリアクションをする。
半笑いで返した後、ふぅー!? と、心の中で陸が深い息を吐く。
考えている最中にいきなりきたものだから、咄嗟にそう反応してしまった。
だが、良い判断だった。こうなると、隠し通す道を貫き通すしかないが、余計な心配をさせないためにも、隠す選択は正解だったかもしれない。
しかし、
「嘘ね」
御花は言い切った。真っ直ぐ、陸の目を見て。
というか、なぜ三人もいて俺に聞くの? と、今更、陸が疑問に思う。
一番まともだから? ……だとしたら嬉しいが、きつい役目を一番背負っているのは損なのでは? と考えてしまう。だったら異常が良かった。達海と天也が、今だけは羨ましい。
御花の目力で、体がガチガチに縛られる。
……いつまで経っても慣れないトラウマだ。
「あのね、何年、お姉ちゃんをしていると思っているの? 三人の嘘なんて、すぐ分かるわ」
そのわりに、騙されていることが多々あるが……?
それは陸たち、三馬鹿が知らないだけで、御花が見逃しているだけだったりする。
嘘だと見破られた陸は、ぎくりとする。その反応こそが、自分は嘘を吐いている、という証拠になってしまった。ここまで分かりやすく反応してしまえば、もう隠し通せない。
これ以上、御花を不機嫌にさせるのは、危険が命にまで手を伸ばすだろう。
「……俺と達海にも、あるよ」
「あ、本当にあったのね」
「…………」
か、カマをかけられた!? くっ、と陸は歯噛みするが、これは仕方のないミスだ。
陸でなくとも、目の前でそう言われたら、思わず反応してしまう。
達海でも天也でも同じだ。
分かっていても、三馬鹿の内の二人は、陸に責める意思を向けた。
片方は寝たふりで、片方は透明の状態になってまでも、だ。
人を責めることに遠慮がない。
カマをかけた――とは言え。御花もほぼ確信があったので、反応しなくとも追い詰めることはできたが……、だから陸がここを凌いだとしても、少しの時間のずれで、いずれ暴かれる。
早いか遅いかの違いだった。
くいっ、と御花が顎で示す。
早く言え、と――、その強制力には抗えない。
姉ってすげー、と思いながら、ゆっくりと陸の口が動く。
突然、異能に目覚めてしまったこと……その原因は、まだ分からないこと。
あのイタズラは天也が提案したもの。いや発端は陸だろうが! 具体的な案は天也じゃねえか! などと説明している途中で言い争いになったものの、御花から落ちた強い拳骨、一発で収まった。達海が参加しなかったのは、これを見越していたからだろう。
ぷくー、と膨らんだたんこぶを擦りながら、そんなわけです、と陸が締める。
正直、当事者の陸だって、異能のことはよく分からない。
分からないとか、はっきりしろとか、そう言われても対処のしようがなかった。
理不尽な暴力を喰らっても、仕方ない状況だったのだが……、
しかし御花は腕を組み、数分、考え込んだ後——、
「分かったわ」
とだけ言う。
開いた瞳も閉じ、いつもの御花に戻った。
優しくて面倒見が良い、お姉ちゃんへ――。
「三人が反省して、もうしないと約束してくれるのなら、許してあげる。
罰を与える気はないから安心して」
『…………っ!?』
陸たちは、三人揃って、驚いた。あの御花が、罰を与えずに許してくれるなんて、滅多にないことだ。滅多にないどころじゃない――、初めてではないだろうか?
「私も鬼じゃないわよ。小学生の頃はタダで許していたでしょう?」
そこまで遡らなければならないほどなのか。
罰を受ける、というのが習慣化している。
定期的に悪事を働かなければ、罰など貰えない。つまり、頻繁に悪事を働く三馬鹿の非しかないのだが、悪事をしないという思考が、三人にはない。
三人の認識が悪事でないのだから、仕方ないのだが。
「でも、どうして……?」
多くの女子を傷つけた。
生徒会長に助けを求めるほどの大きな傷だ。
それを負わせた三人を、どうしてなんの罰もなく、野放しにするのだろうか?
「あなたたちも、困ってるでしょう?
異能なんて、正体が分からないものをいきなり持たされて――」
陸たち三人は、えろいことをする! と頭がいっぱいだっために、そんな考えはまったくなかった――、わけではない。
異能を持つ恐怖を、しっかりと感じていた。
テンション高く、はしゃぐことで、誤魔化していた。
埋めて、できるだけ考えないようにしていたことを、ここで掘り起こされた。
出されて、直視してしまうと、もうダメだ。意識をしないことが、できなくなる。
この異能はなんなんだ!?
使う度になにか、代償でもあるんじゃないか!?
「大丈夫」
御花の声で、陸の体の震えが止まった。
なにもかもがいきなりだった。震えていたことに気づいたのも、震えが収まってからだ――御花が、ぎゅっと抱きしめてくれたのが、震えが止まるきっかけだったのだろう……。
達海が少しむっとしていたが、陸からしたわけじゃない。……これは不可抗力だ。
「その異能は、お姉ちゃんがなんとかする。不安を、絶対に消してあげるから。
――だから約束してね。もうこれ以上、異能を使わないって」
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