第7話 異能者が揃う

 ……正直、あまり覚えていない。

 なんとか思い出してみれば、そういえば、確かに大人のおもちゃを使って、女の子をいじめていたような……、——なんて夢だ。

 自己嫌悪したくなるほどの思春期の思考だ。


 しかも、ぱっと出てきた相手の女の子が、森だった……。

 実際に夢の中で、マッサージ機を当てていたかどうかは、置いておくとして。


 いま浮かべてしまったことに、赤面する――。


「なにを考えてんだ?」

「な、なんでもねえよ! ……あれだ、おもちゃを使った夢だった気がする……。天也と俺のパターンを考えると、夢に関する異能が発動したって、ことだよな……?」


「じゃあ、達海はどんな夢だったんだ?」


 天也の声。

 お前、どこにいる。


「ここだよ、ここ」


「分かるか。きちんと場所を言え。というか、その異能、もう切れよ」


「やり方がまだ分からないし、

 もしも切って、二度と透明になれなかったら嫌だからこのままでいる」


 貧乏性なのだろうか。

 まあ、失うつらさを知っているので、否定はしない。


「オレは、そうだな。これと言って、言うべき点ってのはねえんだが。強いて言うなら、相手を満足させやすくする薬を使った遊びをしてたな。……正確には薬でもないんだが……」


 ただ、それに近いものではある。


 ここまで三人が、揃えたようにえろい夢を見る、というのは珍しくはない。

 えろくない夢を見る方が、逆に珍しいのだ。


「となると、達海の異能は、相手を『満足させやすくする』とか、そういう類のものだろ」


 天也がそんなことを言う。

 安易過ぎるだろう……、三馬鹿の中、二人が異能を持ったからと言って、じゃあ残りの一人も持っているとは限らない。二人がおかしいだけなのだ。


「でも、この流れで達海が異能を持ってねえってのは、期待はずれだよな」


「期待するなよ。オレはお前らほど、えろに突き抜けてはねえんだよ」


「「どの口が言ってやがんだ」」


 陸に言われるならばまだしも、天也にまで言われるとは。

 お前も同様に突き抜けているだろうが、と内心で吐き捨てる達海。


「んー、そうだな……三人の能力を合わせたら、なんか面白いことができそうだよな」


 えろいことに偏りそうだけど、と陸が言う。


 またこいつは、きっかけを作りやがって――、と思いながらも、面白そうだなと考えている達海もいる。そして天也は、そんな陸の言葉を受けて、


「――ふはっ、ふははははっっ! 面白いことを思いついちまったぜ!」


 透明になっていて、どこにいるか分からない天也の高笑い。そして宣言。


 同時、四時間目が終了するチャイムが鳴り響く。



「聞けお前ら! お前らはおれのために働いてもらう!」

「いいぜ。一週間、えろ本を譲れよ、それで協力してやる」

「俺もそれでいいぜ」


「なんなの!? メリットかデメリットかで動くなよな、もーっっ!」


 じゃあお前は給料なしで働くのか? と質問されて、当然のように、平然とした顔で「働くわけねえじゃん?」と言う天也。……ぶん殴りてー、と二人が思う。


「いやいや待て待て! この昼休みという時間を有効に使うんだよ! 

 お前らにだってメリットがあるんだぞ!? というか、これで飯以上に満足できる!」


「姉貴の飯以上に満足……、あるかそんなの?」

「ねえけど! でも……それに近いもんだっての!!」


 とにかくだ! と天也。


「一回、おれの話を聞け。聞けばお前らは必ず、協力したくなるはずだぜ?」


 と、不敵に笑う天也。どうやら自信満々らしい。

 その顔こそが、不安になる最大要素なのだが……、まあ聞くだけならタダだ、と陸と達海は互いに見合って、結論を出す。


 そして、思いついた面白いことを天也から聞き、二人はなるほど、と頷く。


「確かにそれは、満足度が高いな」


「スリルがあって面白いな……ただ、」


 二人が声を合わせる。


「「――てめえだけが役得なのがムカつくッッ!!」」


「まあまあ、そこはおれが目に焼き付けておくからさ」


 そんな言葉で納得できるはずもなく。結局、天也は自分のメリットのため、二人に一週間、では長いので――、三日間、えろ本を譲るという約束をした。


 スカスカになった財布のことを考え、しょんぼりとするが、

 これからのメリットのことを考えれば、まあいいかと納得できた。


 後悔はない。

 見た目以上に、天也はこの役を、最高のものだと理解していた。


 しかし、問題があった。


 突然、発現した三人の異能を使い、目的を達成させる作戦なのだが――、

 天也と陸が異能を発動できたのは、偶然だとしても、この目で確認できた。


 だが、まだ達海の異能は確認できていない。


 見た夢に関係する異能が発動していると予測を立て、達海の異能は、『相手を満足させやすくする効果』が出せる、と考えてしまっているが、もちろん、違う可能性もある。

 そもそもで、異能など発現していないかもしれない。


 そうなると、作戦に支障が出る。天也だけはそう考えていた。


「いや、なくても問題ねえだろ。あれば、そりゃこっちも助かるけどさ」


「いーやっ、なきゃダメなんだ! これがないと始まらないんだよっ!!」


 膝を曲げ、拳を地面に叩きつける天也。

 透明になっているのでなにをしているのか、二人には見えていない。


「どうする? ぶっつけ本番でやってみるか?」


「異能なんて、オレにはねえと思うけど……、あると前提して。もしも違う異能だった場合、発動してお前らの邪魔をしちまう可能性があるんだ。

 きちんと確認するまでは、動かない方がいいと思うけどな」


「それもそうか……」

「んなことしてたら、昼休みが終わっちゃうよ!?」


 たぶん、超至近距離にいるのだろう。

 見えていなくとも音はある。息遣いが鬱陶しい。


「この昼休みがチャンスなんだぜ!? このチャンスをお前らは逃がすのか!?」

「いや、明日でいいじゃん」


「それまでおれは透明なのかッ!?」


 あー、そっか、と陸は納得した。

 いや、でも待てよ? と提案する。


「別に誰も困らねえよな? 逆に人のためになってるよ」


「おれが透明のままでも!? 視界から消えろって言ってんのかお前はっ!!」


 陸の胸倉が掴まれ、真上に持ち上げられた。達海から見たら完全にホラーだ。


「冗談冗談。俺らだって、できれば今日、決行したいけどさ。

 でもほら、達海の異能が上手く発動しないってんじゃなあ――」


「達海、気合いでできねえのかよ!?」

「無茶を言うなよ」


 お前らだって意識してやってるわけじゃねえだろうが、と愚痴る。


 なんだかんだと棚上げにされているが、現在進行形で透明になっている天也は問題なくとも、既に指先が電動マッサージ機になるその異能が切れてしまっている陸は、問題あり、と言ってもいいのではないだろうか?


「ああ、それは大丈夫だ、意識すれば、すぐにでも起動できるらしい」


 ヴゥゥゥゥゥッッ! と、指先が振動する。それだけではない。


「まだ正確じゃないけど、見えるもの……、見えていなくてもできるんだけど、俺の体以外も、振動させることができるらしい……。

 そうだな、たとえば――達海のブラジャーを振動させることもな」


「オレはブラジャーなんてつけてねえよ!」


 天也じゃねえんだから! とツッコむと、すぐに「おれもだよ!」と訂正があった。


 ああ、そこにいるのか、と位置を把握。


 すぐにとことこ、とどこかにいくから、把握がしづらい。

 小さい頃、家族でショッピングモールへいった時の陸と天也である。


「ん? なんだよ達海、いきなり肩を触って」


「ちょっと、実験をな。

 陸は、意識するだけでできたんだろ? じゃあ、オレはどうなんだろうってな」


 考えられる異能が、相手に変化を与えるもの――。

 言い方を分かりやすくしよう……、【敏感】。


 感覚を強化するものだとしたら……、

 天也を少し小突いただけで、大げさなリアクションを取るのではないか?


 感覚を強化させることを意識しながら、達海は強めに、天也の肩を拳で小突いた。

 通常ならば、痛くも痒くもない一撃だ。小鳥が肩に乗った程度のものだろう。


 なのに、天也は、

「ッッ、痛ぇぇぇぇぇぇえッッ!?」と、大声を上げて地面に倒れた。


 がんッ、がんッ、と近くの壁にぶつかっている音を聞くところ、転げ回っているらしい。

 その際の衝撃も、感覚が強化されているので、悪循環になってしまっていると思う。



「嘘、だろ……?」


「これで達海も異能者だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る