第3話 イタズラの犯人は?
多くの女生徒が、奇妙なイタズラが起こっていると生徒会に訴えてきたのが二日前。
ある程度の被害が連続して起こり、学内でもそこそこの話題にならなければ、女生徒がまとまって訴えにはこないだろう……、たった一人、被害に遭ったのならば、奇妙だと思っても気にしないで放置してしまう可能性が高い。
それか、助けを求めずに塞ぎ込んでしまうか。もしかしたら、不登校のような事例は今のところ確認されていないが、内心、それくらい不安に思っている生徒がいるかもしれない――。
思っている以上に、深刻な事態になっているかもしれない――、と御花は気合いを入れる。
訴えにきたのが二日前。
ということは、実際に、初めての被害が出たのは四日前くらいだろうと御花は予想する。
訴えにきた生徒へ聞き込みをしている内に、その予測が見事に当たっていることが判明する。
ただ、最初の被害を受けた生徒がこの場におらず、そもそも訴えず、放置している可能性もあるが……。この場にいる女生徒の中で、一番、古い被害に遭った生徒は、四日前の昼休み――。
友人と昼食を食べている最中のことだった。
「そ、その……あの、ですね……は、はつ、じょ、うを、してしまって……」
……はい?
生徒会長でもぽかんとしてしまうことがあるのだ。
一応、聞き返す。
「はつじょう……発情?」
「ごめんなさいっ、変なことを言ってしまってっ! でも、言った通り、でして……」
恥ずかしそうに、女生徒がそう告白する。
発情してしまう……、よくぞ言えた、と褒めたいものだった。
ようするに、思春期だからこそ、大人の階段を上りたくなった、ということだろう。
自然なことに思えるけど……、
そうでないなら――もしも理由があるのなら、なにが原因で?
外部からの刺激だとしたら、どういう手段で?
「わ、分かりません……、あの、そのっ」
顔を真っ赤にする女生徒。
……生徒会長も、顔を真っ赤にしてしまうのだよ?
「……なんだか、気分がスッキリするというか、がまん、できなくなって、しまって――お昼ご飯を食べていながら、その、小さいですけど、声が出ちゃって……」
お昼休みになに発情しているんだ――、そんな視線を集めてしまったらしい。
クラス内で発情女子のイメージが固まってしまったことは、女生徒の中では大きな傷だ。
自分は決してえろいわけじゃないのにっ! 奇妙なイタズラ(と言えるのか?)のせいで、そんな風に思われたら、言い過ぎでも、やはり死にたくなってしまう。
不登校になってもおかしくはない深い傷だろう。
「安心して、大丈夫よ。私がどうにかして、解決するから」
「――ほ、本当ですか!? あの例の三馬鹿を、捕まえてくれるんですか!?」
あの三馬鹿のせい、というのは共通認識になっている。
……不運過ぎて、お姉ちゃん泣きそう。
今までのおこないを考えれば、当然とも言えるが。
「まだ証拠がないから、それからだね」
女生徒たちは、——絶対にあいつらだよ! と確信的だったが、やはり、そうでなかった時のことを考えれば、証拠もなく強行突破はできないだろう。
証拠はあるのか? と確実に言われるだろうし。
まあ、その発想が出てくること自体が、犯人である要素だ、とも言えるわけだが。
いや、まだ弱いか……ともかく。
……でも、どれだけ怪しくてもやっぱり大事な弟たちだ。すぐに捕まえたくはない。
それでも、話だけでも聞くことはしないといけない。
できれば、一緒に解決を手伝ってほしいとも思っているし――。
イタズラばかりしている彼らだけれど、同じくらい人助けだってしている。
そこは姉として、生徒会長として誇れるところだった。
そして学園側も。
それがあるから、切りたくても切れない存在になっている。
あれだけの問題行動も、人助けも、普通の人はできないだろう。
彼らだからこそ、マイナスもプラスも持っている。
まあプラスマイナスゼロではなく、結果、マイナスなのだけど――。
「どれだけ他者から罵られようとも、私にとっては自慢の弟よ」
例の三馬鹿と呼ばれる弟たちと接触するために、本格的に動き出した生徒会長。
そこから時が巻き戻され――、四日前。
確認されている限り、第一の被害が起こる、その直前のことである。
女性の胸やお尻というワードが飛び交う授業風景は異常ですか?
授業参観にきた親御さんや中学生の見学者ならば、
その問いには間違いなく、イエスと答えるだろう。
だがこの学園、この教室内にいる者に問えば、
「……え? なにかおかしいの?」と首を傾げられるだろう。
よくよく考えてみれば、おかしいことだ、というのはすぐに分かるのだが、よくよく考えなければおかしいと気づかないその思考まで狭まってしまっているほどに、クラスの生徒は彼らに染められている。
例の三馬鹿によって、影響を受けている。
当然、悪影響だ。
クラスだけでなく、学園全体が、そういう授業風景に違和感を抱かないという状況は、はっきり言って、おかしい。
おかしいのはみんなの頭、ではなく。
すんなりと影響を与えてしまう、三馬鹿の方だ。
外部からきた者は、当然、最初はこの状況を気味悪がるのだが、たった数時間程度——あの三馬鹿と一緒の空間にいるだけで、あっという間に染められる。
えろが、常時、開けっ放しにされているこの状況が、違和感ではなくなる。
だからこそ現在、教室の後ろに意図的に集められた三馬鹿が、各自で買ってきた『えろ雑誌』を広げて立ちトークをしていても。
生徒だけじゃない、先生さえも、淡々と授業を進めているのは、いつも通りの風景なのだ。
いや先生は注意しろよ、とは、三馬鹿でもそれぞれが普通に思うが。
意外にも影響を与えた張本人こそが、一般的な思考に最も近いという皮肉だった。
(まあ、姉貴のおかげなんだろうけど。でもさあ、びびり過ぎじゃねえのか?)
雑誌の袋とじの隙間を広げながら、陸が思った。
平均的な体格。いや、少し、細身か。
普通にしていると鋭く見える目つきは、一部の女子には受けが良い。
髪も最低限は整えていて、ワックス不要のさらさらヘアーだった。
黙っていれば格好良い部類に入れるもったいない男子である。
陸だけでなく、三人に共通することだが、顔はそれなりにイケメンの部類に入る。その場でなにもせず、唯一、ただ心臓を動かしていればモテそうなものだが、言動や趣味嗜好で、まったくモテなくなる、残念な男子たちである。
陸は、三馬鹿の中では普通、と評されることが多い。
ただし三馬鹿の他二人と比べれば、の話である。
一般人の中に投げ込まれれば、周りがあっという間に引いて、彼一人が中心地点にぽつんと残される、というのは、当然の結果だと言える。
しかし、発想の陸と言われる辺り、問題のイタズラや、論争の火種など、きっかけを作っているのは、基本的に陸であった。
三馬鹿の中で一番普通であっても、歯車であり、中心地点であり――、
なんだかんだと三人の中でリーダーのように振る舞っているのは、彼だ。
三馬鹿の中では目立たないパーソナリティーを、
三馬鹿をまとめるリーダー役を無意識におこなうことで補っている。
なので、三馬鹿の中で最も、存在感が薄い、という認識はまったくない。
当然のように、毎回、不幸な目に遭っている結果は、学内全体に隙間なく拡散されているので、中でも一番、有名とも言える。
三馬鹿の中からまず誰かを挙げるとすれば、とりあえず陸を挙げるところから始まるほど、生徒からの認知度は高い。
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