【注11】エルフの一撃
エルフという言葉から、あなたはどんなものを想像するでしょうか。
おそらく、多くのものが美しい外見で、耳がとがっていて、弓術に長け、森林を愛する長寿の亜種族を皆さん思い浮かべるのではないかと思います。
決して間違ってはいません。トールキン教授によって広義の妖精を表す言葉だった「エルフ」は、特定の数種族を示す言葉となり、『D&D』などのロール・プレイング・ゲームやその後のコンピュータ・ゲームの隆盛により、上記のような特徴を持つ種族の名称として一般に浸透しました。
しかしながら、ファンタジーというジャンルは自由であるべきです。
ファンタジーの持つ力の最も尊ぶべきは「幻想性」、つまり空想の羽をどこまで広げられるかということだと私は考えます。
少なくとも、「エルフとはこうあるべき。こんなのはエルフじゃない!」という考えは捨て去るべきです。私はこの作品に、人間の身長よりもはるかに小さい種族に「エルフ」という呼称を与えました。ですが、これはエルフのナルタリスが新宿の街角で康一郎に出会ったときに自分を紹介するために使った言葉というだけで、現地ではそう言っていないかもしれないのです。
レイモンド・E・フィーストのエピックファンタジー小説『リフトウォー・サーガ』では、elfを「妖精族」と訳していました。これは非常に興味深い試みだと思います。読者の受け取り方次第で、物語により一層の異世界感を抱かせることができるかもしれません。ただ、肝心のシリーズ名がカタカナなのは個人的に残念なところではありますが。
ですから、人間の女性に欲情するオークやゴブリンが出てくる作品があるとしても、私は批判しません。その世界ではそうなのでしょう。
スコットランドや一部イングランドでは「エルフの一撃(elf shot)」という言葉があるそうです。自身に起きた病気や思わぬケガが、妖精の仕業によって引き起こされているのではないかという民俗伝承に由来するものだそうですが、そのようにエルフという言葉が昔からの生活に組み込まれている国の人たちの心情が、近代の創作物の干渉によってどのように変化していったのか、興味深いところではあります。
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