【注1】北方の野蛮人
ヒロイックファンタジーというジャンルの元祖はロバート・E・ハワード著の『英雄コナン』シリーズです。
北方生まれの野蛮人コナンが剣一つを頼りに奇想天外な冒険を繰り広げ、やがて一国の王となる一大叙事詩です。
〈剣と魔法〉の世界観においても、とても強い大男の戦士はファンタジー作品に欠かせない要素の一つですが、あまりにもスタンダードな存在なのか、日本ではあまり支持を得ることがないような印象です。
日本のファンタジー市場を形作る大きな要素の一つであるゲーム業界においても、ファンタジーゲームの先祖として『指輪物語』をとりあげることは多いですが、『コナン』に言及する向きはあまり目にしたことがありません。
間違いなく現在のファンタジー文化の礎となった作品ですが、日本で(海外でも?)あまり評価されない状況には、個人的には不満を感じています。現在創元推理文庫から新約版が出版されておりますが、絶版の不安もありますね。
元祖にして至高といいますか、とにかく面白いので興味を持った方は是非読んでいただきたいと思います。
『指輪物語』の世界設定の細かさと『英雄コナン』シリーズのヒロイズム、この2つをもって現在のゲームや小説をはじめとするファンタジー作品の基本は成り立っているように考えています。
さて、野蛮人とはいいながらもこの種類の主人公にはいくつかの共通した特徴があることが多いです。
超人的な体力と戦闘力を持っていることはもちろん、意外かもしれませんが思慮深さと知性を持ち、複数の国を渡り歩いても困らないほどの言語能力を備えていることが多いです。文明圏とは違った価値観を持っており、己のルールに従って生きてはいますが人の感情が分からないわけではなく、時には命を懸けた人助けも厭いません。
非常に魅力的なキャラクターであることが多く、ファンタジー作品の最大の武器ともいえる非日常を演出するために大変使いやすい素材であるともいえるでしょう。
『グイン・サーガ』の主人公、グインもコナンのオマージュから生まれたキャラクターです。作者が公言しているのでこれは間違いないでしょう。
グインは非常にバランスの取れた、日本人好みのヒーローです。コナンの超人的な身体能力に、優れた洞察力と知性、優しさと義理人情を加えたような非の打ちどころのない好漢でした。
なんというか、主人公を信頼して、完全に安心して読み進められる作品というものはとても良いものです。最近はハリウッドでもTVドラマでも、必ず(視点側の)裏切りやどんでん返しを含ませないと成立しないのかと思うほど安心してみられる作品が少ないですが、グインは最初の数ページを読み進めた段階で「ああ、この英雄に自分は完全に心を預けてしまってもよいのだ」ということが感じられるのです。
コナンシリーズに比べて書店などで出会える機会は多いと思いますので、ぜひ手に取って読んでみてください。作者が他界してしまったので本当の意味での完結はしていないのですが。
ファンタジー作品にはさきほどの「己のルール」が往々にして現れ、読者にある種の違和感を感じさせることも多いかと思います。そのことが作品として表現するにあたり、良い意味でのスパイスとなるのか蛇足になるのかは作家のバランス感覚が問われるところですが、これは別項の注釈でまた書かせていただきたいと考えます。
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