鉄屑となった、アルトワークス

状況を聞いたとき驚きもあり、気分も悪くなり、吐き気もした…なぜ?なぜこんなことになったのか…

森先生に呼ばれて保健室でメディカルチェックしてる時に、奈緒ちゃんから電話が来た

絶対に練習場に来るなと…リリス先輩が練習中ブレーキが作動しなくなりガードレールに突っ込んだとのことだった

幸い意識は戻ったものの、右腕を折ってしまう重傷

思い返してしまう、あの日ホークマンが死んでしまったあの光景と事実を



数時間後

喫茶店 たかのす

商店街から少し離れた場所にあり、レトロな感じで昔ながらの喫茶店という感じの店、そして私の自宅である

日は沈み、辺りは暗く、店仕舞いしてるような時間帯


店には私、リリス先輩、杏奈先輩。殆ど貸し切り状態だ


「とりあえず、今回の事故は私の操作ミスによる自損事故」


右手首にはギブス。痛々しい姿のリリス先輩…


「でも先輩がそんなミスなんてあり得ませんよ、ましてやホームストリートから次にスピードが乗る直線でノーブレーキなんて…」

「そうね、確かにあり得ない。だけどそうせざるを得ないのよ、ブレーキが効かないなんて言ったらstGT運営委員会の調査が入る。整備不良による事故と判断されたら出場停止は免れない」


stGTの参加において、整備の項目はかなり重要視されており重い処分をくらうチームは少ない


「リリス、私はいつも走行前にECUに端末を繋いで各種センサー、安全機能のチェックを行なっているわ。そして今日も問題はなかった。リリス、ブレーキ操作が効かなったのも問題だけど、セーフティー機能は動かなかったの?」

「stGTに参加するチームはstGTが定めたセーフティー機能OSの搭載を義務であり、練習時も必ず機能をONにする。大概なら壁に近いだけでも警告音、重大事故になる場合は緊急自動ブレーキが作動する。だけど私の場合はどれも機能せずブレーキ操作を拒絶された」


淡々とリリス先輩は答えるが、もしこれが自分なら…

杏奈先輩もそう思ったのか


「よく冷静でいられるわねリリス、普通なら落ち込んだり塞ぎ込むものでしょうが」

「ハンドルを握る以上そういうことはあるって、ドライバーとして腹は括っていたのも」

「そういうことじゃない、わかっているんでしょ!?嵌められたってことぐらい!あの教頭に!悔しいとかそういうのはないの!?」


顔色を変えず、淡々と冷静に喋るリリスに怒鳴る杏奈


「私は悔しいよ、1年生の頃からあのアルトワークスでメカを見て、触って、オイルまみれになって、先輩達から引き継いできた車をあんな人間に壊されたのよ!」

「現時点で証拠がない以上、教頭先生を責められない…車を壊したのは結果的に私よ杏奈、恨むなら私を恨みなさい」

「恨める訳ないでしょ…!リリス…あの時、もし何か変化に気付いていれば、私は友だちにこんな痛い思いもさせなかった…車も友だちも傷つけられて…」


杏奈先輩は涙目になり、リリス先輩も黙り込んでしまった


「リリス先輩、これからこのチームはどうなるんですか?」

「アルトワークスは箱崎自動車に入ってるけど、あのダメージだともう使い物にならない、stGTに出るなら新しい車を用意するしかないけど、予算的に最新の車を入手は難しい。仮に用意できたとしてもチューンアップが間に合うかどうか・・・」


stGTの地区予選まで残り3週間切っている、数日で仕上げた車でましてや慣れてない車で勝てるほどstGTの試合は甘くない


「それにこの右手じゃ、私は運転できない」

「一ヶ月以上安静にって言われるのよねリリス…」


詰みである、手を打つ方法が浮かばない


「やれやれ、いつもワイワイ車で盛り上がってる女の子達がそんな顔してたら美人が台無しだよ?」

「お父さん…」


中年ぐらいでガタイが良い喫茶たかのすの店主、結衣の父親、鷹見裕司が3人にコーヒーを配りながら話に入ってくる


「まだ諦める雰囲気になるには早いんじゃないかな?」

「でもお父さん、走る車もないんじゃ…」

「でも全てが壊れた訳じゃないないんじゃないか?機関部さえ生きていればコンバートという形も出来るんじゃないか?絶望に嘆くより、希望を模索する」


穏やかに、優しく語る裕司


「コンバート…駆動系とエンジンが無事なら、でもアルト系は安価で手に入るかも知れないですけど、まともなベースになるアルトなんてそうそうないですよ。もう何十年も前の車ですし、結構雑に扱われてる車が多いし、それがボディ補強に耐え切れるかどうか」

「そうかな?案外身近にあったりするかもよ」


杏奈の回答に対し、裕司はなにか意味深なことを喋ると喫茶店の駐車場に一台の車が来る


「K6型の3発…スズキ系の車、それにこれは23V型商店街の酒屋の車だ。はてさて何用かな、もう店仕舞いだってのに」



数時間前に遡る 

蒼鷹高校自動車部練習場


無残にボディが大破し、タイヤと足回りがありえない方向に曲がってしまったアルトワークス

ガードレールをぶつけて減速しつつサイドブレーキで図った形跡を見るとリリス先輩の判断力の速さと覚悟…咄嗟にできるもんじゃない。

それよりもリリス先輩がどうして部長なのか、どういうドライバーなのかよくわかった気がする

マジで、公立校でこのレベルのドライバーがなんでいるんだろうと不思議に思うぐらい


「なあ、奈緒。項垂れて感傷に浸ってる暇があるなら、積載車が運びやすいように破片とか片付けないと」

「わかってるわよ、なんであんたがいるのよ多田!」


ギッとラッシーチームの多田を睨みつける


「徹也と優輝の二人だけじゃ、男手が足りねぇだろうが。それにな…今はチームが違うとは言え、このアルトワークスを1年間見てきたんだぞ?愛着はあるよ」


メカニックなりの愛着、よくわかる

優輝、奈緒、多田、徹也。4人で練習場を整理する


「なあ優輝、この車、お抱えの整備工に入るんだよな?どこに行くんだ?」

「箱崎自動車、僕とお姉ちゃんの自宅です徹也先輩」

「お?車屋育ちなのか君ら姉弟。オレと同じか…それにここのお抱えなのか…ふむ、ということはある程度は融通は効くか…」

「…?」


アスファルトにブレーキで減速をした形跡はない、この状況を考えるとしたら制御不能に陥ったか

速度が乗った状態からブレーキが効かなくなる症状、確信はない。だが、ECUによる細工だとしたら心当たりがある

一昔前…というより、ナノマシンを採用された車のECUはかなり高性能化している

なにせ大きさは、スリムデスクトップクラスのサイズになっている程

逆に超高性能故にそこに目を付けらた事件、事故が起きていた。

制御系統を破壊されれば車は鉄屑化する。走行中に制御が破壊されれば最悪の殺人凶器となる

とは言え、メーカーも過去の事例からそれに対応したウィルス対策、バグ対策を取られている

それどころか制御系統やシステムがどこか破壊されれば何重にもあるセーフティー機能が真っ先に働き、対策がとられている。

だが隙がない訳ではない、事例のないウィルス等であれば…いや、この状況を起こすものがかつてあった、それの改良型というべきなのか…

しかしの憶測が外れていて欲しい、特に今回の件はヒューマンエラーという形による事故の方がいい。

故意的な原因のECUによる細工である事故だとすれば殺人、殺人未遂としての案件でありstGTに参加どころの話じゃなくなる。

今考えても仕方ないがことなのだが教頭の仕業なのは間違いない、ここまでやるか?


「徹也先輩?なんか凄い怖い顔になってますよ…」

「?…俺そんな顔してたのか」

「お姉ちゃんがアームロックを仕掛ける時より、殺気のようなものを感じますよ…」


優輝に言われて、我に帰る。というか優輝、それは奈緒に失礼なのでは

殺気が出ててる程か…


「いや、アルトワークスの乗り手と作り手の気持ちを考えればな…過ぎた事を考えても仕方ないか、事故処理とか先生とかが考えるだろうし、今とこれから出来る事を考えないとな…」

「今とこれからですか?でも、アルトワークスがあの状態じゃ僕たちが乗る車がないんじゃ…」

「悲観に捉えるには、まだ早い気がするけどな…」


アルトワークスの元に行き運転席側にあるボンネットオープンレバーを引っ張る

歪んだボンネットのエンジンルームを露わにする

優輝、奈緒、多田もアルトワークスのところに集まり、エンジンを見て驚く


「すげぇドライバーだよリリス先輩、俺でもこんな芸当はできないよ」

「車体がこれだけ大破してるのにエンジンと機関部が殆どダメージを負ってない…」


戦う力はまだある。必要なのは意思と行動だ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る