ハイウェイウィルス
蒼鷹高校自動車部練習場
箱崎自動車の積載車及び箱崎父到着
多田と勇気は上村先生に報告の為学校に居残り、奈緒と徹也が一緒に箱崎自動車へ
積載車 車内にて
「ほー…君が徹也君か。奈緒から話しは聞いてるよ、入部早々災難というか」
「災難なのはリリス先輩とこれの制作に携わった方々ですよ。リリス先輩は命に別状がないとは言え右手首の骨折の重傷、それよりもドライバーとして車を壊したというのは自分が怪我をするよりも精神的にダメージが…」
「あー…気丈に振る舞うだろうな、そういうタイプだよあの娘は」
気丈にか、見るに耐えないかもしれないが…確証はないが、疑問はある
「ねえ、お父さん。アルトワークス…また走れるかな」
奈緒は恐る恐る聞く
「…時間をかければまた走らせることはできる」
「それじゃあ…」
奈緒の表情が少し明るくなるが、箱崎父はきっぱり続ける
「だが、フレームがここまで逝ってしまった車は直した所でまともに走る保証がない。板金とかそんなレベルじゃない、いつどこでまともに走れなくなる車を2度と人を乗せて走らせる訳にはいかない。ましてやstGTや競技はもってのほかだ」
「私が将来責任持って乗る!」
そう言う奈緒に、一層表情が険しくなる箱崎父
「一度握り潰した紙とか、綺麗に戻そうとしてもシワクチャだろ?あのアルトワークスがその状態だ。信頼できない状態の車を乗るだと?馬鹿を言うんじゃない」
箱崎父は怒鳴る訳ではないが、奈緒に言い聞かせるように言う。
「人を乗せて走るというのはお前だけじゃない。周りの命の責任を負う覚悟も乗るんだ、道路というのはお前だけのものじゃない。徹也君、その辺はドライバーである君は尚更理解してる筈だ」
こちらに話を振ってくる箱崎父
「…ハンドル握るたびに思いますよ、容易く人を殺せる機械に乗っている事実、最も身近で最も恐ろしい凶器なんだって」
「車のメカニックとして凶器なりうる車を世の中に出してはいけない、メカニックはメカで人を殺してはいけないだ…お前は、結衣ちゃんを殺したいのか?」
そこまで言うと、奈緒は静かに泣き出す。
箱崎父は優しく言う
「奈緒、お前の気持ちは痛い程わかる。十年間このアルトワークスの面倒を見てきた俺も辛い。かけがえの無い親友が死んでしまった感じでな…だけどな奈緒、メカニックとして割り切らないといけないんだよ、車の死を、キッチリ引導を渡さないといけないだ」
箱崎自動車 整備工
規模としては個人店の町の中古車屋、表に中古車が数台程で中古車屋としては少ない。販売より整備、修理、板金がメインだろうか、充実とした設備がそれを物語っている
「マジで機関部ほとんど生きてやがる。こんなことあるのか…」
整備工の端っこに置いたアルトワークスのエンジンルームを見て何十年も車を見てきた箱崎父も驚く
「箱崎さん、まともな報告する気はないですよね?」
「ふうむ…コンバートできるなら、stGTにはドライバーのミスで通すしかないだろう、これでstGTの運営委員の調査とか入れば時間がかかる。それこそ本当に予選に出る前にこのチームは終わりだ」
「そうですか」
「…不良整備士」
「奈緒。それ以上はいけない、お父さん泣いちゃうよ」
本来だったらそんなことしちゃいけないんだが、融通が効くのは助かる。不良の整備工でよかった
「箱崎さんECUのチェッカー端末ってあります?」
「うん?あるよ、そりゃ」
「ECUに繋いで貰っていいですか?」
箱崎父はECUを車から取り外し、チェッカー端末を繋げる
エンジン 正常
ミッション 正常
ブレーキ 正常
サスペンション 正常
排気系統 正常
安全機能 正常
ECU 正常
端末が示した液晶にはこのような表示だったのだ
「な、なんだこれ…!?」
「お父さん…これ一体どういうこと!?」
箱崎父と奈緒は驚く、なぜなら車から取り外したECUはこんな表示はしない
正常であるなら
エンジン 接続なし
ミッション 接続なし
ブレーキ 接続なし
サスペンション 接続なし
排気系統 接続なし
安全機能 接続なし
ECUユニット 正常
本来ならこのような表示になるはずなのだ、にも関わらずこのECUは全てが正常表示という異常事態は起きている
嫌な予感はどうやら当たったようだ、今回の事故の元凶が
「コンセント借りていいですか?」
「ああ、構わないが…」
バックからノートPCとタブレットを出し電源を繋げ、ECUをノートPCに繋げる
ECUのプログラミングシステムと共に対ウィルスシステムを立ち上げる
「い、いつもそんなもの持ち歩いているの徹也?」
「本当はこんなことで使うつもりはなかったけどな」
カタカタとキー入力してる姿を見て
「まじかよ…おれでもECUはそこまでできねぇ、やっぱ若い世代にはこういうのは強いのかねぇ?」
「前の学校だと車の製作からECUとか、AIのセッティングまで生徒がやってましたし、俺自身電子機器専門の奴と絡んでたお陰とかで勉強してたんでこういう分野は得意なんですよ…なるほど」
ECUを解析し、見つけだせた。
「リリス先輩ましてやメカニックの問題じゃなかった、このECUはウィルス感染してる。それもタチが悪いやつだ…」
「ウィルス?でもそんなものじゃ事故を起こすものって・・・」
「…ハイウェイウィルス」
「おいおい冗談だろ?その手のウィルスは現在のECUに通用しない奴だそ?」
奈緒は「?」という表情だったが、箱崎父は反応していたそのウィルスの名前に
「1990年代、ナノマシンオイル対応したECUが出始めた頃に、一部のメーカーの車に細工された電子ウィルスの通称だ、100km/h以上の速度とトンネルの音響に反応して車が制御を失い暴走する最悪のウィルスだ。高速道路でよく発症するからハイウェイウィルスと…徹也君、よく知ってるな、君も奈緒なんて生まれる前の出来ことのはずなんだが」
「電子機器に関わっていればその名前は聞きますよ、それにこのハイウェイウィルス本質はほとんど同じだけど発症する条件と効力がパワーアップしてる代物だこれ、本来のECUにはこのタイプのウィルスは通用しなくなってるはずなんだが、こいつはプログラムのあらゆる所に名前を書き換えて潜伏し制御不能状態に陥りさせる。音響ではなく速度で発症するようになってやがる。改良型のハイウェイウィルスって所か…チェッカー端末に引っかからなかったのは条件が揃ってなく…いや、端末ごと感染するのか」
「端末ごとって…ちょっと待って、じゃあさっき繋げたこの端末は…」
先程、感染したECUに繋いだ端末を見る奈緒
「後で治しておく、端末なら治せそうだがこのECUはもう使い物にならないな…基礎のプログラムも破壊されてる」
「繋いだけでウィルスに感染する…どこで、一体誰がこんな細工を」
「そんなのあの教頭以外考えられないよ…!」
奈緒の意見に同意だが…どうにもこの事故といい、細工…そしてあの教頭先生に疑問がある、あまりにも腑に落ちない所が気になって仕方ないのだが…
「だとしてもな奈緒…ハイウェイウィルスを現在の技術のECUに仕込むなんて専門のハッカーですら至難の技だ。そんなアテがあるとは考えにくい」
「犯人探ししても証拠は上がってこないだろうし、問題なのは相手はこんな手段を用いてまで妨害する気があるって所だ」
ECUに細工は、相手は命を奪うの辞さないということだろう
「箱崎さん。ECUトによる電子ハックは本来ならstGTの運営委員どころか刑事事件の案件ですけど」
「お父さん…」
「…警察沙汰にしてしまえば蒼鷹自動車部そのものが存続出来なくなる可能性がデカイ」
「私、負けたくないよ…こんな卑劣な手段を用いる人、いやそれに与するラッシーチームに…!」
車を平然と傷をつけるヤツに勝負せず負けたくない…だが相手が悪い現実
「徹也君、君ならどうする?」
「他のメンバーがこの事実を知って、なお戦うことを選ぶなら戦う為の最善を今は模索したい。時間が惜しい…いくつか気になることはあるにはあるが…気にしても仕方ない」
箱崎父は、飽きられ気味に、だが嬉しそうにため息をつく
「なら、今ここにいるメンツだけでもやれることをやるか。奈緒、徹也」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます