四話 沖田は歓喜する。
「疲れてないなー」
自分のことを他人行儀で呟いている俺は窓から三日月を見る。
吸血鬼の姿になったときの魄愛様も素晴らしく、それを見たせいで目がギンギンだ。
机の角に置いた写真を見る、そこには俺の祖父と俺が笑顔を写っていた。
この学園に入ってから祖父とも会っていないし、この国の現在の情勢が聞こえてこない。そこが俺にとっては気がかりだった。
俺は祖父によって育てられてきた、両親は仕事で忙しいということから。祖父も仕事はあったみたいだけれども俺のことを優先してくれていた。嬉しかった‥‥‥もうこれ以上にしないと‥‥‥。
無理矢理にベットに横たわるが全く眠れる気配がしない。
仕方ない。
俺はそっーと廊下に出て外を目指す。防音があるからってマナーというものが存在する、だからこんな時間に騒がしくしていいわけがない。
忍び歩きをして難なく外に出れた。
のんびり散歩でもしようか。
赤褐色の道を歩いていく。
湿度が高くジメジメしている。もうそろそろで夏休みが明けるのに。
暗いが足元を電灯の光が照らしている。道から外れたら真っ暗だ。
ん?誰から向かい側から来た。
「こんばんわ、木宮さん」
俺は笑顔を作り、挨拶をする。
木宮か、こんな時間に戻っているんだ。しかし返事が返ってきたが俺は驚くことになった。
「本当なのか?!」
「ええ、魄愛様が仰っていたので」
木宮から話があるということで学園内にある公園、ベンチの座っていた。
そのベンチを照らすように外灯が光を当ててくる。
「よっしゃ!!」
「はぁ」
木宮は俺のことについてなにか思うところがあるのかわざとらしくため息をつく。
「明日からか?」
しかし俺は聞きたいことを聞いていく。
「いえ、明日はとりあいず放課後から私が魄愛様にどんなことをしているのか、見とけ」
ん?俺の聞き間違えじゃなければ最後、見とけってまぁ、立場として木宮の方が少し上だけれども‥‥‥そのことも気にしないでおこう。
「了解、わざわざありがとうな」
木宮は俺になにか思うことがあるのか俺への対応がひどい時もあるが、俺が倒れた時も気にかけてくれていたらしい。だから普通に良い人だと思っている。
「いえ、偶然会ったので、それでは」
木宮はスタスタと寮に帰っていった。俺は公園のベンチに腰をかけたままでいた。
この嬉しさが一時的に冷めるまでここにいよう。
私はドアを閉め、そのまま流れるようにベッドの上にダイブする。
魄愛様はなにをしているのか‥‥‥それ以上に納得しないのはあの男、沖田佑夜が魄愛様の従者となることだ。
沖田が倒れるその一瞬、私は見てしまった沖田の片目がおかしかったことに。
起きた時には治っていたけれども、あの目はどこか諦観しているようでなにかを悟った目だった、そして私はその目に見覚えがあったが沖田ではないことは現段階知っている。
だがその目は私のお父様を殺した老人の目にあまりにも酷似していた。
許せないとは強く言えない、だって戦死なのだから。
それにしても私は魄愛様に邪魔虫につかないようにしていたのに。
とりあいず明日も早いからもう寝ますか。
そうしてお風呂に入り、すぐに寝た。
「ふぁ」
今は何時なんだ?
「あ」
やばい!
俺はすぐに着替える、そして事前に机の上においていた菓子パンを咥えて校舎まで走る。
今日は補習はもうないが学園交流祭の面倒事を理事長という名のロリバァに押し付けられたのだ。しかも朝早くから。
「はぁはぁ」
「遅刻だぞ?」
「
校舎の裏門にいた、そこには理事長が俺のことを待っていたのだ。
しかも明らかなにかを考えているようで。
とても怖いです‥‥‥というか今回も建前なんていらないでしょう?
「いるさ」
あー、見透かされてますね分かります、これがいつも通りなのだから。
俺の本当の地位を知っているのはこの学園では理事長だけで、
「で、今回は?」
「城下町に遊びに行くぞ」
「は?」
「桜倉坂さん、ここ間違っているよ」
「すみません」
「気にしないで」
このドジな天使はなにをしてるんだ‥‥‥それにしても彼は‥‥‥彼をどう遊ぼうか。
城上さんの家から婚約の話が来ている、つまりこの話を受けるか否かで彼は大きく変わるだろう。
それにしても城上さんか出来すぎた妹を持ったせいで比べられ、そしてこうして縁談の話が来ている。城上さんはかわいそうだ、だってスペックは高いのにそれを上回る妹を持ったせいでこんなことになっている。
さて学園交流祭が夏休み明け最初の行事だしがんばりますか。
「沖田、ここで待っておれ」
「は?」
理事長はそう言い、とある店に入っていった、しかし俺は追うことはしない。だってこれがいつも通りだから。そう思い一人広場に残されて空を見る。
俺はバレてはいけない絶対に‥‥‥魄愛様いやあの時恋をした少女と会ってしまったから。
ああ、そうだ、俺はスマホを取り出して時間を確認する、今日は時計をしてくるのを忘れてしまったからである。
時刻はまだ午前中であり、昼食をとるにも早すぎる時間である。
「あ、佑夜」
聞いたことがある声が聞こえる、あいつか。
「どうした?」
声の主の方に向くとやはり
「こんな時間にきているみたいだけどなにをしてるの?」
「いや、それをいえばあんたもなにをしているんだ?」
「質問を質問を返さない、私は買い物にね‥であんた」
「俺は‥‥」
どうしようか‥正直に理事長に付いてきたと言うべきか?‥‥‥いや違う。あのロリババアとこうして視察してきたことをバレてしまう可能性がある。だから俺は別の嘘を自分につかなければならない。
今の状況を見ると、俺は明らかに誰かを待っているように見えるのだろう。
「この城下町の散策にね‥‥さすがに夏休み、補習を受けて、そして寮から出ないで篭もって夏休みが終わりましたってなったら悲しいから、せめて城下町でもぶらぶらと散策しようかなって」
あれ?なんか言っていて虚しくなってきた。なんで俺こんなにも補習受けているんだろ?
「可哀想だね」
「同情するなら金は‥‥‥いらない」
「いらないのかい!じゃあ」
咲耶は去っていく。
あ、そうだ。俺は咲耶が背を向けて歩いているところを後ろから伝える。
「魄愛様の従者になれたから」
咲耶が聞いているかはわからない。でも‥‥‥咲耶はピッタシと立ち止まってしまう。まるで予想外のことがあったかのように。
「沖田、行くぞ」
さきほどの店から理事長が出てきて声をかけくる。
「わかった」
すぐに歩き始めた理事長の後ろ姿を追いかけて行く。
だから俺は聞き逃した。
‥‥‥たった一人の少女の心の叫びを。
―はぁぁぁあああああああ!!?佑夜が!!魄愛様の従者!?そんなことあるのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!
訳ありの俺は国籍バレしたら終わりの学園で昔会った吸血鬼に恋をしている。 隴前 @rousama
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