二話 沖田従者争奪戦①

 あのロリバァ許さん!!

というわけで魄愛様がいる高族の教室に向かうのは後になる。

まずは補習を受けなければいけない。

間に合うかな?


この学園にもちろん校舎はあるがバカでかい。

そして俺などの庶民は中族として言われており、この校舎は半々で高族用と中族用にわけられているのだ。

しかし魄愛様と出会う確率はそうとう低いわけではない、なぜなら職員室が運良く中族用の方にあるから。

俺にとって嬉しいことである。


 でも改善点はある。

ここの学園内の移動は時間がかかるのだ。

正直時間がかかることを改善してほしい。


 そして俺には隠していることがある、でも別にバレてしまって害があるわけではない。

そう俺は転生者なのだ。


転生者といっても前世の記憶は全くなく、ただ感覚として転生者かもと思っているだけ。でももし前世の記憶があればこんな補習を受けなくて済んだかもしれない。


「もうやだぁ」


 ふとして俺が廊下を曲がったときに聞こえた。

そこにいたのは金髪の包容力がありそうな美女、ではなく美少女。

この美少女はこの学園のドジとして知られている桜倉坂さくらざかエミル。

そして足元には数えることすら諦めたい枚数の紙が落ちている。


だから俺に手助けしようと近づくと‥‥‥


「あ、沖田は補習があるだろ?」


桜倉坂さんに俺と同じく近寄った男にそう言われた。

そいつの名は登神とがみサガマス。高族であり、学園内の人気も高く、もしかするとあの魄愛様の婚約者になる可能性があると噂されている人である、噂は本人が否定しているが。

登神とは同じクラスメートであり、登神がなぜいるのかは簡単でもうそろそろで学園交流祭に向けてこの夏休みを使っているのだ。

 魄愛様や咲耶あいつなどもそうで、桜倉坂さんも同じであり、多分だが落とした紙も学園交流祭のものだろう。


「ああ、助かるよ、サガマス」


「気にするな」


俺は感謝の意を述べて補習が行われる教室に向かう。

 俺は登神のことがあまり好きではない。まるでいつわりの仮面をつけているかのように思えてしまうからだ。

 登神の行動や笑顔に裏があるのではないかと思えてしまうのだ。

これが気の間違いであればいいのだがな。



「かわいそうに」


「??」


「別に独り言だよ、桜倉坂さん、それにしてもこの紙どこに届けようとしていたのに?」


「え、えっと、理事長に」


「そうか」













「お、沖田も来たのか」


「当たり前だろ、補習だぞ」


 俺が教室に入ると話しかけてきた男がいた。


「で夢時ゆめときはどうせ昨日夜ふかしをしただろ?」


「ああ、もちろん、まだ途中だから帰ってからもする予定だ」


 こいつは白田しろた夢時ゆめとき、違うクラスなのだが去年から仲が良い。そして夢時はクラスではギャルゲーの話しかしないため変態と言われて、クラスメートから避けられている。

 そして予想通り、昨日も夢時は夜ふかしをして新作のギャルゲーをしているらしい。

一度無理やり押し付けられたこともあるのだかな。


「おい、お前ら、始めるぞ」


教師が来てしまったので席に座る。

補習を受けているのは俺と夢時のみで、いかにこの学園の生徒は赤点を取ることが難しいのか体現していた。


もう何日もしていることだから慣れてきた。








「じゃあな」


「ああ」


最終日の補習が終わった。疲れた。

夢時はギャルゲーをするためすぐに帰っていった。

 でも俺は魄愛様に俺の主であることを認めてもらうために向かう。

しかし俺の脳裏には咲耶あいつに頼めばいけるような気がする。

だから俺は迷ってしまう。


 俺が取るべき選択はなんだ?


▶魄愛様のもとに行き、主になってもらう。

 咲耶に頼んで主になってもらう。


 咲耶の方は俺のプライドを捨てればほぼ確実にいけるだろう。

しかし俺が持つ魄愛様への愛の前では無意味だ。

でも魄愛様が主になってくれるのは魄愛様次第なのでわからない。

 それでも魄愛様の方が自分の気持ちからしてもいい。


俺は高族が使用している校舎の方へと向かう。


 俺も一度しただけでギャルゲーの選択肢みたいなことを頭の中で思うとかやばいな。そして傍から見ると変人として捉えられてしまうな。

少し口角を上げていた。







「魄愛様」


「なにかしら?」


「理事長からのお手紙です」


「ありがとう」


 私は瑠奈から手紙をもらい、封を開けて内容を読む。

高族への手紙ということで書き出しだけ敬語だが途中からいつもどおりに変わっていた。

 本題はどうやら‥‥‥って!!


「フフフ」


「どうしたんですか?魄愛様、嬉しそうしていますけど」


 いけないいけない。

私は顔を横に振る。

佑夜が私の従者になるのか、楽しみだな。


「いえ、なにも」


 私はなんとかして無表情になる。

そして手紙の内容を淡々と瑠奈に言っていく。


「まず沖田佑夜は知っているかしら?」


「知ってます、今日挨拶したじゃないですか」


 私はしたけど瑠奈はしてないでしょ?そんなことは言わないでおく。


「沖田さんは実はこの時期にしては珍しい、主がいない人なの」


「つまり魄愛様が主となると?」


 本音を言うとそうしたい。でも規則を守った上で佑夜を従者にしなければならない。


「いえ、ちゃんと従者になる資格があるのか見極めます」


「わかりました」


 瑠奈は私が佑夜を落とすと思っているみたいだ。

まぁ、資格があるというボーダーラインは甘くするけど。

あくまで最低限できていれば良い。


「ごきげんよう」


 向かい席の人である、ノハレスティノ・ゲスティリア・ティアレアさんにご挨拶をされる、これは返さなくては。


「ティアレアさん、ごきげんよう」


私は言ってから礼をしようと立ち上がろうとすると、


「お立ちにならなくていいわよ、少しだけ聞いてくれるかしら?」


「わかりましたわ」


どうやらお話があるみたいだ。

でも私には心当たりがない。


「そうですわね、沖田佑夜をもらってもよいかしら?」


そう衝撃のことを言われてしまった。







ここ広すぎん?

俺は高族の教室へ来ているのだが俺たち中族の教室の5倍以上は確定である。それも一教室であるから驚きだ。

それより魄愛様はどこかな?


教室内を見渡してみる。

すると魄愛様と木宮ともう一人が集まっているのを確認した。

もう一人の名前は長くて覚えていないのだがリアと呼んでほしいと本人と挨拶をした時に言われたことだ。

まぁよくも悪くも目をつけられているみたいだ。

でも最近は大丈夫だけど、この前に噂がたった時は国籍バレがしていないか焦ったけど。


そうすると木宮がこっちに気づいたのか俺の方に来る。


「来たのか、お願いがあるのだが魄愛様をどうにかしてくれないか?」


「魄愛様がどうしたのですか?」


 まさか魄愛様になにかあったのか?でも魄愛様を見る感じリアと話しているようにしか見えない。

 しかし魄愛様が見ていられないことをいいことに俺には威圧みたいなものを感じさせるな、それなのに言っていることは普通だけだ。

少しだけ冷や汗をかきそうになるじゃないか。


「ああ、お前のことをぜひ従者にしたいとノハレスティノ様がおっしゃっており、しかし魄愛様は断っているのだ、だからノハレスティノ様にこう言ってこい、『わかりました、ノハレスティノ様の従者になります』と」


「は?」


 思わず言ってしまった。

あたり前だ、俺は魄愛様の従者の試験?みたいなものを受けにきたのだ。

なのに木宮はそんなことはしなくてよいみたいなことを言っているのだ。リアがなぜ俺を従者にしようとするのは鈍感ではないからちゃんと理解している。

 しかしリアの従者にならない。

俺は魄愛様の従者になる。

それは俺が誰の従者になるのかの結論である。


 それにしてもなぜ俺はここまで楽しくいられるんだ?

もし魄愛様が断られる場合もあるのに。

きっとこれは自分がなにも持っていないからだ。

なにも持っていない?


‥‥‥どういうことだ?

俺はなにかを持っていたことになってしまう。

 しかし今は持っていない、しかり俺の前世のことか。記憶もなにもない転生者であるのに。

ならなぜなにも持っていないとわかるのか?


 やばい、頭が痛くなってきた。

さすがに考えすぎか、そんな都合良く、前世の記憶が思い出せる予兆ではないだろう。


「どうした?」


 なんらかの違和感を感じ取った木宮に聞かれる。

大丈夫と返そう。

そう思い口を開けようとした瞬間、俺は視界はグラッと教室の天井が見えて暗転した。

そして最後に聞こえたのは木宮の驚く声だった。


























  













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