第3話「お仕置きの後に(エピローグ)」

 お仕置きからしばらく時間が経ち、私は珍しく瑠璃の膝の中に収まる形で座っていた。なんだか子供に戻ったようで少し恥ずかしい。しかし、瑠璃の体格は一体どうなっているのだろう。私をあぐらの中に収めても、顔の高さが重ならないのである。

「詩織はチビだなぁ」

 瑠璃は面白がってそう言うが、私は私で165はあるはずなのだが、一体何センチあるんだろうか。少なくとも170は超えてそうだ。流石に180はないと思うが……。

 ふと、自分の着ているパーカーがひどい状態になっていることに気づく。乳幼児の前掛けより酷いんじゃないだろうか。食べ物などをこぼしていない分、においはそうでもないどころか石鹸のそれなのだが、自分のよだれと涙がべっとりである。そして、それはおそらく瑠璃の服もだろう。何も考えず飛び込んでしまったし。

「瑠璃、服を洗いに出したいんだけど」

 私を離すまいとガッチリ抱きしめている瑠璃を見上げる形で見つめると、余裕そうな笑みを返して離そうとしない。むしろ抱きしめる力が強くなって、身動きが取れなくなる。

「別に外に出る予定もないんから、何着てたって一緒でしょ」

 瑠璃はめんどくさそうに言って、左右に揺れる。確かにそうだけど、そういう問題だろうか。汚いし。

「あ、やっぱりいいよ。私のと一緒に洗いに出しといで」

 自分の服を見て困っていると、瑠璃は何かを思い出したようにそう言って私をリリースする。そうして自分の服を脱ぎ捨てると、寝室の方に向かってしまった。まあいい、許されたならせっせと洗うとしよう。

 洗濯機を動かしながら、口の中がまだ薬品臭い感じがするのに気づく。初めてあんなお仕置きをされた。もう2度と、あんなのはごめんだ。何度もうがいをして、居間に戻る。

「詩織、こっち来て」

 瑠璃はまたあぐらの姿勢になると、今度はその中ではなく、少し前を叩いて呼んでいる。もう片方の腕は背中の方にまわして、何かを隠しているようだった。まさか、まだ何かあるのではとも思ったが、疑っても仕方ない、そうあきらめるように前の方に座った。

「こっち向いて、首出して」

 私は瑠璃の指示に従って、瑠璃に見えるように首を出す。言葉にコマンドの強制力がない、やっぱり、お仕置きではなさそうだ。何をするのだろうと考えながら待っていると、瑠璃の手が首に回される。優しく触れて、何かがつけられているようだ。

「よし、詩織、鏡見てみて」

 瑠璃が私につけたのは、黒に近い紫のチョーカーだった。いや、チョーカーというより、きっとこれは、首輪だろう。私が、瑠璃のものだという証。

「ありがとう、付けてくれないと思ってた」

 私は、瑠璃に素直な気持ちを伝える。瑠璃は、これだけ私を虐めるのが好きなくせに、首輪だけは付けたがらなかったというか、話題にすら上げなかった。だからてっきり、遊ばれてるのかと思うような節もあったし、今思えばそんなだから反抗的な部分があったと言い訳できないわけではない。

「首輪で主従をわからせるのって、なんだか負けた気がしてね」

 瑠璃は照れ臭そうに答えると、私の首を撫でて似合ってると言ってくれる。なんだか瑠璃らしいというか、意地っ張りな理由に、私は笑ってしまう。

「なにそれ、変なの」

 瑠璃は照れ隠しなのか、私を抱きしめて口を塞いでしまう。

「本当、あんたは生意気だよ、私のペット」

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