レベリングの果てには
…どうなっているのだろう。
髪の色が、反転してしまっていた。
老人のような
だがそれは
普通とは思えない現象に
「な、何でなんだろう…?」
「それはこちらが聞きたいよ」
エレノアさんがジト目で僕を見てくる。
そ、そんな事言われても……。
「ギャッギャアッ!!」
おっと、忘れていた。
ゴブリンレンジャーが僕達二人に
「…お前とのルーティーンも、ここで終わりか」
時間に
長い、長い時をこいつと一緒に過ごしてきた。
そう思うと、なんだか寂し――。
「いや、全然寂しくなんかないな。むしろ
「ギャアアッッ!!」
明確な敵意を感じる。
今までの相手を舐めた笑みを浮かべていない。
っていうか、こいつなんか震えてない?
武者震いだろうか。
「もう、短剣は怖くない。なんとか“慣れた”からね」
レベルも上がり、我慢強くなったのだ。
もう同レベルの毒は効かないと言ってもいいだろう。
…これでエレノアさんの役に立てればいいが。
「エレノアさん、こいつは僕が相手をしてもいいですか?」
「…どうしてだい? 強敵を前にした子犬を、私に見捨てろと?」
「僕のことそんな風に見てたんですか…」
確かに、特別な力はない。
だけど足止めくらいは出来る。
その間にエレノアさんがもう一体のゴブリンレンジャーを仕留める算段だ。
「こいつは大丈夫ですよ。僕には余裕です!」
「いいや、ダメだよ。君に無茶はさせたくない。大した傷じゃないとはいえ、この短剣を……?」
エレノアさんが僕の持っている短剣に注目する。
僕の腕を掴んで自分の近くへ寄せる。
「ど、どうし…ました?」
「…これ、毒じゃないか。それも濃度のかなり高い。本当に君、大丈夫なのかい……?」
「あ、あはは。大丈夫ですよ……」
百何回と食らったからもう慣れたんですよ。
「と、とにかく! 君に任せるのは不安が残る。ここは一旦街へ――」
「ギャ! ギャア!」
「…ギャ」
左右の道から二体のゴブリンが現れ、行手を阻むように立つ。
奥から僕達を追いかけてきたか。
「これは…非常にまずい事態だね。2体同時は私の手に余る。ヴァン君、後ろに下がっていて」
「いや、だから僕も……」
「ギャァッ!!」
一体のゴブリンが僕めがけて走ってくる。
その片手にはもう一本の毒塗り短剣。
それを振り上げて僕へ……。
「ちょっ、今話してるんだ! 邪魔しないでくれ!」
少し
ガラ空きの横っ腹に蹴りを入れてやる。
「「……………は?」」
すると、ゴブリンは凄まじい威力で吹き飛んだ。
そのまま壁に叩きつけられ、しばらく動かなくなってしまった。
予想外だ。
今のは軽く様子を見るつもりでやったのに…。
「ギャ…!」
奥から来たゴブリンに驚愕が張り付いているのかだわかる。
吹き飛ばされたゴブリンも同じだ。
自分が獲物と捉えた敵に、簡単に吹き飛ばされた事が信じられないといった表情。
「…本当に、ステータスのレベル表記は間違いない…のか?」
こんな無能な僕でもこんな威力が出せるのか。
【L v 109】というのは事実なのだろうが、スキル無しでこんなに……?
「い、一体何が……?」
よく分からない状況にエレノアさんが動かなくなってしまっている。
「!? 後ろ!」
ゴブリンが研ぎ澄ましていたナイフが、のけぞってギリギリ回避できたエレノアさんの前を通る。
「…後で礼を言うよ。ヴァン君」
再び剣を抜き、ゴブリンレンジャーと対峙する。
今の攻撃で大丈夫だと判断したのか、僕に背中を預けてくれるようだ。
その判断に、応えなければ。
「よし、来い!」
腰にぶら下げていた武器を、僕はようやく使うまでに至った。
この“
今までは扱い方が難しく、ろくに使ってこなかったが、
「ギャギャ……!」
僕みたいな奴に遅れをとったのが嫌だったのか、
今までにないくらい
先ほどよりも少し速く襲いかかってくる。
でも、やっぱり遅いな。
最初のリセットよりも、格段に弱そうっていうか……。
「これなら、僕でも倒せそうだ」
細長く、物珍しい
ちなみに、僕は剣術素人だ。
教えを請える師もいないしね。
「ギャギャアッ!」
単純な動作。
恐怖も何も湧かないほどの
「僕を、まだ舐めているのか…?」
リセットで耐性がついたのだろうか。
僕は
「ギャ、ギャギャ!?」
凄まじいスピードでゴブリンに接近する。
そんな自分の成長に気づかず、
僕は敵を倒す為に動きを
二人の距離が一気に縮まる。
二つの武器が同時に振られ、繰り出される。
「はあっ!」
「ギャ……!?」
同時に出されたはずの攻撃だが、僕の剣の方が先に届く。
適当に力を込めて、
相手の右脇腹、下から上へと斬り上げた。
「うおっ!?」
初めて剣を振るったが、
それに適さない威力の
周囲に伝わる
予想外の攻撃を与えられたゴブリンレンジャーは、あっという間に絶命し、動かなくなる。
「……あれ?お、終わっ、た?」
地面には動かないゴブリンが転がっているのが見える。
「ぼ、僕! 本当にレベルアップして強くなってるんだ!」
強敵とされたゴブリンレンジャーを倒した事に歓喜する。
手応えがちょっと薄く感じるが、勝利は勝利。
「やったよ! エレノアさ――」
エレノアさんに
「……ギャ」
「………これは、失態を
エレノアさんに、短剣が刺さっている。
僕が体験してきたものと同じ、毒塗りのものだ。
胸の中心に突き刺され、
「…全然、大丈夫な、やつじゃない…じゃないか」
「エレノアさん!!」
僕は
近くにいたゴブリンを剣で薙ぎ払い、エレノアさんを抱えるように立つ。
ゴブリンレンジャーを
「ぐふっ…そ、そんなに勢いよく抜かれると痛いんだけど」
「あ、ああ! エレノアさん!」
まずいまずいまずいっ!
あの毒はおそらく同じものだ。
このままでは、僕のように全身に毒が回って死んでしまう。
「あ、安心したまえよ…私には毒耐性のスキルがある。簡単には死なないけど…この強さなら五分が、限界…かも」
「そ、そんな」
五分。
スキルを持っていてその短さ。
その間、エレノアさんはずっと苦しむ……!
「…僕がエレノアさんを抱えて街に戻ります」
「え、いや…無理、だよ」
「大丈夫です! 僕、レベルが上がって強くなれたんです。ほら! あのゴブリンレンジャーだって――」
先程斬った奴の方へ視線を向けると、
「ギャギャギャッ!!」
「ギャ、ギャ!?」
「ギャギャギャア!!」
群れだ。
周辺にいたと思われるゴブリンの群れが洞窟の中へ帰ってきてしまっていた。
「…君だけでも逃げなよ」
「…いいえ、押し通ります。少し待っていて下さい」
僕は刀を持ち直し、その群れに飛び込む。
風を裂き、一直線に走り割り込んだ。
時間はあまり感じさせないものだった。
先程よりも速く、力強く地を蹴った。
一体、二体、三体、四匹、五匹、六匹――。
出来るだけ短く片付ける為、無造作な剣を振るう。
何も考えずに、次々とゴブリンの命を奪う。
「邪魔だっ!僕は、エレノアさんを助ける!」
そう、エレノアさんを助ける為だ。
エレノアさんにとって一日も経っていない仲だけど、僕にとっては、長い間辛い思いをさせてしまった重い借りがある。
僕は、彼女を死なせたくないんだ。
だから――、
「――僕は、お前らを殺すっ!」
**
……ああ。
僕は、何回。
結局、救えなかった。
ゴブリンどもを殺しまくった後、街まで彼女を抱えて走って向かったが。
間に合わず、命を落としてしまった。
俺は自害し、リセットをした。
それでも、間に合わない。
ゴブリンどもを全員殺した後でも、毒塗りの剣は運命を変えない。
何かしらが起き、必ず刺さる。
「……どうすれば、助けられる?」
エレノアさんを抱えながら、
もっと、殺す速さを上げる?
それとも、殺さないで素通りするか?
……いや、もうその手段は試したな。
「――何で、僕はここにいるんだっけ」
ただ、エレノアさんに護ってもらおうと付いていっただけなのに。
ただ、右に道を曲がっただけなのに。
ただ、王都に向かおうとしただけなのに。
ただ、
「……あの婆さんを、追いかけなければ。何としても捕まえて、あの薬のことを吐かせて、
僕をこんなのにしたあの老婆を、殺したくてたまらない。
エレノアさんを救い、ゴブリンを
その、為にも……。
「……よし、死のう」
僕は、刀を自分の
すぐに、絶命する。
次は、今度こそは……。
「失敗……しな…ように……………」
《リセット
これより、
突如、僕の脳内にそんな声が響いてきた。
とうとう、
《リセット限界回数の上限を
――250から750へと解放完了しました。
レベルのアップ上限を解放しました》
…………………………………………。
《確認された
――失敗しました。
再度、確認された不具合の修正を行います。
――失敗しました》
すでに命の宿らない死体の脳に、
《
――失敗しました。
リセット回数の調整を行います。
――失敗しました。
――失敗しました。
リセットによる経験値の回収を……》
リセットレベリングの不具合冒険者 ない @NagumoOutarou1
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