旅の、始まり?

 僕はまた別れ道に辿たどり着いた。


「えっとー……こっちを左、だっけ? あれ? 右だっけ?」


 


 夢とはいえ、また道の選ぶのは違和感があった。

 

「うーん、どうしよう。夢では確か左の道を選んだ気が……」


 左。

 そちらの道を行ったような覚えがある。

 

「それにしても、何で途中で目が覚めちゃったんだろう? 僕に何かあったのかな?」


 記憶が朧げで、

 何に起こされたのかよく分からない。


 それが夢であれば、

 何かしらがあって脳が反応し、夢から覚めたに違いないと考えた。


 夢であれなんであれ、

 正夢まさゆめになる事を僕は何より恐れている。


「だったら、次は右に行こう」


 単純な話だ。

 左が良くないのなら右に行けばいい。


 ところで、

 僕は何で左に曲がったんだ?


 エナさんには右に行けって………。



 …お、思い出した。


 僕、普通に道を間違えていたかもしれない。


 意気揚々いきようようと「こっちだな!」って歩いて行った記憶がじわじわとよみがえってくる。


 筆記テストでもそれはよくある。


 事前に勉強してよし覚えた! ってなっても本番で書けないやつだ。


 一時的な記憶の欠如、

 それと酷似している気がする。


 テストが終わった直前に思い出すんだよな〜。


 しっかり話を聞いておくべきだった。


「はあ、夢でも判断できないなんてちょっとショックだ……」


 また後ろ向きに考えてしまう。


 だ、ダメだダメだ!

 これから長旅になるかもしれないんだ。


 気を引き締めていかないと!



**



 しばらく道を歩いて行くと、

 何や声が聞こえてきた。


 僕は様子を確かめる為、

 近くの木々に身を隠してそっと見てみる。


「ギャッ!」


 ゴブリンだ。


 それも数匹がたむろっている。


 知能は子供並みだが、

 群れで行動する事が多いので厄介とされている魔物である。


「…何であんな所に座ってるんだ?」


 数匹のゴブリン達が道を通せんぼしている。


 道の真ん中に居座るとは大胆だいたんな行動だ。


「どうしよう、あそこにいられたら流石に邪魔で進まないな。一本道だし、ここは引き返すしか……」


「ギャッ?」


「うん、君もそう思うよね。魔物に言葉は、通じ、ないし………………………………え?」




「…ギャッ!」




 ーーいた。


 いつの間にか僕の振り返った後ろには一匹のゴブリンがこちらを見て立っていた。


 ご機嫌そうな顔で、僕の顔を眺めていたのだ。



「…………………………………え?」



「すぅぅ、ギャギャギャギャッッ!!!」


「ギャッ!?」


「ギャギャ!!?」


「ギャギャギャ!?」


 突然叫んで仲間を呼ぶ。


 まるで『ここに獲物がいるぞ!』と伝えるように聞こえた。


 そして、

 そのゴブリン全員が僕の方を見て一斉に走ってくるのがわかる。


「え? え!?」


 隠れてから一瞬で自分が標的ひょうてきになってしまった事に驚いてしまう。


 こ、これはひょっとしてまずいのでは?

 

「ギャギャ!」


 さらに奥から武装したゴブリンまで確認できた。


 よし、逃げよう。

 僕じゃこんなの突破できっこない。


 諦めて、別の道をーー。


 誰もいない方向へと走り出し、

 ゴブリン達から背を向ける。


 だがそれを一人のゴブリンが逃してやらなかった。


 弓を構えて、

 矢を放ってきたのだ。


「うわっ! あ、危ないな……!」


 当たる寸前で運良く避けることに成功する。


 かすりはしたが、何の問題もない。


「って、ちょっとこれは多すぎはしないか!?」


 先程よりも数が多くなり、

 僕を追いかけてくる。


 武装したゴブリンがいるという事はグループの中に知力をつけたリーダーが存在するという事だ。


 つまり、『群れ』の状態だな。


「な、何でこんな所にゴブリンの群れが…?」


 この道は街からそう離れたところにはない。


 ゴブリンも一応は生物だ。


 こんな所に大勢居れば、当然人間に討伐の対象になり得ることは勘付けるはずなのに……。



「と、とにかく! 一旦街に帰ってギルドに報告しなきゃーーあいたっ!?」


 もう一度走り出そうとすると、

 その拍子に転んでしまった。


 こんな時に転ぶとはついていない。

 だがまだ大丈夫だ。


 今から立ち上がって、

 全力で走れば追いつかれはしない………………?





 あれ?


 世界が、ゆらゆらしてーー






**




「………あれ?」



 僕は誰もいない玄関でそんな声を出した。


 支度を終え、王都へ向かう準備は万全だ。

 扉の掴みに手を置いたまま動かない。


「…………………………今、のは?」



 ゴブリンに追いかけられた。

 そして、転んだ直後に視界が暗転あんてんした。


 その記憶が、僕の脳内を支配する。


「………………僕、疲れてるのかな? それとも昨日のお婆さんの、薬? でも、まだ『リセット』ってまだ叫んでないし…」


 やはり、

 あの液体は何かイケナイ物だったのだろうか。


 不思議な体験だ。

 夢とは思えないほどの現実感。

 もしくは、悪夢のたぐいとも言えよう。


「そう言えばあの人いつまでの効果だよとか言ってなかったけど、やっぱり偽物で、呪薬じゅやくか何かだったとか…!?」


 分からない。

 今さっき起きた事がなんだったのかが。


 とりあえず言えるのは、

 昨日飲んだ液体は精神せいしんに異常をきたす物かもしれないという事だった。


 リセット!とも叫んでいないので、これが老婆の言うやり直しではない事がわかる。


 一回限りって言っていたしな。

 でなければ、夢で夢を見た証明にはならない。


「はあ、でも今のところ『夢の中で夢を見た』だけだし、特に問題はないかな。一応王都に向かう前にあの薬屋にもう一度寄っておこう」


 夢を見ただけで、

 まだ僕は健在だ。


 いつも通りの僕だし、

 どこか痛い所も見当たらないので気にすることはない。


 …会って直接話を聞いてみる事にする。


 使用方法だけしか教えてもらってないし、

 危ない物なら注意してみよう。


 夢で夢を見るなんて、今まで無かったしね。

 あんな悪夢なんてもう見たくない。


 


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