第46話

 戦いが始まって、どれくらい経過しただろう。皆はもう疲れ果て、そして心も折られていた。どれだけ倒しても、減らないのだから。

 一体どうすればいいのか。僕たちは途方に暮れていた。


「皆さん、決して無理はしないでください。怪我をした方は、街の方が手当してくれるそうです」


 シグレが叫んで伝える。


「シグレ、どうするか? これじゃあアンデッドを倒す前に俺たちがやられちまうよ」


 ミノは息を切らしながら言う。シグレは悩む。


「応援を呼びたいところなんですが……」


 その時、上空に白い光が現れた。一点の曇りもない、真っ白な光だ。

 白い光は、森全体を包み込む。僕たちはただ、その様子を見守っていた。何が起こっているんだ?

 白い光に包まれたアンデッドたちは、浄化されていくように消えていった。まだ動いているアンデッドも、倒したアンデッドも、網の罠にかかったアンデッドも、ローリエの笛で眠らされたアンデッドも。全てが消滅した。

 やがて、アンデッドは全滅し、白い光は消える。そして、そこに現れたのは、白い三角帽子に、白いローブを身にまとった、美しい魔女の姿だった。


「あれが……白の魔女?」


 僕は呆気に取られていた。


「遅れてしまって申し訳ございません。アンデッドが大量発生したという噂を聞いて、急いでやって来ました。本当は、もっと早く来たかったのですが、白の魔女の称号を得られたのが、つい昨日のことだったので」


 白の魔女は、申し訳なさそうにした。


「千年に一度の大災害であるアンデッドを消滅させるのが、白の魔女の役目。なぜなら、白の魔女はそれだけの力を持っているから。残念ながら、今世界には、私しか白の魔女はおりません。最悪なタイミングでアンデッドが発生してしまったのです。何とか、間に合って良かったです」


「助けていただいて、どうもありがとうございます」


 シグレは頭を下げた。


「あなたがいなければ、僕たちはもう……本当に、国を救っていただいて、ありがとうございます」


「いいえ。あなた方が命をかけて食い止めたから、これだけ被害を抑えられたのです。あなた方は立派な英雄なのです」


 白の魔女はそう言って微笑んだ。シグレは嬉しくなったのか、ほっとしたのか、涙を流し始めた。


「本当に……本当に良かった」


 ローリエたちは、急いでシグレのもとへ駆け寄り、抱き合った。ようやく、彼らが報われた瞬間だった。

 

「アンデッドにやられてしまった森は、私が全て元通りにします。安心してください」


 そう言うと、白の魔女は大きな杖を振った。

 杖な先から、白い光が放たれる。それはものすごく綺麗で、まるで、天国にいるかのようだった。折れた木や、踏み潰された花たちは、元の姿に戻っていく。

 なんて素晴らしい景色なのだろう。


「良かったですね。無事に終わって」


 ソフィアが声をかけてきた。


「ああ、そうだね」


 僕たちはその景色に、しばらく見とれていた。



 数日後。

 僕たちは城へ呼ばれた。戦った者たちへの感謝と褒美を王が与えたいのだとか。今さら何を言っているんだって感じだが。

 さすがに全員で行くわけにはいかなかったので、代表して、会長と副会長であるシグレとローリエが、王の前まで行った。

 その他の人達は、外から中の様子をこっそりうかがっていた。


「獣人一族のシグレ、エルフ一族のローリエ」


 王は玉座に座り、シグレたちはその前で横に並ぶ。


「この度は、国を救ってくれたことを、心より感謝する。そなたたちのおかげで、死者は誰一人として出なかった。そして、今まで、人外であるそなたたちを、蔑ろにしてしまったことを、謝罪する。どうか許して欲しい」


 王は申し訳なさそうに謝った。


「私は少し誤解をしていた。そなたたちとは、分かり合えないとずっと思っていたのだ。しかし、それは間違っていた。つい、見た目だけで判断してしまっていた。今はもう、昔とは違う。時代は変わっている。私も、古い考え方を捨て、国を変えていかなければならない」


 王は立ち上がった。


「そなたたちは、我が国を救った英雄だ! この先もずっと、語り継がれるだろう。そして、私はこの国を、全ての種族が幸せに暮らせる国にしていきたいと思う」


 王がそう言うと、シグレとローリエは顔を見合わせて笑った。


「これは褒美だ」


 王は家来に、大量の金貨を持ってこさせた。やばい、目が眩む。


「それと、『人間と仲良くなろうの会』といったな? その、建物を燃やしてしまってすまない……あれは私が命令してしまったことだ。許してもらえるかは分からないが、代わりの新しい建物を用意した。自由に使って欲しい」


「陛下、ありがとうございます」


 シグレは頭を下げる。ローリエも同じようにする。

 彼らがやってきたことは、全部無駄ではなかった。少しずつだが、世界はいい方向へ変わっていっている。



 その後、褒美の金貨はみんなで山分けした。

しかし、白の魔女だけは、それを受け取らなかった。白の魔女として、当然のことをしただけだ。それに、アンデッドの被害が拡大しなかったのは、皆のおかげ。だから受け取れないのだと。どれだけ心が綺麗なんだろう。


 シグレに誘われて、僕たちは新しい『人間と仲良くなろうの会』本部へ行った。行っている途中で何人かの人間に声をかけられた。「国を救ってくれてありがとう」という感謝の言葉を言われた。なんだかいい気分だ。もう人間たちは、僕たちのことを怖がってはいないし、野蛮だと罵ることもない。

 新しい本部の場所は目立たない街の隅の路地裏ではなく、城のすぐ近くであった。

 大きさは前の本部の約三倍。ものすごく立派な建物だった。


「すごいすごーい! ここが今日から本部! 夢みたい!」


 ローリエは興奮して、建物の中を無邪気に走り回っている。


「ブラッド、ソフィア。本当にありがとうございました。あなた方にはたくさん助けられました」


 シグレは僕たちに向かってお礼を言った。


「まあね、それほどでも……あるけどね! うっ、ソ、ソフィア、僕の足を踏んでいるよ」


「あら、失礼しました。あまり調子に乗らないでくださいね、ブラッド様。私が恥ずかしいので」


 ソフィアはニッコリと笑った。ご主人様の足を踏むなんて……許せない……と言いたいところだが、僕は寛大な心を持っているからね。許してあげよう。


「私たちも、シグレ様たちのお役に立ててよかったです。国が良い方向へ向かっていることが、私たちも嬉しいです」


 ソフィアがそう言うと、シグレは微笑んだ。


「ありがとうございます。ところで、もちろん、今夜の城でのダンスパーティー、参加しますよね?」


「ああ、もちろんさ!」


 僕が元気よく答えると、ソフィアは僕を睨んだ。

 パーティーっていう言葉の響き、大好き。

 王様が、アンデッド討伐記念に、ダンスパーティーを開くのだそうだ。誰でも参加していいのだと。種族の垣根を越えて、様々な人と分かり合えるチャンスだ。

 美味しい料理もたくさんあるんだって。これはもちろん、参加しなくては。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る