第39話
「どうぞ、ゆっくりしていってください。ブラッドさん、ソフィアさん」
シグレは優しく微笑んだ。すごく包容力がある笑顔だ。
その後、僕たちはご飯をご馳走してもらい、余っている部屋へ案内された。ローリエ、シグレ、ミノ、ガーラは、ここで暮らしているらしい。
他にも『人間と仲良くなろうの会』の会員は、世界中に沢山いるらしい。会員になると、バッジが貰えるらしく、それが会員の証なのだと。年に数回、集会を行い、今後の方針を決めたり、色々報告し合ったりするそうだ。
もちろん、それは強制参加ではない。参加出来る時に参加すればいいらしい。
ちなみに、吸血鬼の会員もいるそうだ。それを聞くと、なんだかワクワクした。僕も会員になろうかな、なんて思った。
『人間と仲良くなろうの会 三ヶ条
その1 人間に危害を加えることは決してあってはなりません
その2 困っている人がいたら助けましょう
その3 常に人間に誠意をもち、人間と分かり合えるよう切磋琢磨しましょう』
*
「大変だ! みんな!」
せっかく気持ち良く寝ていたというのに、騒がしい。廊下をドタバタと走る音が聞こえてくる。
僕は寝袋から這い出る。ベッドがあるにも関わらず、僕は寝袋で寝る。
ある程度身だしなみを整えて部屋の外へ出ると、そこでちょうどソフィアと出会った。
「おはよう、ソフィア。一体なんの騒ぎだい?」
「あら、ブラッド様。おはようございます。ちょうど起こしに行こうと思っていたところです。それにしても、私が起こさずとも起きてくるなんて、珍しいですね。雨でも降るのではないですか? いや、雪ですかね。なんなら台風がくるのでは」
いくらなんでも、ご主人様をバカにしすぎではないかい、ソフィア。
「とりあえず、食堂へ行きましょう。今朝、ケンタウロスのロナルド様がいらっしゃいました。どうやら大事なお話があるそうです」
ケンタウロスか。これもまた、初めて会う種族だ。確か、上半身は人間で、下半身は馬の胴体と足を持つ生き物だったはず。
ここにいると、色々な種族との出会いがあっていいな。
僕たちが食堂へ行った時には、もうすでにみんな集まっていた。
「よし、これで全員そろいましたね。ロナルド、お願いします」
みんなが席についたことを確認して、シグレはそう言った。
「この国の近くの森で、アンデッドが大量発生したんだ」
ロナルドの言葉に、みんなはギョッとした。そして同時に疑った。
「嘘だろ? アンデッドっていうのは、伝説の中の話だろ?」
ミノは笑った。
「本当だ! 俺はちゃんとこの目で見たんだ!」
とロナルドは訴える。
アンデッドの伝説というのは、僕も本で読んだことがある。
それは、千年に一度の大災害だと言われている。アンデッドは、どこからともなく現れる幽霊やゾンビのような、超自然的存在だ。彼らには明確な目的はなく、ただ目の前のものを破壊し、生きるものを殺していく。
そしてこのアンデッドは、千年に一度、世界のどこかで大量発生するそうだ。
原因は未だ解明されておらず、そして予測も出来ず、その上千年に一度の出来事なので、誰も信じようとはしない。
「でもさ、お前、アンデッドなんて見たことないだろ? なんでそれがアンデッドだって分かったんだ?」
ミノは尋ねた。
「ミノも見たら絶対に分かるさ! あれはとんでもない! あんな膨大な数の、黒い邪気をまとった動く骸骨をみてみろ! あれは絶対アンデッドだ!」
そういいながらロナルドは身震いをした。
「ロナルド、それらは今どこにいるんですか?」
今度はシグレが尋ねた。
「俺が見た時には、森からこの街の方向へ進んできていた」
ということは、もしそれが本当にアンデッドなら、この街は相当やばいのでは?
「僕も確認しておきたい。ロナルド、僕をそこへ連れていってください」
シグレは真剣な顔でお願いをした。
「なら、俺も行く」
さっきまであんなに疑っていたミノも手を挙げた。
「じゃあ僕も」
と、僕も流れで手を挙げた。
「ああ、分かった」
ロナルドは了承してくれた。
*
僕たちは街を出て、森へと向かう。
今日は曇りだから、直射日光があまり当たらなくていい。
「あまり近づかない方がいい。高台から様子を見よう」
ロナルドが提案する。
僕たちは森全体が見渡せる所まで登った。
目を凝らして、遠くの方を見る。すると、なんだか黒いモヤが見えた。そのモヤは広範囲に広がっていて、それは次第にこちらへ近づいて来ている。
「……あれが、アンデッド?」
そのモヤの中には、鎧のようなものを着て、手に剣などの武器を持った骸骨が、数え切れないくらいいた。
昔読んだ、アンデッドについての本に描かれていた挿絵に似ていた。
「あんなのが街までやってきたら、たまったもんじゃねえな」
とミノが言う。どうやら信じたようだ。
「森の住民は、避難しましたか?」
シグレはロナウドに尋ねた。
「ああ、取り敢えず、森の外まで逃げた」
「それなら良かった。でも、このままではアンデッドに森を破壊されてしまいます。そうすれば、住む場所が……」
アンデッドが通った場所は、木々は廃れ、花も枯れ、まるで呪われているかのようだった。
「それなら大丈夫さ。俺たち森に住む者は、だいたいどこの森でもやっていける。すぐに新しい場所を見つけるさ」
ロナルドはそう言ったが、少し寂しそうだった。やっぱり住んでいた場所が無くなるのは、辛いことだよね。
「ん……? なあ、あそこ。誰かいないか?」
ミノが指をさしながら言った。その先は、まだアンデッドに侵食されていない森。確かに、人がいるのが見えた。どうやら、アンデッドたちに気がついていないようだ。
「どうする? あのままじゃやばくねーか?」
ミノはソワソワしながら言った。
「それなら僕に任せてよ」
ここは僕の出番だ。空を飛べる僕が助けに行くのが、一番効率的だ。
僕はマントを翻し、空へ飛び立った。そして一直線にその人の元へ駆けていく。
「あれ?」
近づくにつれて、分かった。僕はその人を、どこかで見たことがある。
あの灰色の髪の毛は……
「グレイ!」
狼男の青年だ。僕の記念すべき一人目の友達。
僕の声に気づいたグレイは、こちらに向かって無邪気に手を振っている。
「ブラッド! 久しぶりだな!」
再会は嬉しいけれど、なんでこんなに呑気なんだ?
僕は地面に降り立った。
「道に迷っちまって、困っていたんだ!」
グレイはニコニコしながら言う。
「それになんか、この森、よく分からない奇妙で不気味な気配がしてさ」
その気配はきっとアンデッドだよ、グレイ。とにかく早くこの森から出よう。
「グレイ、ちょっと失礼するよ」
「うわっ!」
僕はグレイを抱えて、空を飛び、みんなの所まで戻った。
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