第七章 不思議な国の歓迎会

第21話

「まるで、ブラッド様の頭の中のような国ですね」


 僕のメイド、ソフィアはそういった。それは、褒められているのかな?

 僕たちが今目の前にしている国、それは、あまりにも奇妙な国だった。

 まず初めに出会ったのは、バカでかい花や、毒々しい色をしたキノコ。この辺りは森のようだ。突然変異でも起きたのかって思うくらいおかしな森だ。木になっているリンゴなんか、色とりどりに光っている。絶対食べたくない。


 しばらく歩いていると、森を抜け、広場に出た。先の方には家が並んでいる。人が住んでいるようだ。


「ごきげんよう」


「うわっ」


 急に目の前に人が現れてびびった。もじゃもじゃの頭の上にちょこんと乗ったシルクハットに、奇抜な色のタキシード。明らかに変な人だ。


「ようこそ、我が国へ。僕はこの国の案内人、アイザックだよ」


 彼はニターッと笑った。


「ど、どうも。僕はブラッド」


 アイザックは僕の手をとりブンブンと上下に振った。力強い。


「やあやあよろしくよろしく! そちらの方は?」


 アイザックはソフィアの方を見た。


「え、えーと、ソフィアです……」


 明らかに嫌そうな顔をしながら名乗る僕のメイド。


「よろしくよろしく! それじゃあ、君たちをパーティへ案内するよ」


 パーティ?


「入国者歓迎パーティだよ! 一日三回! 朝昼晩! 僕たちは入国者のためにパーティを開いているんだ!」


 なんか、凄いな。この国は。奇妙というか、色々とおかしいというか。常識から外れている。一日に何度もパーティをするとか、大変じゃない?


 とりあえず僕たちはこの男について行く。なぜこんなにも怪しそうなのについて行くのかって? そりゃあもちろん、パーティという言葉に釣られたからだよ。



「さあさあここに座ってくれ!」


 僕たちは、広場のど真ん中に座らされた。目の前には長いテーブルには、たくさんの料理が並べられていた。毒々しい色のキノコが入った紫色のスープ。色とりどりに光るリンゴのアップルパイ。虹色のパスタ。パンが緑のハンバーガーに、青色のお米。その他、説明するのが難しいくらい気持ち悪い食べ物がたくさん。どうしたらこんな色になるんだ?


「もう少しで全員そろうから、待っていてね」


 椅子には僕たちの他にも数人座っていた。今日この国に来た人たちだろう。そして、全員が揃ったところで、クラッカーの音と共にパーティが始まった。


「私たちの国へようこそ! ここは夢と幸福に満ち溢れた国! あなたもいずれは、この国の虜になること間違いなし! さあ! 楽しんでいってくれたまえ!」


 アイザックが挨拶をする。なんか胡散臭い。


「遠慮せずに、どんどん食べて構わないぞ!」


 遠慮せずにと言われても、全く食欲が湧かないんだが。他のみんなも嫌な顔をしている。


「ソフィア、ちょっと毒味してよ」


 と僕は頼む。


「嫌ですよ。見るからにこれはやばいやつですよ。私、こんなところで死にたくありません。ブラッド様が先に食べてください。どうせあなたは毒ぐらいじゃ死なないのですから」


 酷いな、僕はご主人様だぞ。確かに僕は吸血鬼だから、毒なんてしばらくすれば自然に解毒されるから問題ないけど。さすがにこれは吐き気がする。


「……じゃあ、食べるよ」


 僕はとりあえず、近くにあった虹色のパスタに手を伸ばす。目がチカチカする。本当に食べて大丈夫かな?

 僕は恐る恐る口に入れた。

 ……あれ?


「これ、いけるよ」


「え?」


「すごく美味しい!」


「うそ……」


 ソフィアは信じられないという顔をする。僕の言葉を聞いた他の人たちは、一斉に目の前の料理を食べ始めた。おいしいおいしいと言いながら食べている。

 見た目を気にしなければ、普通に食べれる。味は最高だ。僕は次々に食べていく。ソフィアは最初は嫌がっていたが、なんだかんだ言って結局食べていた。


「さあさあみなさん、そろそろ喉が乾いた頃ではないかな? この国の名物の、紅茶を振舞おうではないか」


 気が利くじゃないか。いいタイミングだ。運ばれてきた紅茶は、ほんのりと甘い匂いを漂わせている。僕はティーカップの取っ手を持ち、上品に紅茶をすすった。

 

「美味しい! ソフィアも早く飲んでみてよ!」


 一口飲めば、その味はもう忘れられない。ずっと飲んでいたくなるような美味しさだ。なんだか、心地よい。

 ソフィアが飲もうとした時、彼女のとなりに座っている人がぶつかった。その衝撃で、ソフィアはティーカップの中身を地面にこぼしてしまった。


「あ、すいませーん。ちょっとぶつかっちゃったぁ」


「い、いえ、大丈夫ですよ。お怪我はありませんか?」


「はい、大丈夫でーす」


 ぶつかってきた人は、なんだかヘラヘラしている。それによって、ソフィアは笑顔を作りながらも、眉をひそめている。


「あーあ、全部零れちゃったね。残念」


 せっかくの美味しい紅茶だったのに。


「そうですね、残念です。でもまあ、しょうがないですよ」


 そんなこんなをしているうちに、僕たちは料理を食べ終わった。


「みなさん、楽しんでいただけたかな? 次はもっと楽しいことが待っているので、さあ、私についてきてくれたまえ!」


 アイザックは僕たちを誘導する。次はどんなことが待っているんだろう? ワクワクするな。

 しばらく歩くと、そこにはたくさんの人がいた。なにやら楽しげな音楽が流れている。みんなは輪になって楽しそうに踊っていた。


「さあ、これからはダンスパーティーです! 疲れるまで踊りましょう! ここは夢と幸福に満ち溢れたくに。辛いことなんて全部忘れて、踊り明かしましょう!」


 いいなぁ。楽しそうだ。さっき一緒に食事をした人たちは、次々と輪の中に飛び込んだ。


「ソフィア! 僕達も踊ろうよ!」


「私は遠慮しておきますよ。このテンションには、ついていけないので」


 もう、つれないな。さてはさっきの紅茶が飲めなくて、怒ってるな? いいよ、僕は一人で楽しんでくるから。

 僕は輪の中に飛び込んだ。体の動くままに、適当なダンスを踊る。楽しい。辛いこととか悩みとか、全部どうでも良くなった。幸せだ。今の僕なら、なんでもできる気がする。

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