第32話 親ガチャ

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「ゆき先輩、今度の放課後にテニス部で打ち上げパーティーをやろうと思ってるんですけど……」

「申し訳ありません。その日はデートの約束が入っておりますの」


 硬式テニスのパーティーに2年生の堀江有紀先輩を誘ってみたものの、ゆき先輩はデートの約束があるため今回も参加できないようだった。


 デートといっても先輩に彼氏はおらず、ゆき先輩は自分とデートする権利と引き換えのチケットを校内で売りさばいて儲けているのだった。


「それにしても理不尽ですわ! わたくしだってお父様の会社が倒産しなければデート券の収益を全て自分のために使えましたのに。親ガチャに外れたということなのかしら?」

「倒産してなくてもチケットは売るんですね……」


 ゆき先輩はこの高校では間違いなく美人度ナンバー1のグラマーな女子生徒だが、実家の製薬会社が倒産してからは苦学生を続けているので確かに大変な立場ではあった。



「もう許せませんわ。親ガチャに外れた恨みをお父様にお伝えして、しかるべき補償をして頂きます。デートの約束は日程を振り替えて頂きますから、わたくしも当日は参加致します」

「ありがとうございます。私もゆき先輩が来てくださる方が嬉しいです」


 親ガチャ云々うんぬんはややこしそうなのでスルーして、私はゆき先輩が打ち上げパーティーに来てくれることへの感謝を述べた。



 そして打ち上げパーティー当日……


「ゆきはまだかいな。一旦部室に集まって貰うよう言うたけど、もう他の部員先に行ってもうたで」

「皆に見せたいものがあって、その関係でちょっと遅れるそうです。……あ、誰か来ましたよ」


 集合時間に遅れているゆき先輩を心配していた2年生の平塚ひらつか鳴海なるみ先輩だが、そうこうしているうちに部室のドアが開いた。



「遅れて申し訳ございません。本日はわたくしと、お父様が開発した従者ロボットが打ち上げに参加させて頂きますわ」

「ガチャン、ガチャン。ぼくは堀江家に仕えるロボット『ガチャーマン』だよ」


 お洒落な衣服を身にまとったゆき先輩は手作り感溢れる段ボール製の人型ロボットを従えており、段ボールの隙間からは人の姿が見えていた。


「何なんそのロボット、中に誰か入っとんちゃうん?」

「そんなことはありませんわ。ガチャーマンは私が命じれば素敵なプレゼントを用意してくださるの。では早速、プレゼントをお出しなさい!」

「ガチャン! これがぼくからのプレゼントだよ!!」


 ガチャーマンはそう言うと自らを覆う段ボールをはぎ取り、中からは白髪交じりの中年男性が現れた。



「お父様!? どうしてガチャーマンの中に……」

「有紀、ガチャーマンは親ガチャで私を君のもとに送ってくれたんだよ。会社が潰れて苦労させてしまい申し訳ないが、有紀の父親は私一人なんだ。この抽選結果を受け入れてくれるか」

「ええ、最高のプレゼントですわ! お父様ー!!」


 そう言うとゆき先輩はお父さんと人前で抱き合い、私となるみ先輩はこの光景にどうコメントしていいのか分からず唖然あぜんとしていた。



 (続く)

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