24日目「離れていくもの」
「最近さ、寂しいんだよね」
夕暮れ時、美咲と一緒に帰っていると、ふと本当に寂しそうに呟いた。沈んだ顔が、アタシの心まで沈ませる。何かあっただろうか。例えば、いたはずの彼氏に対する想いが、急に湧き上がってきたとか。
「アタシでいいなら、話聞くけど」
力になれるかはわからなくても、人に話すだけである程度気が休まるとか、落ち着くこともあるだろう。そう思って聞いてみたのだが、美咲の反応はあまり芳しくなかった。というより、露骨に不機嫌そうな反応だった。
「それ、本気で言ってるならあんまりだよ」
ううむ、残念ながらアタシは本気で言ってるのであった。というか、そう言うということはつまり原因はアタシなのか。と、自分の日頃の活動を振り返ってみると、まあ、うん……。確かにここ数日のところあまり美咲と過ごしている感覚はしない。こうして毎日一緒に登下校しているのはそうだが、それ以上に親しく過ごしていた記憶がない。ふむ、確かに寂しい思いをさせてしまっていたのかもしれない。
「これも全部、おとこ、ってやつのせいですか」
わざとらしく強調して美咲は問い詰める。なかなか鋭い観察眼を持っていらっしゃる、と思ったが、ここ数日のアタシがあれこれをほったらかしにしてすることといったらそれ以外考えられないので、まあ妥当な推測だろう。模試も休んじゃってるし。
「まあ、そんなところ。なんかごめん」
流石にアタシが十割悪かった。頭が上がらないな。
「そんなに夢中になるなら、紗奈の頭からもおとこってやつが消えちゃえばいいのに」
美咲は不貞腐れてそんなことまで言ってしまう。流石にそれは困る。いや、どうなんだろう。もしかしたら、アタシもアタシで異性への感情など全て失せてしまうのだろうか。きっとそうなるのだろう。無いものに好意は抱けない。今アタシがあくまで異性を好くのだと言えるのは、頭の中にいるからだ。それさえなくなったらと思うと、アタシはそれをアタシだと認める気にはなれない。
「ごめん、それだけは無理だ」
キッパリと、美咲に宣言する。アタシが、アタシでい続けるために。世界が、正しく戻る可能性を消さないために。
「そう言うと思った。本当、なんだか悔しいなあ。私よりそっちの方が大事なんて」
美咲は、やはり悲しそうに寂しそうにわざとらしくアタシの方を見て泣くふりをする。ううん、流石に返す言葉もないというか、なんというか。
「ごめんって。今度一緒に遊んであげるから」
「子供のわがままみたいに対応しないでよ!」
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