20日目「連合結成」

 土曜日。とうとうアタシと紫音は模試をサボる決心の元、カラオケ屋にきていた。そして、駿河女子高校からも、美緒ともう一人の共有者が集まっている。

「じゃあ、オレの自己紹介からか。大和くるみ、駿河女子の三年。よろしく」

 全員集まると、最後の共有者であるくるみさんが名乗る。威圧感というか、凄みというか、雰囲気に圧倒されそうになってしまうような感覚に、何も言えなくなる。紫音さんも同じようで、冷や汗まじりに引き攣った表情だった。美緒はというと、知り合いなのか友人なのか、あまりそういった感覚はなく、自然体のままだった。しかし、オレ、ということは、この人も自認が男性なんだろうか。

「あ、くるみは僕とは違って自認はちゃんと女の子だよ。ちょっと荒っぽいだけで」

 くるみさんの自己紹介に、美緒が補足を加える。そういうものか。美緒の説明に少し恥ずかしくなったのか、くるみさんはそっぽを向いて不機嫌そうにしている。

「じゃあ、私も自己紹介を。湊高校3年、桜木紫音だ。以後お見知り置きを」

 おお、なんだかまともな自己紹介だ。何を言い出すか少し心配だったが、少し安心する。一応これで、自己紹介は済んだのだが、これからどういった話をするのだろうか。緊張が抜けず、なんとなく居心地が悪い。

「とりあえず今日は、顔合わせと意思の統一をしたいなってことで、集まったわけだけど」

 重苦しい空気をかき消すように、美緒は少し明るめの声色で話を始める。

「僕とくるみは、なんとしてでも世界を元に戻したいと思う。ふたりは、どう思ってるのかな」

 世界を、どうしたいのか。このまま変わってしまった世界を甘んじて受け入れるのか。それともあらゆる手を尽くして世界を元に戻そうとするのか。アタシは、どうしたいのだろうか。確かに、どうにかしたいとは思う。今でも好きだった男の子とか、覚えてるし、その時の感情を忘れられない。でも、その一方で一介の女子高生に何ができるのだろうと、そう思ってしまう自分も否定できない。いったい、どうすればいいのだろうか。

 アタシは困ってしまって、助けを求めるように紫音さんの方を見てしまう。紫音さんはそれに気づいたようで、目を合わせて僅かに微笑むと、口を開く。

「私の意思は紗奈に委ねている。彼女が戻したいなら全力で協力するし、このままでいいなら、私はこれ以上世界に干渉するつもりはない。君たちの邪魔はしないけどね」

 紫音さんの言葉に、アタシは絶句してしまう。そんな、なぜ判断をより難しくさせるのだ。そう思うが、前の話が頭をよぎった。そうだ、元から紫音さんはそういうスタンスだったし、その時にアタシは決めたはずだ。

「アタシは、元の世界を取り戻します」

 ここに、四人の女子高生の同盟が築かれた。

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