17日目「七夕に願いを」

「七夕か、イベントとして残ってるんだな」

 昇降口に飾られた笹と短冊を見て、アタシは少し感慨深くなった。たしか七夕の起源は織姫様と彦星様のラブストーリーみたいな感じだったはずだが、どのような経過を辿ってここに残っているのだろうか。まあ、なんとなく予想はつくけど。彦星、お前女だったんだな……。

「あ、今日は七夕だね。紗奈は何を願うの?」

 続いて美咲も気付いたようで、短冊を一つ取る。アタシの願い、言うまでもなく世界が元に戻ることだが、それを書いても変なやつ呼ばわりされるだけだ。ここは一つ、無難で小さな願いを。

「次の模試、一個でも美咲に勝てますように」

 うん、これくらいなら神様も叶えてくれるだろう。期待してるぞ神様。叶わなかったら、まあその時は素直に負けを認めよう。最後は自分の努力の結果だし。アタシの願いを見て美咲は何それと笑って、自分の願いを書き始める。ええい今に見ていろ、絶対一教科は勝つ。

「それで、美咲は何を願うんだよ」

 そそくさと笹に短冊を吊り下げて、美咲の願いを聞いてみる。どうせ、可愛い彼女ができますようにとか、そんな願いだろう。あるいは、夏休みを目一杯楽しむ、とか。

「ん〜? 教えて欲しいの?」

 美咲は勿体ぶってわざとアタシに見えないように紙を隠しながら書いていく。別にそこまでのこだわりはないが、隠されると人は暴きたくなる生き物である。あちらこちらと回り込んだりしてみようとするが、美咲は美咲でうまく隠すものだから、なかなか見られない。

「なに、そんなに見たいの? 仕方ないな〜」

 アタシを散々からかって満足したのか、しばらくすると美咲はペンを置いてこちらを向く。短冊はまだ胸元に隠されてはいるが、見せる気になったのだろうか。口ぶりは少し不服だが、気になってしまったものは仕方ないので、甘んじて受け入れよう。

「気になる私の願いは、これでした〜!」

 ぐいっと目の前に示された短冊に書かれていたもの、それは——。

『紗奈とまた一年一緒にいられますように』

 不意打ちで向けられる好意に、胸が熱くなるのを感じる。

「でも、なんで一年?」

 いっそ、一生とか書いておけばそれでいいだろうに。それとも、それ以降はお別れになる予定でもあるのだろうか。それはそれで、少し寂しいものがあるが。

「だって、期間を短くした方が効力ありそうじゃん。毎年、契約更新しているのですよ」

 やっぱり、アタシよりも頭がいいんだろう。その発想は、正直なかった。

「と言うことで、これからもずっと一緒にいようね〜!」

 そう言って笑う美咲に、アタシまでつられて笑ってしまう。どうかずっと、一緒でありますように。

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