12日目「傘を忘れたアタシの負けか」
金曜日、今週もついに残すは休日のみとなったわけだが、放課後になってあたしの気分はひどく落ち込んでいた。外はざあざあ降りの雨、カバンの中には教科書に筆記用具と勉強道具のみ、傘立てには、他の生徒の傘ばかり。さて、どうしたものか。現実の直視が怖くて朝のニュースを見なくなった結果、アタシは1日の天気をチェックする習慣などどこかに行ってしまっていたのである。朝の清々しいほどに眩しい太陽を返して欲しいくらいだが、そんな気持ちなどどこ吹く風で今は雨雲がどこまでも覆い尽くしている。じき止みそうな気配もない。人の傘を勝手に使うわけにもいかないし、コンビニは学校からだとそこそこ遠いから、着く頃にはびしょ濡れは避けられまい。なすすべなしである。母さんに連絡してもいいが、既に校舎付近は車でたくさんになっているだろうし、母さんに悪い。
「あれ、紗奈まだ残ってたの?」
教室で一人外を眺めていると、美咲がアタシに気づいたようで歩み寄ってくる。手元に傘を持っているし、帰るところだったのだろう。おおかた、一緒に帰ろうと昇降口まで来て、アタシの靴が残っているのに気づいたのだろう。わざわざ探さなくてもいいのに、なかなか懐かれているものだ。
「傘忘れちゃってさ。車減ってきたら母さん呼ぶから、先帰りなよ。それとも乗ってく?」
事情を説明し、わざとらしく気丈に振る舞う。正直な話、雨は嫌いなのだ。ジメジメして、髪が軋んで、頭は痛いし気分は沈む。雨の匂いが好きな人もいるようだが、アタシはあれもなかなか好きになれない。
「そうだ、私にいい考えがあるのですが!」
美咲は少し考えると、思いついたように顔を上げて、そう切り出す。美咲のいい考え、信用ならないというか、嫌な予感がするのだが、大丈夫だろうか。そんなアタシの不安をよそに、美咲はアタシの手を掴んで昇降口まで引っ張っていく。外はまだ雨が降り続けているが、まさか相合い傘とか言わないだろうなと美咲の方を見ると、にっこりと笑って口を開く。
「私の傘に入って帰ろう。家も近いんだしさ」
まさしくその通りだった。そんな、本気かこいつ。なんて思ったが、周りを見ると仲のいい子がむしろ進んでやっているのが見える。本気かこいつら。余計に頭が痛くなってくる。考えるだけ、無駄かもしれない。仕方ない、美咲の提案に乗ろう。
「わかったよ。ちゃんと寄れよ、濡れるから」
わざわざ入れてもらう以上、濡れさせるのは申し訳ないので、一言加えて傘に入れてもらう。岬の傘はだいぶ大きめのものだったので、しっかり寄ればだいぶ濡れずにすみそうだ。
「う、うん。紗奈こそ、ああだこうだって距離取らないでよ?」
アタシに言い返す美咲の声が少しうわずっているのは、気圧のせいだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます