11日目「夏到来」
「今日から7月です」
昼休み、たまには一緒に食べないと美咲が拗ねそうなので、今日は教室で落ち着かない昼食である。ある程度分別がついたようで、机に群がってくるような奴はいなくなったが、それでも視線が痛い。なかなか面倒だ。
「そうだな」
美咲の言葉に、特に思うところも何もないので、適当に返しながら弁当を頬張る。母さんの弁当はやはり美味い。特に今日はアタシの好きな唐揚げなので、なかなかにテンションが上がる。心なし口角が上がる気がする。
「7月といえば、夏到来というわけなのですよ」
それにガーリックライス。口臭が気になるのはこの際仕方ないとして、なかなか完成度が高い。凝り性で専業主婦ともなると、弁当のレベルもなかなか高くなってしまうものだから、困りものだ。これでは食欲に収まりがつかなくなってしまう。
「そうだな」
夏といえば、やはり夏野菜カレーなんかもいい。トマト、ズッキーニ、ピーマンになす、オクラなんかも入って健康的、それでいてしっかりおいしい自慢のカレーだ。梅雨が明けたら一気に暑くなるが、やはり食欲不信とは無縁なのだろうと、期待に胸が躍る。
「そこでです!」
美咲は急に机を叩き出したかと思うと、立ち上がってアタシに指を指す。あまりに急だったものでびっくりしてご飯を喉に詰まらせてしまった。なんだコイツ、ふざけてんのかとキレそうになるが、そんなアタシをよそに美咲は続ける。
「今度プールに行くよ!」
意気揚々と語る姿に、アタシは自分でも露骨に嫌な顔をしているのを理解できた。わざわざお金払って人混みに揉まれるのか。いや、今週末ならまだ暑くもないのでそうはならないかもしれないが、今度はそんなに暑くもなのにプールに行くという問題が発生する。嫌だなぁ、暑くもないプール。授業ならまだしも自分で金を出すなんて全く気が進まない。
「決定事項なんで、今週末ね」
どんどん強引に話を進める姿に頭が痛くなる。何が一番面倒って、これは何も世界の異変にまつわるものではなく、初めっから美咲はこういうやつなのだ。人の話を聞かないで自分勝手に話を進める。よくこれで先輩方は好きになれたなと思うが、その時はその時の顔をするのだろうか。
「あ、友達他に呼んでもいいよ」
友達って、別に特別誘って行きたいような人なんていないし、どうせ二人で行くんだろうなと思ったが、ふと数人の顔が思い浮かぶ。明日花さんは、ちょっとまともな関係を築き続けたいので遠慮するとして、美緒はどうだろう。まさかプールで思春期男子ばりの反応でもするのだろうか。それはそれで見てみたいが、部活がありそうだ、連絡だけとりあえず入れておこう。あとは、うん、紫音さんは面倒くさそうだからやめておこう。
「まあ、都合がつけば呼んでおくよ」
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