8日目「この先輩、面倒臭過ぎる」

 異変が起こってから、一週間が経っていた。すでに学校での生活にはだいぶ慣れていて、今日は昨日に引き続き同じ境遇の仲間と会う約束をしている。とはいえ平日、今日会うのは同じ高校に通う三年生の先輩である。名前は須藤紫音、自然科学部だ。昼休みに情報処理室に来るように言われて、今入り口まで来ているのだが、中には誰もいないようだし、鍵もかかっている。もしやこれは、遊ばれたということだろうか。

「いや〜ごめんごめん。鍵借りるの手間取っちゃってさ。今開けるから待ってて〜」

 もう戻ろうかと思い始めた頃、鍵を指にかけて回しながら、紫音さんと思しき少女が現れた。髪はボサボサでカーディガンの袖はだらしなく伸び、纏う雰囲気もやる気なさげで締まりがない。なんというか、女子力の全てをどこかに置いてきたような人だ。失礼かもしれないが、そんな印象を抱きながら一緒に情報処理室に入る。

「紫音さん、でいいんですよね」

 一番手前の席に座ってぼーっと虚空を見つめだした少女に問う。しかし彼女は否定するでも肯定するでもなく、ん〜、と小さく唸っている。

「紗奈くん、だっけ。男って結局、なんだと思う?」

 アタシの問いを完全に無視して、紫音さんは問う。しかし、そんなふうに問われても困る。というか、そんなことを聞くということは、この人はやはり仲間ではないのではとさえ、疑ってしまう。

「まだ世界が変わって一週間、なんとも言い難いんだけどさ、一応女性同士で生殖できるんだろう? それが事実なら、私たちの記憶が真実だという証明は難しいんじゃないかと思って」

 いまいち言っていることが理解できないのは、アタシの頭が悪いからではないと思う。自然科学部というか、理系的な推測なのだろう。つまり、女性だけで子作りできるなら男の存在が証明できないってことか?

「生物としての最低限の存在意義がないんだから、なければおかしいと言えないんだ」

 そういうものか。しかし、それこそ彼女の言う通りまだ一週間しか経っていない以上、辻褄合わせの理論に過ぎず、本当に生殖できるのかは数ヶ月の検証が欠かせないわけだが。

「つきましては、生殖行為と経過観察をしてみたいんだけど」

 紫音さんは笑いながら話す。え、今アタシは何を提案されたんだ? あまりに無神経というか、ぶっ飛んだ質問に、思考が止まってしまう。

「ああ、冗談だから気にしないで。私責任とか追いたくないし」

 アタシの反応を見て、面白がって笑いながら答える紫音さんの姿に、アタシはすでにだいぶ面倒くさくなってきていた。やばい、この先輩面倒くさ過ぎる。

 顔を引き攣らせながらも、アタシは新しい仲間との出会いに、憂いを感じた。


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