7日目「初めての仲間」

 日曜日、時間は午後1時。あまりに急な交流の場に緊張しながらも、アタシはその仲間のいる駿河女子高校に来ていた。相手の名前は伊東美緒、アタシと同じ高校2年生、らしい。あまりに簡単に仲間が見つかってしまったのもあって、どこまで信じたらいいかも分からずにいる。校門で待っていて欲しいとのことなので、しばらくスマホをいじりながら待つ。

「お待たせしました。長尾紗奈さん、ですね」

 ついてから数分ほど経っただろうか、汗だくのポニーテール少女がアタシに声をかけてきた。部活動に明け暮れていたのだろう、肩から棒状の布袋を下げている。

「ああいや、そんな焦らなくても、来たばっかなんで。はい、えと、伊東美緒さんですか」

 相手の律儀というか、形式ばった話し方にアタシまでそれなりに堅い話し方になってしまうが、それでも彼女のように話せないあたり、育ちの良さというか、この学校の教育方針というか、色々察せられるものがある。そんなことをぼんやり考えていると、彼女は頷いて校舎に向かって歩き出す。

「では、ここで話すのもなんですので部室に案内しますね」

 案内に従ってアタシはついていくが、どことなく不安を感じていた。こんなに汗だくになるような運動部の部室、考えただけでにおいがすごそうだ。女子だって汗をかけば臭うし、仕方ないことだが、男女関係なくそういう臭いはあまり好むものでもない。大丈夫だろうか。

「ここです。ああ、臭いはご心配なく。更衣室と道場は別で、ここはミーティングに使うだけの場所なので」

 不安の表情が現れていたのだろう、美緒は気を利かせて説明を加える。そして、次いで気付いたように自分のことを見たり嗅いだりして、アタシに問う。

「もしかして、私が臭ってますか?」

 アタシは即答で首を振った。彼女からするのは、制汗剤の涼しげな匂いで、少なくとも不快に思うほどの汗の臭いはしない。アタシの答えに安心したようで、美緒はほっとため息を一つ。

「あの、さ。同じ学年なんだし、敬語やめない?」

 ついにアタシは我慢できずに提案する。ついにって、別にそんなずっと我慢していたようなことはないのだけど。ほら、せっかく同じ境遇なんだし。

「っ! そうだね、それがいい。僕も作法とか得意じゃないんだ」

 アタシの提案に、美緒は喜んで言葉を崩し始める。さっきよりよっぽど気が楽なのだが、それはそれで違和感を覚える。今彼女、自分のことをなんと呼称しただろうか。

「本当、困ったよね。男が消えたせいで、まるで僕の内面が否定されたみたいでさ」

 ナチュラルに織り交ぜられた言葉の節々に、アタシは驚愕した。

 伊東美緒は、トランスジェンダーの少女(少年)であった。

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