5日目「百合の日はあるのかよ」

「一週間本当につかれたな」

 金曜日の帰り道、やっと一週間が終わると安堵のため息をこぼす。そして、すでに男という男が消えてから5日が経ったのだが、全くもって元通りになる感じがしない。いっそ諦めた方がいいのだろうか。

「それはこっちのセリフだよ。急にお昼の時間とか逃げるようになるんだもん」

 美咲は呆れた様子で文句を言うが、返す言葉もない。この世界において異端はアタシである。それに、美咲は他の子達と比べて比較的まともなのだ。それゆえ、あんな形で一緒にお昼を食べるのも避けてしまうのだから、もしかしたら傷つけてしまっているかもしれない。そう思うと、多少の罪悪感も湧いてくるというもの。

「悪かった。なんか奢ってやるから、機嫌直してくれ」

 コンビニに入りながら、美咲に提案する。そんなので許してくれるだろうかと思ったが、美咲はアタシの言葉にすぐさま喜んでお菓子コーナーに直行する。ちょろい、ちょろいぞ美咲。

「紗奈、これ買って」

 美咲はポッキーを差し出して満面の笑みで話す。ポッキー、そこそこ値が張るがまあいいだろう。ちょっと分けてもらうとして。それ以上買いたいものもないので、そそくさと会計をして帰路に戻る。

「ほい、ポッキー」

 買ったポッキーを渡してやると、美咲はふっふっふ、と意味ありげに笑ってポッキーを開封する。何をする気だ。いや、ポッキーで悪巧みなんて数えるほどしか浮かばないが。

「紗奈、こっち向いて口開けて」

 案の定、美咲はアタシを誘導してポッキーを口に咥え始める。

「ポッキーの日ははるか先だぞ」

 呆れながらに諭すと、美咲はチッチっと指を振って聞いてもいない言い訳を始める。

「今日は百合の日ですぞ。女の子同士がイチャイチャするのを推奨する日なの」

 同性愛の概念こそ消えたが、そういった要素は残っているのかと、少し呆れてしまう。まあ、仲良くすることを推奨すること自体は、まあおかしくはないけど。それでいいのか。

「それに、奢ってもらっただけで許す私じゃないのですよ」

 なんと器の小さい。とは流石に言えないか。しかし、なかなか気が進まない。アタシはこの世界の距離感に慣れていないのだ。ましてやキスまがいの行為など、お断りしたいことこの上ない。

「途中で折ってもいいならやるけど」

 あらかじめ断っておこうと言うと、美咲はげんなりする。

「ロマンの塊もないな〜、まあそう言うところが紗奈らしいんだけどさ」

 そう言いながらも諦めることなく咥えたポッキーをこちらに向ける。仕方ない、付き合ってやるか。そう思い切ってポッキーをもう片方の端から食べ進めてやる。美咲の顔が近づいてくるのを感じると、アタシが折る前にポッキーは折られてしまった。

「そんな、ガッツリ見つめますかね」

 顔を真っ赤にした様子で美咲は話す。どうやら美咲が耐えかねて折ったようだった。

「そう言われても、見なきゃ折れないだろ」

 変なことを言う奴だ。

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