4日目「落ち着いて飯も食えない」

「やっと昼飯だ……」

 四時間目が終わりようやく昼休み、高校生にとって体と心を休める大事な時間である。しかし、アタシの昼休みは全力疾走から始まる。アタシだってこんな昼休みは嫌なのだが、致し方あるまい。教室でのんびり弁当を食べようとした途端に一緒に食べようの大渋滞で身動きが取れなくなってしまうのだ。全くもってわけがわからない。

「ほんっと、勘弁してくれよ」

 結局、アタシは屋上で扉にもたれて弁当を食べるのである。屋上のドアが押し扉で良かった。逆だったらこうしてセルフバリケードもままならない。昼食くらい落ち着いて食べさせてくれ。

「ん、人気者の紗奈さんだ。ここで食べてたんだね、お昼ご飯」

 ゆっくり腰を下ろして弁当を食べようと思った矢先、見知らぬ少女の声に意識を持っていかれる。何年生だろうか。アタシのことを知っている様子だし、多分先輩なんだろうけど、どうしたものか。アタシを好く側だったら面倒だが、少なくとも今のところ理性を失っているような様子はない。

「あ、私は可愛い子の方が好みだから、安心して」

 アタシの警戒を察してか、その少女は笑ってそう言うと、アタシと向かいの柵に腰掛けて弁当の包みを開く。なんだか、変な気分だ。今までまともじゃない奴ばっかり相手にしてきたせいで、全員とち狂ってしまったのかと思ったが、まともな奴もいるらしい。アタシも自分の弁当を開く。

「なんだか、今週の紗奈さんはいつもと違うね」

 黙々と弁当を食べていると、その少女は興味深そうにこちらを見つめて話しかけてくる。違うって言われても、アタシはこの世界での先週以前の自分を知らないのでなんとも言えないのだけど。

「アタシ、今までどんなだったんですか」

 アタシはつい、自分に好意を示さない人間というだけで特別な何かを感じ、変な質問をしてしまった。案の定アタシの質問の意図を測りかねているようで、首を傾げている。

「記憶喪失か何かなのかな? うーん、今まではここまで必死の抵抗みたいにしてなかったと思うけど」

 おかしくない答えだった。アタシの、正しい意思が反映されてない部分だ、生合成が曖昧になっていてもおかしくはなかった。しかし、抵抗していないアタシってなんだか想像できない。一体どんな日々を送っていたのやら。

「ありがとう、ございます? えっと、名前……」

「明日花。花村明日花だよ。程々に仲良くしてほしいな」

 明日花先輩はそう言って弁当をしまうと、こちらに歩み寄ってくる。

「よろしくね、紗奈さん」

 微笑むとそのままドアノブに手をかけ、戻ろうとするのに気づく。慌てて避けると、彼女はありがとうと一言言ってそのまま行ってしまった。なんだか、不思議な人だ。

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