3日目「水泳の時間から逃げたい」

 異常な世界ももう三日目、戻る気配もなく、流石に慣れた。そう、はっきりと主張できたらどれほど良かっただろうか。今日は水曜日、体育の日である。内容は、水泳。そして、アタシの気のせいであって欲しいのだが、体育の前の休憩時間から、不可解な視線を一心に浴びている気がする。嫌な予感がこれでもかというほどの寒気を発している。

「なんか、寒気がするから体育休もうかな」

 誰とも目を合わせないように席を立って保健室に向かおうとするアタシの手を、何者かが掴んで引き止める。誰かと振り返れば、それは美咲だった。こいつ、なんのつもりだ。

「大丈夫、絶対気のせいだから」

「なんでお前が断言するんだよ」

 必死すぎて引いてしまう。何がそこまで美咲を駆り立てるのか。

「本当、お願いだから一緒に水泳しよう」

 必死の懇願にげんなりしてしまう。なんだか、あんまり必死に拒むのも疲れそうだし、クラスの不和を生む気がする。でもなあ、この視線の中で水泳をするのもなかなかしんどい。前門のセクハラ後門の気まずさと言ったところだろうか、なかなかに目も当てられない惨状である。

「分かったから、その必死に食い下がるのやめろ」

 結局、時間も惜しいので諦めることにした。憂鬱だが最近暑いし、まあ、涼むためのちょっとした犠牲として甘んじて受けるとしよう。というか、水着を忘れてこなかった時点でなんとなくこうなる気はしていた。

 なんて、なんだかんだ受け入れた自分を殴りたい。更衣室で服を脱ぎ始めた途端に視線の雨である。この世界、本当に歪んでいる。アタシが何をした。

「やっぱりさ、紗奈ってスタイルも相まって絶対モテるよね」

 美咲がじっとアタシの腹部を見て語る。別に今更話さなくても、視線でだいたいモテてることはわかっている。流石にこれで気づいていなければ鈍感主人公と大差なかろう。

「あんまり見るようなら今からでも見学にするぞ」

 セクハラをする友人を置いてプールサイドに向かう。もう視線のことは忘れよう。アタシは真面目に水泳をして終わり。それでいい、そういうことにしようじゃないか。

「紗奈が一番か。みんな何やってるんだ」

 先生は呆れた様子で更衣室の方を見る。本当、何やってるんだか。

「しかし、本当に紗奈はかっこいいな。教師という身分にこれほど相反する感情を抱いたことはない」

 アタシも今まで、これほどまでに教師に対して不信感を抱いたことはない。なんてことだ、ていうかあんたそんなこと口にする人じゃなかっただろ。本当に、この世界は狂っている。

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