2日目「案の定半分に」
男という概念が消失して1日が経過したが、アタシはまったく納得できてないし、理解もできていない。
「紗奈ちゃん昨日から変だよ?」
変なのは絶対にこの世界なのだが、どういうわけか残された人類はアタシを除いてその事実を認識していないので、相対的にアタシがおかしいということになる。なんという理不尽。
「アタシ、悪い夢でも見てんのかな」
スカスカの教室を眺めてぼんやり呟く。男が消えた分の補填はなく、不自然にスキマの生まれた世界。それを自覚しているのが自分だけという異常。ため息の一つでもつきたくなるというものだ。しかも、男が消えた反動かなんなのか分からないが、女っけのないアタシの元に謎の人気が出ていたのである。昨日、登校してきたら普段顔すら合わせないような先輩後輩からにこやかに挨拶をされて驚いたのは記憶に新しい。今日はそれにビビって教室まで全力で逃げてしまった。そも今までだってそこまで名の知れているような人間ではなかったはずなのに、あまりに無理のある改変ではないだろうか。
「あんなにモテるならいい夢じゃん」
美咲は羨ましそうにボヤくが、それの何がいい夢なのか分からない。
「アタシはレズビアンじゃないっての」
男に興味なさそう、とはこんな世界になる前にわりかし噂されていたというか、まあ、口の悪さとか女らしくないところとかで言われていたのだが、まさかそんなアタシが今一番異性を好む人種になってしまったと思うと、なかなかにゾッとしない。
「まーた訳わからないこと言ってる。変な本でも読んだの?」
そうか、女性同士で恋愛することが普通という認識になってしまったがために、レズビアンという考え方が生まれなかったのか。男性にまつわるワードばかりが消えていたもので、すっかり失念していた。
「いや、忘れて。なんでもないから」
この調子でいくと変な本に影響された痛い人になってしまう。アタシは厨二病ではないのだ。と、強く訴えたいのだが、ここまであからさまに世界が変わったのを見るに、元の世界の像がアタシの妄想なのではとも思う。だめだ、頭がおかしくなる。
「次の授業ってなんだっけ」
思考を逸らそうと、次の授業のことにシフトする。そう、生徒が半分に減れば、教師も半分に減ったのだ。元々男女比が綺麗に調整されていたのか、全ての教科に均等に教師が配属されており、昨日の授業もつつがなく進んでいた。まったく不思議なことである。
「次は、確か保健だったよ」
保健、生殖活動、少しだけ身構えるアタシであった。
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