第4話 ここから
「わ、わるいわね・・・・・・」
「なあに。気にすることないさ。近くのカフェでも寄ろうじゃないか」
チャランチャラン
あの時プロテアを除く女神たちの転移魔法を受け、プロテアはどうにか抵抗しようとしてくれた。しかし、その甲斐虚しく呆気なく転送されてしまった。それから俺たちは物凄く落ち込んでる。いや落ち込んでいた。
——そして今、やっと気分が落ち着いてきたところだ。なんとも騒がしい入店音ともに俺たちが入店したこの店。この店は異世界のスタバのような場所だった。見栄えだけで入ってきてしまったが中々に良さげな店だな。店員さんも可愛いし。
しかし、プロテアのヤツまだ落ち込んでやがる。なんと声をかけたらいいやら。俺たちは空いている席をみつけそこに座ることにした。───まあ確かに長い間築き上げた友情がいとも簡単にこのザマだ。他の女神との事が酷く心残りになっているに違いない。俺は意を決して
「過ぎた事を悔やんでも仕方ないじゃないか? プロテアさんよ」
「でも、関係の無いはずだったあなたまで巻き込んでしまって、、申し訳ないわ・・・・」
「まぁ不本意で呼び出されたことに関してはまだ納得がいってねえが今更どう足掻いたってこの現状は変えられないだろう。俺はどんな環境だって、与えられた環境の中で精一杯出来る事をやる。だから、もう落ち込むなよ」
「分かったわ。じゃあこの一番高いプラペチーノ頼んでもいい?」
そう言ってプロテアはにこやかにメニュー表の中からフラペチーノを刺して見せた。この店の看板メニューだろうか。とても美味しそうにみえる。プロテアが刺しているのは苺味だろうか。まあしかし少しでも気持ちをリフレッシュするつもりだろうか。まあ何にせよそれで気持ちが晴れるならいい事だ。俺はプロテアの問いかけにこくりと頷く。
でも俺に許可をとる必要ってあるの? しかし、現実世界にある食べ物は意外にもこっちにもあるもんだな。そんなら俺の好物のザラメ煎餅もあるのかな? 俺は妙に感心し一番安い飲み物を買うことにした。
俺はとっとと現実世界に帰りたいし。他の奴らになんて友情もクソもないしね。
「・・・・なら俺はこの一番安いヤツを」
♢
木製のテーブルに飲み物が置かれた。やっとか。随分の長く感じたぜ。まあ初対面の女神と二人きりだもんなあ〜。そりゃ気後れしちまうよ。飲み物が届くまでは何とか世間話程度で乗りきった。
お目当ての苺フラペチーノが手元に届いたプロテアはさっきまでとは打って変わって目を輝かせていた。飲み物が届いたし、今だ今がベストタイミング。プロテアもすっかり本調子になったようだし、と俺はなしを切り出した。
「プロテア? 話は変わるが、魔王を倒すとなれば当然今のステータスじゃ到底敵うはずがない。数値上げは必須項目だろ? レベル上げはどうやってするつもりなんだ?」
すると、プロテアは得意げな顔をしだし、よくぞ聞いてくれました! と言わんばかりに何か話し始めた。
「ふふ。この王国の事なら知らないことなんて無い! このプロテア様に任せなさい!」
なんとも威勢がいいな、さっきまで落ち込んでいた女神はどこの誰だったっけな。
──さらにプロテアは続けて
「そうゆうことならっ! 無能(レベルがひくい)勇者に持ってこいの村があるわっ!」
そう言ってドヤ顔をかました。そして、プロテアはなにやら目を細め始めた。なにやってるんだか。そして固まり動かなくなった。
その頃にはもうすっかりフラペチーノも飲み干していた。
ズズズ あー。一番安いコーヒーが染みる〜。俺は固まって動かなくなった彼女をジト目でじーっと見つめた。
すると次の瞬間、彼女は大きく目を開き、どこから取り出したのやら全く分からないが右手に大きな紙を持っていた。
「おお、凄い。一体どうやってだしたんだい?」
「説明が面倒臭いから割愛よ!」
「・・・・おお、そうか。それは残念だ」
さほど興味無いし別にどうって事ない。うう・・・・俺は一番安いコーヒーをずずずと啜った。もし同情してくれるのならば俺に苺フラペチーノを恵んでくれ。
するとプロテアはテーブルに地図をドドンと大きく広げて「これを見なさい!」と続けた。
「そう! 何を隠そうこれがこの王国の地図よ! とっても細かくかかれてるんだからっ!」
「ほう。そりゃ凄い。確かによく書き込まれてるな。──それで、一体どこの村が俺程のステータスに見合った村なんだ?」
「まずここを見なさい!!」
そう言ってプロテアが刺したのはある小さな村、カルミア村と書かれた村だった。少し年季が入った地図に確かにこの村はあった。
「ここ、か。決して大きくはない村だな。それはそうと、この村には俺でも倒せそうなモンスターがいるのか?」
「ここの村には基本的にスライムしかいないわ。レベル一にはもってこいの場所ね。逆をいえばここの村より安全な村はないわ。精進することね」
少しホッとした俺のステータスレベルでも倒せるモンスターが湧く村があったとはな。ひとまず安心ってとこだ。
「ああ分かっている。いくら雑魚相手だって油断はしない男だぜっ!!」
「──まあそれはいいが、地図を見る限りここからこの村まではかなり遠いような気がするがどうやって移動するつもりだ?」
そう言って現在地から村までの距離をなぞってみせた。すると、何を思ったのかプロテアは高笑いした。
「ふふふっ。あなた白石といったかしら。ふふふっ、私(めがみ)を舐めてもらってちゃぁ困るわっ」
彼女にはなにか秘策でもあるのだろうか。
「・・・・というと?」
探りを入れるかのような顔をして問い掛けてみる。
──すると彼女は再び目を細め始めた。またか、なにやってんだか。俺は再び一番安いコーヒーをずずずと啜った。このコーヒーももう少しで無くなってしまいそうだった。
彼女はまたもや目を大きく見開いた。そして、立ち上がり両の手のひらを隣り合わせにし力を込め始めた。ごごご、というとてつもない音が鳴り響いた。と同時にゲートのようなものが開かれた。見た目といえば、縁が漆黒で囲まれており邪気を放っている。
とてつもなくかっこよかった。それはそれは厨二心を擽られるほどに。
「どう?」
「これは凄い。どこ〇もドアか?」
プロテアは首を傾げて見せた。そしてスっと力を抜きゲートを縮めた。恐らく店の中でゲートを開くのはまずいと思ったんだろう。案の定店員がこちらをチラチラとみている。
「よし。何にせよこれで心配事はなくなったな。これを飲み終わったら本題だっ!」
晴れた顔でそう言い放つ。するとプロテアはまたゲートを広げた。俺が不思議そうに見ているとプロテアはニヤリと笑ってこう続けた。
「白石っ! ご馳走様っ!」
それと同時に彼女はてへっと笑ってみせる。俺は一瞬困惑したがこれが意味する事をいち早く察知した。するとプロテアは俺の喋る隙も与えず、
「『与えられた環境の中で出来る事を精一杯やる』頑張ってねっ! 外で待ってるわっ!」
そう、これはかつて俺がプロテアにかけた言葉。失敗した。俺、まんまと嵌められたのか。俺は咄嗟に「ちょっとまて!」とは言い出したものの、最初の一文字すら彼女に届かなかった。
一文無しの俺はどうすればいいのやら。残ったコーヒーに映る自分を見つめた。なんだか虚しくなってきた。こんな王国にまできていい事なんて一つもないな・・・・。俺は虚しさを吹き飛ばすかのように残りのコーヒーを一気にググッと飲み干した。
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