第3話 かえりたい
・・・・一体ここはどこだ? 真っ白なテーブルに真っ白な椅子。どうやら俺たちは壁際にたたされているようだ。そしてこの部屋はどこもかしこも白で統一されていて妙に見栄えが良いが。
すると
「こんにちは、お目覚めになられましたか? 勇者御一行様。私たちはここマーガレット王国の女神です。っ申し遅れました、私の名は風の神、アスターと申します」
アスターが俺たちに優しくほほ笑みかけ、軽く会釈をした。ん? どうなってるんだ? マーガレット王国とはなんだ? 勇者御一行・・・・・・なんの事だかさっぱり分からない。状況が掴めないぞ。ここに来る前、俺は図書館に居たはずだ。こんな場所に見覚えなどない。
ホントにここはどこなんだよ。そもそも俺はなぜこんな所に? 全く、せっかくの休日を返して欲しい。俺はまだ本を読みみ足りないってのに。
・・・・・・話は変わるが、それにしても中々の美人だなこのアスターって子。さてはお姉さん系だな? 俺の好みどストライクだ。学校に居たなら間違いなく目をつけていただろう。むむむ、まあしゃーない。せっかくの休日が無くなってしまったのは悔しいがこの子に免じてせっかくの休日の事は目を瞑ってやるとしよう。
「おい? ここは一体どこなんだ?」
次に口を開いたのは他の勇者らしき者だった。おっと、そういえば御一行と言っていたな。・・・・・・となると、俺の他にもいるという訳だな? アスターを狙うライバルが。気付かれぬよう俺はそぉーっとと横目で確認する。あちゃーっ、こりゃ俺含め四人ってとこだな? ライバルは多い方がヤリがいがある。
ふふふ、コイツらにゃ申し訳ねえがアスターは俺がいただくぞっ。
「あぁ、こいつに同感だ。はやいところ元の場所に戻してくれ」
「んん、僕は面倒事が嫌いでね? 出来れば関わりたくないつもりだよ」
口々に他の勇者がアスターをせめたてる。いやん、みんなオレのアスターをせめないで〜っ。そして遂に俺も口を開く。
「美人さんに会えなくなるのは少しばかり名残惜しいが、俺も元の場所に戻りたい。出来れば早急にな、読みたい本があるもんでね」
アスターは、はっ、としたような顔をして「そういう事でしたら」と続ける。
「ではまず初めにことの次第をお話します」
それから彼女は随分と畏まった様子でなにやら、事の経緯をはなし出した。他の女神は勇者一行を見つめるばかりで口を開こうとはしなかった。
そして、ひとりプロテアは冷や汗をかきまくり目も泳ぎまくっていた。だが幸い誰も気に止めなかった。
「───という次第です」
説明が終わり、感想としては手短で簡潔に纏められており、この王国についてよく知らない俺たち勇者にも分かりやすい説明だったと思う。そして今この王国には前例のないピンチが訪れている、魔王軍のことだ。そこで勇者召喚を行い、俺たちを呼び出した。
となると俺たちが最後の頼みの綱ってわけか。俺はこの王国の危機を目の当たりにして見過ごすことなどできない。そんな男ではない! ・・・・・・まぁ、こっちの世界で万が一殺されたとしても現実世界とはリンクしてないらしいしな。よし、こんな深刻な王国の情勢を知ったからには! ・・・・・・オマケに美人さんからの頼みだ。引き受ける他ない!
すると俺含め勇者全員が異口同音に言い放つ。
「「「「「よし、引き受けた!」」」」」
アスターは呆気なく引き受けてしまった勇者たちに、さっきあんなに文句を垂れていた奴らはどこへ行った? というような表情でみつめる。
ああ、時に女神よ、融通のきく勇者たちでよかったなあ・・・・・・そして美人はいいよな、つくづくそう思う。少なくとも美人補正はかかっているだろうよ。
「それはそうと、皆さん。引き受けて下さりありがとうございます!」
風の神 クフェアが真っ先にお礼を伝える。それに続いてほかの女神をお礼を重ねる。
「「「「ありがとうございます」」」」
俺たちは「どうも」と、軽く会釈をした。するとクフェアがまたもや口を開いた。
「では早速、ステータス確認の方を・・・・・・」
おっ、異世界ならではのイベントのひとつだな。さてさて、俺のステータスはどの程度かなーっ? 勇者に選ばれる位だ。ステータスは標準値をどの程度上回った数値がでるかなーっ! 彼女は再び説明を続ける。
「ステータスの確認は頭の中で念じる事が引き金になってます」
我先にと次々ステータス確認をし始める勇者達。その中には
中野(なかの)律(りつ)
「うっひょ〜っ! 俺のステータスは全て二百越えだ!」
さっきの説明で知ったことだが平均的な標準値は百辺りらしい。コイツが浮かれている理由が分かっただろう? 律は自分のステータスをみるやいなやキラキラと目を輝かせている。
佐藤(さとう) 楓(かえで)
「ほうほう、基本的な数値は百五十を上回る位だが攻撃力の数値は顕著に見て取れる。標準値を三倍ほど上回る三百だね。悪くないと思うね」
岡田(おかだ) 結斗(ゆいと)
「う〜ん。基本的な数値は二百五十を越えているが魔法に関しては著しく低い。──これは考えものだな」
それぞれが自分のステータスを見つめこれから迫る戦闘の作戦を練っているようだ。
「よし。俺も俺もっ。───ん? なんだこの数値。バ、バグ、じゃないよな? おい、嘘だろ? なんだこの数値は! 全てに置いて綺麗なまでに一じゃねえか!!」
他の勇者とは打って変わって俺のステータスは何故かオール一だったのだ。
その間プロテアは青ざめた顔で湊人を見つめていた。まるで女神だとは思えないほどに。
「──伝えそびれていましたがスキルに関しては後の戦闘で発現するものと考えて下さい」
丁寧な口調でアスターが続ける。しかし、今の俺にはスキルの話など全く頭に入ってこなかった。そして俺の焦りを感じとったのかアスターが話しかけてきた。
「白石さん。どうかなさいました?」
すぅーっ深呼吸をひとつ。俺はたどたどしくこう続けた。
「あ、あのー。俺のステータスに関してなんですが・・・・・・」
「ステータスの事でしたか! どうですか? 貴方様の数値の方はっ! あなた方にはこの王国の未来永劫がかかっているんです! 期待していますよ!」
「まあ、なんというか、とても言いづらい話なんだが・・・・・・」
嘘偽りなく俺のステータスについて全てはなした。俺は申し訳無さそうな顔をして、軽く頭を下げた。このまま俺は『残念ながら、この王国は救えない、辞退させてもらうぜ』とか捨て台詞吐いて元の世界に戻ってやろう。という考えになっていた。
こっちに転ぶ方が俺にとっては好都合だからな。しかし、アスターはいちいち反応が大袈裟なやつだった。
「ええええええ!!!!!!!!!! 白石湊人さんのステータスがオール一だってええええ!!!!!!!!!!」
目をまん丸にし、大声を出す彼女に全員の視線が止まった。まわりの勇者からは『オール一ってのは本当か?』『アスターさんが言ってるんだ違いないだろ』『あいつ本当に勇者なのか?』『こりゃ他でもない足でまといだ』などと言った罵詈雑言が飛び交っていた。
決して鮮明ではないが微かにそして確かに俺の耳には聞こえた。
するとアスターはさっきとは打って変わって女神を見回し胡散顔をした。
「ちょっとまって? ここに居る女神は勇者を召喚する前にステータスを確認することが出来たはずよ? なぜこんなステータスの者を呼び出したのかさっぱり理解できないわ」
「確かに、、アスターさんの言う通りです。この勇者様を候補に選んだのは一体誰でしょう?」
「ううん、わたしじゃないよ」
「私でもないです」
次々と女神たちが否定を重ねていく。
「勿論わたしでもない。・・・・・・となると消去法でプロテアってことになっちゃうわね?」
ギロッとジト目でアスターはプロテアを見つめた。焦りを感じたのかさっきからプロテアはあたふたしている。こんな様子のプロテアをみてどうやら全員確信したようだ。呼び出したのはプロテアだと。
すると結斗が近づいてきた。
「おいおい? 何だこの無能勇者は」
そう言うと俺の胸ぐらを強引に掴んだ。
「早くお家に帰ったらどうだ?」
「ふっ、そんなとこだろうとは思っていたよ。優れているのは顔だけだったね。ふふっ残念だよ」
軽くあしらうような目をして楓が言い放った。
「悪いね、僕たちの中に君は不必要だ」
続いて律も俺も見放した。ステータスが一なだけでこの有様だ。追撃するようにアスターまでこちらを見ている。
「ごめんなさいね。勇者さん。決してあなたは悪くない。不本意で呼び出してしまったタダの無能勇者なんですもの」
おい。笑ってないぞ。目が全く笑ってないぞ。アスターさんよ。
すると、すかさずクフェアが止めに入った。
「皆さん、いくら無能だからってそんな言い方は、、」
おい、それはフォローになってないぞ。ったく、我ながら酷い言われようだな。現実世界ではチヤホヤされていたのによ〜っ! 流石に申し訳なさを感じたのかプロテアが口を開いた
「ちょっと! まちなさ・・・・・・」
が、プロテア弁解の余地なし。無慈悲な女神三人の強制転移魔法によりプロテアと俺は街へと送り出されてしまった。物静かな異世界繁華街のような場所だ。
そして勇者はこの王国の危機が回避されるまで帰ることは不可。俺は途方に暮れた。プロテアは俯いている、丸で話せそうにない。
「ふっ、俺の勇者生活。お先真っ暗だな」
俺は力無く笑ってそう呟いた。
そう、俺含めプロテアはこの召喚された勇者パーティーから追放されたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます