第2話 召喚されちまった....

 約束の時間は九時。プロテアは目をまん丸にし何度も何度も時計を確認した。だが、全くもって見間違いなどではなかった。これはえらいことになったゾ。電波の目覚まし時計を見る限り残りの時間は十五分しかないじゃないか。


 さらにプロテアを畳み掛けるように思い出す。ここ、マーガレット王国で行われる神々の会議では、一長一短、九時になったら会議部屋へと強制転移されてしまう仕様になっていた。空いた口が塞がらずに目覚まし時計を何度も確認していたプロテアだったが『はっ!』とし、残り十五分しかない時間を合理的に使わなければ、と焦りだした。


 プロテアは小走りで急ぎ木製のタンスの前でさがしものをしていた。「ん〜っ、これでもないし〜っこれでもない、・・・・・・あっ!」彼女が見つけたのは彼女一押しであり一番のお気に入り、露出多めの服をだった。


 これは彼女が唯一三着持っている服だ。これのおかげでまわりからはよく洗っているのか? 思われがちだが、安心しろ、しっかりと洗っている。いやあ、しかしどう考えても露出度多めという所がミソだろう。それにしても露出め・・・・・・悪くない、寧ろ健康的な日本男児なら喜ばしいだろう? プロテアは服(露出度多め)をタンスからだしてまもなく急いで着替え始めた。


 いつもであればチャームポイントである巨乳も今となれば単なる妨害でしかなかった。焦りながら服を着るプロテアは見るからに柔らかそうで包まれたいまるでマシュマロのような生乳が、はみ出そうではみ出ない僅かなズレでラッキーポロリが生じる境目であった。それ故大いに目が離せなかった。まあ、健康的な日本男児ならば当然の事だろう? 


「ふぅ、落ち着くのよ、わたし、後少しよ、んっ、んんっ!」


 服を来ているだけなのに妙な色気を感じろのはなぜだろうか。・・健康的な日本男児が敏感なだけだろうか? そして長い格闘の末、人知れず奮闘していたプロテアだったが、なんとか無事にはみ出さず着替えを終えることに成功した。


「くっ、わたしとした事が、、もぅ! これも全てピンクの時計のせいね・・・・」


 お気に入りだったピンクの時計に対する感情も今となっては憎悪に変わってしまっていた。顔をしかめて慌てふためいている彼女には、もう昨日のような威勢など全く感じられなかった。


 そしてなんと服を着替えているうちに残り時間は十分をきっていた。それからカノジョは残りの身支度、歯磨きや、スカート(ミニスカ)、その他諸々、(健康的な日本男児には見逃せないようなシーンがいくつかあったが)すべて時間どうりにこなし、どうにか待ち合わせようと必死になっていた。





「・・・・・・ふぅ」


 地道に消化していき、やっと今無事に全てを消化することに成功した。ようやくひと段落がつき、安堵の表情を浮かべていた。意外にもプロテアは妥協しない性格なのか時間に追われ焦っていた割には部屋は綺麗なままだった。すたすたと歩きベッドの方へ近づく。


「よし、ようやく休めるわっ!」


と言っているところ、申し訳ないのだが残り時間は残り一分をきっている。そして彼女がそれに気づくのもそう遅くはなかった。プロテアは大きく伸びをし、ベッドに横になろうとベッドの方を向く。不意に目覚まし時計が目に入った。


「って! もう時間ないじゃない!」


どうやら気付いたようだ。休めると思っていたのに・・・・・・と少し悲しげな顔をしていたが、そんなこと忘れてしまう位に重大なミスをしている事に気がついてしまった。そう、彼女はすっかり忘れていた。今日の会議の本質を。まだ彼女は決めていなかった。うっかりしていたのだ。

 彼女のベッドの下にはびっしりと勇者候補たちがうんざりするほどに並べられていた。「あっ」と思ったのも束の間彼女が手を伸ばした頃にはもう遅かったようだ。無慈悲にも時計は九時をまわった。





———会議室


 プロテア含む他の女神達も転移してきたようだ。純白な空間に並べられた真っ白な椅子に真っ白なテーブル、そして天井に張り付いている蛍光灯がそれらのインテリアを引き立てるように照らしていた。パチンっと手を叩き


「よおーし! みんな勇者候補はきめてきた?」


 張り切った様子で水の神が問掛ける。すると、それに続けて


「はい、はーい! 強い人頑張って選んだよ!」


「私もしっかり厳選してきました!」


「そして勿論っ、私もきめてきたよっ!」


 土、風、水の順に問掛けに応じ、選んできた候補を並べていった。しかし、なにやら冷や汗をかいているプロテアに全員の注目が集まってしまったようだ。どことなく焦りを隠しているような素振りを見せるプロテアに四人全員が顔を見わ合わせ「プロテアは?」と問いかけた。

 これには流石のプロテアも答えざるを得ない。


「と、とうぜん! わたしもきめてきたわっ」


 こういっている割に顔はガチガチで今にも泣き出しそうになっていた。そして真っ白く綺麗なテーブルに並べられた勇者召喚の候補たち。プロテア以外が出した候補たちは勇者に相応しいステータスの持ち主が揃っていた。

 しかし、そんな和やかな雰囲気とかうってかわって


「みんな準備は整ったね?」


女神たちが顔を見合せて頷く。


「これより勇者召喚を開始する」


 凛々しい佇まいで風の神が言い放った。一方のプロテアはまだ顔はガチガチのまま焦っているようにみえる。もうすっかり勇者召喚ムードになってしまった。


 にもかかわらずこの期に及んで『わたし、まだ勇者候補決めてないの』なんて到底言い出せる空気ではない。勇者召喚の準則として全ての四種の神々が候補として勇者を個々で選び祈念した場合にのみ完遂できるというものがある。そう、四種の神々が候補を選ばなければ勇者召喚すらできないという事である。


 これはまずい事になったぞ、プロテアは改めて自分のミスを真摯に受け止め焦りながらも勇者候補についてあることを思い出した。そうだ、あの時の、、そう、プロテアが思い出したのはかつてプロテアが罵倒していたあの勇者候補『白石湊人』についてである。


 暗澹としていたプロテアだったが頼みの綱はこれしかない。そう決心し『白石湊人』を召喚することを決意した。そこで今一番重要となってくるのはその紙がどこにあるかということだ。


 そう、今その紙のある場所とは、他でもない、プロテアのポケットの中だ。と、一口にポケットの中、と言ってもポケットの中というのはズボンやパンツ、洋服ということでない。この世界の女神にはそれぞれが四次元ポケットのような無限の広さをもつ四次元空間のポケットを持っている。という神ならではの美点がある。まるで某ネコ型ロボットのように。


「      」


 と、風の神はこのように真剣な表情で何語かもわからないまじないのような言葉を先程から発し続けている。これになんの効果があるのかはさっぱりだ。そして然程興味もない、、が、顔のおかげがこれはこれで絵になっている。だが今、ここは触れないでおこう。


それはさておき、今だ! と言わんばかりにプロテアは四次元空間からすっと『白石湊人』を取り出した。そしてテーブルへとそっと置いた。幸い皆んなバカ真面目に目を瞑りながらまじないの呪文をきいているおかげでバレていない。真面目にきいている他の女神たちはまじないの趣意を理解しているのかは定かではなかったが今となればどちらでもよい。助かったぞ。風の神よ。

 それからプロテアは誰も見てないことをいい事に、さながらずっときいていましたよ。という雰囲気を醸し出し、そっと目を瞑った。




——俺は白石湊人。

 今は高校生をやっている。友達も多い、そして自分で言うのもアレだが顔も悪くないと思う、学校の女の子からは随分とモテているものだ。まあ、その分他の男子からの嫉妬も多いがな。


 いまは順風満帆、成績もそこそこで、県内随一の進学校に入学し、今では一桁から十番台をいき来してる。所謂クラス中心メンバーとして定着している。だがしかし、こんな俺でも欠点がある。それは運動についてだ。俺は昔からの大の運動音痴で俺の唯一の弱みでもある。

 そんな俺だが今日は休日。どこか遊びに行くでもなくバイトがあるでもなく、図書館でだらだらの本を読んでいた。今座っている木製の椅子は俺のお気に入りだ。


「なかなか面白かったなこの本」


まわりに迷惑にならない程度の声量で呟き、読み終わった本を元の棚に戻した。図書館の中は綺麗に保たれており、何より静かだ。読書や勉強が捗るうってつけの場所だ。予定のない日はよくここへくる。妙に居心地がいい。そんなことを考え目を瞑ってみる。特別に眠気が刺したということでも無いはずだ。


 しかしなんだか俺の意識がスーッと遠くなっていくような、そんな気がした・・・・・・次に目を開けた時には勇者として異世界へ召喚されるなど、この時の俺には想像もつかなかった。

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