第2話 宿を取ろう!

 チケットを確約できたはいいものの、肝心の宿及び新幹線のチケットを取らずに7月を迎えた。「チケット取れたイェーーイ!」で、完全に気が抜けてしまった。5月の半ばから7月頭まで、チケット以外の旅の準備は何もやらなかった。まぁ、直前でもどっか取れるだろう、みたいな変な余裕があった。


 会場は大阪市民体育館。2017年のNHK杯の会場である。


 この2017年のNHK杯は最終日だけチケットが取れたので、最終日だけ見に行った。この旅も思い出深く、この「推し旅。」とも密接に関わっている。行ったことのある会場、というのが自分の変な余裕を生んでいた。うむなよ、そんな余裕。お前このチケットだけで大阪に行く気か、馬鹿か、馬鹿だろお前!


 まずは宿をどこにするかである。


 取ったチケットは夜の公演だ。どうせ帰ってこれないから、一泊二日の小旅行にする積りだった。

 大阪市民体育館は、朝潮橋駅から徒歩10分程度の場所にある。そこから近い場所のホテルを取るのが一番いい。それはわかっている。のだが。


 普段は北関東暮らし。関西圏に来ることはほとんどない。しかし、大阪の朝潮橋の近くの観光名所を全く知らない。大阪府民の方には大変申し訳ないが、観光スポットを全く知らず、また観光のイメージが全く湧かなかった。大阪城はきっと遠い。どこに行けばいいかわからない。調べればいいのだが、何となくその気になれなかった。


 多分それは、NHK杯の時に京都に泊まったからだ。


 NHK杯の時は、最終日の日曜日のチケットだけ取れたので、前日に京都観光で晴明神社やスマート珈琲に行ったりして、ホテルで男子シングルを観戦した。二泊三日の旅行で、要するに、京都を拠点に活動をしたのである。


 あー、今回の宿どうしよっかなーと思いながら、いつものようにiPhoneで「陰陽師」を起動させる。着々と育っていく大天狗さま。CV前野智昭。


「陰陽師 本格幻想RPG」は夢枕獏の「陰陽師」を原案としたソシャゲだ。製作は中国。記憶喪失の陰陽師・晴明が式神を用いて平安京を守る。式神のデザインが非常に好みで、2021年現在に至るまでせっせと式神育てに勤しんでいる。


 この「陰陽師」は、中学時代からの友人から池袋の洋食屋で勧めてもらった。5年ぶりに会い、サンシャイン水族館を堪能した後「おすすめしたいソシャゲがあって……。式神のデザインが物凄く良くて……」と公式サイトを見せてもらったのがきっかけだ。

 当時「陰陽師」はサーバーの創設から1年満たなかった。人気がで始めた頃で、私は友人から勧められて初めて知ったし、友人は周りにユーザーがいなかったように思う。確かに、デザインが可愛い。チュートリアル式神の雪女ちゃんの時点で可愛い。晴明はサスケくん。神楽ちゃんはクギみー。博雅はたっつん。八百比丘尼はみゆきち。キャスティングが物凄いいい。


 そして大天狗さまの前野智昭たるや。


 金髪碧眼あの美形が狩衣を着て人外で天狗で、しかも、声が前野智昭。推し式神である。天狗。天狗。


 10年前、京都を旅行した時に鞍馬山に登ったのを思い出す。当時大学生で、ゴールデンウィーク中だった。旅行前に大学の保健室に呼び出され「あなたは肺に病変があるから医者に診てもらえ」と言われたのも懐かしい。一抹の不安を抱えながら鞍馬山を走った。(文字通り!)


 終点に鎮座したあの赤い天狗をもう一度見たいものだ。


 よし、前回と同じように京都に泊まろう。一泊二日で一日ないけど、夜公園を見に行った後、京都に戻ってくる。で、翌日は鞍馬山に登るぞ。大天狗さまに会うのだという勢いで、貴船まで行こう。ちょうど天狗が出てくる話を書きたいと思っていたところだ。


 そんなわけで京都の宿を探し始める。夜の9時ぐらいに京都に着く予定だから、駅前は必須。iPhoneでなるべく安い宿をとぽちぽち検索し始め……。

 JR京都駅前。宿。なるべく安い。そして、予約は二週間後。


 ……。


 ………。ええっと。


 京都駅前、という立地で、五桁を超えない部屋はどこにもない。そしてたいてい埋まってる。一泊しかしないのに。ぐうう。


 そこで一番最初に戻る。なぜ、この、1ヶ月半。宿を全く探さなかったのだ。京都なんざ年がら年中観光地だ。しかも週末だ。京都は関東の片田舎ではない。6000円で朝食付きのルートインなんかあるわけねーだろ! 馬鹿か、馬鹿か自分!


 何とか京都駅前のアパホテルが素泊まり一泊14000円で空いていたので、なりふり構わずそこの部屋を予約。チェックインは夜の10時にしてもらった。背に腹は変えられない。これもさっさと宿を取らなかった自分が悪いのだ。


 宿も決まり、新幹線のチケットも取れた。あとは当日を待つのみ。


 THE ICEのキャストの発表後も、ぽちぽちといろんなチェックを続けた。なになに、セリョージャの新しいフリーは、デニス・テンが振り付けるのか。現役スケーターが現役スケーターを振り付けるって意外にないよね。チャーリー・ホワイトが無良くんに振り付けた時も、チャーリーは引退していたしなぁ。他にも、ザギトワは新しいショートを初披露するのかとか、無良くんサンクスツアーもあって艦これアイスもやって、すげー引っ張りだこだなぁとか。



 そんな中、フィギュアスケート界を襲った最悪の事件が起こった。

  

(余談)10年前の「肺に病変あり」だが、検査した結果肺は超元気で、健康診断時のカメラの撮影ミスということだった。保健室の先生は「まぁ、撮影ミスというのが有力かもしれないが、一応検査してもらって」と言った。検査して何もなかったからよかったのだが。病変かもしれない肺よりも、検査代15000円かかった私の財布の方がめちゃくちゃ痛かった。

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