第9話 ダレモイナイ 番外編 その1

ふと、夜空を見上げた。


残業終わり、作業のキリもつきホッと一息何気なく見上げた。


空は澄み渡りいつもの星空……。

ではなかった。なんだろう、不吉な青白い星がオリオンのワキの辺りに光っていた。


「人工衛星、かなあ」

頭を掻きながら駅へと急ぐ。

間もなく終電が出る……。

「っ!ヤベっ間に合うか」


数日後。あのことはすっかり頭から消えていた。いつもの如く、終電ギリギリまで仕事をして電車に揺られ帰宅中のこと。

ぼんやり窓の外をながめていた。


月の下に見慣れぬ青白い大きな星が1つ。


「っ!何じゃありゃっ」


ちょうど彼が始めてみた次の日からSNSを賑わしていた星である。

彼は仕事が忙しくスマホなど見ないから知らなかった。しかも始発で出社、終電で帰宅、昼休みは仮眠の生活では誰からも情報が届くハズもなく……。


ここにきてようやく、スマホを取り出して検索を始める。

「へえ〜、謎の彗星ねえ」


先週、オリオン座のワキの辺りに出現するまで存在が確認されなかったみたいでどういう軌道をとるか、目下計算中とのこと。


「まさか、落ちたりしないよな」

一抹の不安を感じながらもありえないとその考えを振り払う。


月と同じくらいに見えるが気の所為、だよなと呟く。


「サエコ、どうしてるかな?」

しばらく会っていない妻のことが急に気にかかる。家族と離れての単身赴任はすでに5年目を越えようとしていた。


娘は俺を分かるかな?


ふと寂しくなる。1度も帰らずテレビ電話でしか会ってない。赤ん坊だったのがもうじき小学生だと。


これが終われば帰ろうかな。

何故か、もう2度と会えないそんな奇妙な予感がしていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る