第8話 ダレモイナイ 第8夜
いきなり世界が変わる。
もう何回目だ?何度こんな目にあっても慣れることはない。
頭を1回、ブルッと振る。
大きく深呼吸。
周りを確認。
仕事中、だった。
決算報告書を作成中だった。細かい数字と格闘中にあっちに行っていたらしい。
「あ、起きた?コーヒーでも飲む?」
部長課長がいなくて良かったね、と言いながらコーヒーを渡してくれる。
「みんなもなんか飲む?一息入れませんか?」
サエコはみんなにも声をかける。
みんなが休憩エリアへと移動していくのをながめながらサエコは耳元でささやく。
「まだ、思いだしませんか?ムラオカ先生。おっと、こちらではヤマサキヒロシさんでしたっけ?」
腰を抜かさんばかりに驚く。
半分、立ち上がりかけ、サエコの顔をみたまま口をフナのようにパクパクしてしまう。
肩をクイッと押されそのまま椅子に座り直す。
「みんなは向こうの記憶がないの。ここで生まれ育ったと思ってる。私と貴方は万が一のときのための調整スイッチ。でも何らかの不具合が起きたみたいね」
「ユウタを知らないって言ったじゃないか」
「何がきっかけでエラーが起きるか分からないじゃない?あの子が戻れなくなったことでシステムはデータを削除した。もう、いない人なのよ。貴方がそう設計したんじゃないの?」
いくら考えても何も思いだせない。
あちらに取り残されたユウタ。
あちらの記憶が全くない自分。
しかも、最悪なのは鍵を握っているのは自分だということ。
「頭を割ってみる?なんかでるかもな」
自嘲気味にサエコに言ってみる。
「いいかもね。ナイスアイデアだわ」
ニッコリ笑って返された。
「さて、仕事に戻りましょうか?」
手をパンパンと叩いてアイズを送る。
意味深にウインクしてサエコは戻っていった。
改めて、色々考えようと最近のことを思い返す。あれ?3ヶ月前辺りから記憶が消えていた。あの夢を見始めた頃だ。いや、現実に戻り始めた頃か?
夢?現実?混乱する頭を抱えながら時間だけが過ぎていく。打開策はないのか……。
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