第3話 ダレモイナイ 第3夜
その後も街中(マチナカ)をずっと歩いていたが誰にも会わなかった。人の気配さえ感じることができない。
人工的な灯りは全くなく本当に月が綺麗だ。星も信じられないほどたくさんみえている。
自販機は立っているだけ。飾りのように突っ立ち、真っ暗で異様な姿を晒している。
たぶん、機能していないのだろう。
疲れた。
1軒だけ入口が開いているビルをみつけた。
この街で一番高いビルだ。入口から階段を使い屋上を目指す。
普段はエレベーターを使っているからなんともなかったのだがなかなかたどり着かない。途中、何度か休み、息が切れかけた頃屋上に着いた。
適当な場所に腰をおろし、ポケットからタバコを取り出す。
自分の家からは黒々とした山だけしか見えなかったが、ここは見通しがいい。座っていても遠くの海まで見える。煙草を一服。
吐いた煙はまっすぐ空に吸い込まれていく。
今度は長めにゆっくりと煙草を吸い込む。
吐くときもゆっくりと吐き出す。
そのまま何気なく後ろを振り返る。
思わず口から煙草がおちる。
そこにはやつれはてた意外な人物が虚ろな目で座りこんでいた。
そこで目が覚める……。
最近、奇妙な夢ばかりで寝不足だ。
眠れているのか、いないのか。
全く疲れが取れない。
ぼおっとする頭で机に向かっている。
頭の中がまとまらない。
夢の中と違い、人でごった返してて非常にうるさい。ふと、隣の席に目がいった。
……埃がうっすら積もっている。
手を伸ばし引き出しをあけてみる。
中身は空っぽだった。
いつからいないんだ?
「コウダイ、ユウタはどうした?」
前の席の後輩に声をかけたが不審な顔をされただけ。
「先輩、ユウタって誰っすか?」
少しの間があきコウダイがこう答えた。
「この会社にユウタって名前の奴いませんよ、先輩」
後ろのコウダイの同期からの返事に背中が冷たくなった。俺はユウタを知っている。
前に座っているコウダイより半年遅れの入社でコウダイはユウタを弟のように可愛がっていた。
いつも一緒にいた。
いや、いた、はずなんだ。
「最近どうしたんです?この前は自分の名前を間違えたりして、今度はいない人をいるなんて言い出して。」
サエコは笑いながらコーヒーを差し出す。
「おっ、さんきゅ。いないの?ユウタ」
受け取ったコーヒーすすりながらもう1度だけ聞いてみる。
答えはなくてもわかっていた。
周りが妙な笑いをしている。
十分な、はっきりした答えだ。
何かがおかしい。どこかがおかしい。
自分がおかしいのか周りがおかしいのか?
何が起きているのだ?
俺はユウタを知っている。
そう、俺はあの夢の中でユウタにあったのだ。
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