#0105 アキラの朝

#01XX「カエデの朝」


 朝。目覚めた私には、ルーティーンがある。

 ルーティーンといっても特別なことではない。だが、私にとっては大事なことだ。


 ベッドから起き上がり、タンスから着替えを取り出して、お風呂場へと向かう。

 温度の設定は少し低め。冷たいのが気持ちいいのだ。

 これは冬になっても変わらない。

 目を覚ますには、温度は低めがいい。


 パジャマと下着を脱いで、洗濯機の中へ。私は、浴室の中へ。

 蛇口をキュっと鳴らしながら回し、シャワーからちょうどいいお湯を出す。

 出したばかりのお湯は、お湯とは呼べず冷たいのだが、それがいい。


 冷たいお湯を頭から浴びる。

 顔、首、上半身、腰回り、下半身、足と腕。

 私の身体に異常がないことを確認するように意識を向ける。

 そして、次第にお湯らしい温度へと上がったそれで髪を洗う。


 そう。私のルーティーンは、いわゆる朝シャンだ。 

 シャワーでさっぱりした身体からキレイに水気を取り、ドライヤーで髪を乾かす。

 肩まで伸びた髪を乾かすのは、面倒だ。

 だが、乾かす時間も大事なルーティーンに含まれている。

 鏡に映る自分の顔をよく確認する。


 私はナルシストではない……と思う。

 ただ、鏡に映る自分の顔を見ることで、私は私であると再認識できるのだ。


 私の朝――櫛川くしかわカエデの朝は、こうして始まるのだ。



#0105「アキラの朝」


 アキラはあまり眠れずに朝を迎えることとなった。

 昨日の出来事が頭から離れないせいだ。

 襲い掛かってきたマネキンのような謎の存在も気になるが、それよりも、空から現れた少女のことが気になっていた。


 目を閉じて少女のことを思い出す。

 腕当てガントレットと謎のつるぎ、キレイな長髪とキレのある動き。

 アキラは、少女に憧れにも似た感情を抱いていた。

 そして、低めの身長と容姿からは、かわいいという印象が残っていた。


「カッコよくてかわいいなんて、反則だよなぁ……」

 誰にいうでもなく、アキラは呟いた。


 アキラは寝返りを打ち、視線を目覚まし時計へと向ける。

 その針は、アキラの起床時間に近づいていた。

 あまり眠れなかったアキラだが、眠たくないわけではない。


(しっかりと寝なければ)

 そう思い、残り僅かな眠りの時間を味わおうとした。

 だが、朝になると聞こえてくる声が近づいてきた。

「起きて、起きて、起きて、起きてー!」


 ドアの向こう側から聞こえる声の主は、櫛川くしかわカエデだ。

 アキラの学園の同級生で、小さい頃からの幼馴染で、いわゆる腐れ縁というヤツだ。


 そう。アキラは、ほぼ毎朝カエデに起こされている。

 カエデは、元気よくアキラの部屋へと入ってくる。


 なぜ彼女が、アキラの部屋(男子寮)にいるのかを、一言で説明しておこう。

 カエデの家族が、寮の管理人を務めていて、彼女もその手伝いをしているからだ。


「朝だよーアキラーって、あれ? もう起きてる?」

「もう少し寝たかったんだが……おはよっ」

「うん。おはよう! 珍しいね、私が起こすより先に起きてるなんて」

「珍しいこともあるもんだよな。さ、お前は、部屋を出てくれ」

「なんで?」

「着替えるから!」


 アキラの部屋を渋々出たカエデは、ドア越しに話を続ける。


「アキラの自転車、お父さんが修理に出すって言ってたよ」

「それは助かる」

「アキラが物を壊すなんて、珍しいよね」

「うん? そうか?」

「そうだよ。昔からなんでも大事に扱ってきたから。物持ちがいい印象なんだよね」

「……そういわれたら、そんな気もするな……」


 アキラは制服に着替え終えて、ドアを開ける。

「あとでちゃんと寝ぐせ直しなよ?」

 カエデは、ボサボサと乱れているアキラの髪型を見て言った。


 こうして、アキラの一日は幕を開ける。

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