#0102 特別の力

#0102「特別な力」


 無事、大気圏に突入することができたマナは、地上へと落下していく。

 マナは体内センサーで自由落下の速度を計測する。

 その結果、どうやらこの地球ほしは、マナが知る星と同じ、あるいは非常に近しいモノであることが分かった。

 マナが産まれた世界軸と今いる世界軸では世界のルールが違う。

 ……と、ナルカ博士から教わった。

 それは物理法則が違ったり、扱えるエネルギーが違ったりする場合があるということだ。

 まだデータは少ないが、マナはこの世界での活動に支障は無いと判断した。

 支障が無いということは、今現在落下していて、いずれ地上に激突しそうな状況でも、問題はないということだ。


 頭から落ちるマナは、地上までの距離を確認する。

 スカイダイビングであれば、パラシュートを開き始める高度になっただろう。

 当然、マナにはそのような装備は無い。

 だが、その代わりになるモノは充分に備えられていた。


(フライトテイル展開!)

 マナがそうと、灰色のシャツの裾から腰回りに薄緑の光が集まっていく。

 光は四角や三角の形状に伸びていき、黒のスカートを覆い隠す。


 マナには、いくつかの機能が備わっている。

 大気圏内を浮遊することができるフライトテイルがその一つだ。

 光が収まり、その姿があらわになる。

 それはスカートの形状をしていて、装甲のように厚みがある。

 スカートのテイルにあたる部分には、長方形の細かいサブスラスターが付いている。

 背面の腰にも三角錐の形をしたメインスラスターが二基付いている。

 メインスラスターは上昇するために、サブスラスターは、姿勢制御や着陸時に活用する。


 各スラスターから粒子のような薄緑の光が溢れ出す。

 マナは宙返りをするように身体を回し、着地の姿勢に入った。

 高度10メートルほどを目安に、落下速度を一度0にする。

 マナにとって、その高さであれば、そのまま着地しても問題のない高さだ。

 メインスラスター・サブスラスターを大きく吹かし、減速する。

 ここで、マナは足元の様子を確認する。


 男の子が一人と、ヒト型の人ではないモノを4体視認できた。

「人が、戦っている?」

 男の子が、ヒト型のモノをなぎ払っている様子だ。

 マナは、フライトテイルを解除――普通の黒いスカートに戻し、再び落下する。



#0104「出会い」


 空から落ちてきたマナが、アキラとマネキンたちとの間に着地した。

 砂埃が舞い、マナはゆっくりと立ち上がる。

 目の前のマネキンたちを確認し、背後のアキラに視線を送る。

 そして、マナは手に持つ小さな立方体を掲げ、声を上げた。


「装備、氷刃ひょうじんの結晶!」


 マナの右腕が、手から肘にかけて青白い光に包まれる。

 フライトテイルのように光がマナの腕のシルエットを変えていく。

 まるで金属製のガントレットのような防具に見えた。

 さらに光はマナの右手に集まり、西洋風のつるぎを形作る。


 銀のような白い長髪に灰色のシャツ、黒のスカートにスニーカー。

 それとは不釣りあいな防具と剣に、アキラは見惚れていた。


「下がっていて」

 マナはアキラに声を掛ける。

「うん」と小さくアキラは頷いた。

 返事を聞くとマナは、剣を突き出し構えてマネキンたちを見据える。


 マネキンたちの動きは速かった。

 1体目はマナの正面から詰め寄り、腕を回転させて大きく振り下ろす。

 マナは、その動きに反応し、一度前屈みに倒れるように姿勢を崩すと、勢いをつけて踏み込み剣で斬り上げる。

 1体目は胸から上を斬られ、膝を折り崩れ倒れる。

 2体目は右側から。

 マナの顔面を狙い、手で突こうとする。

 マナは1体目を斬り上げた剣を勢いに乗せたまま、身体を回転させ、2体目の攻撃を躱しながら斬り伏せる。

 3体目と4体目は同時に、左側と背後から攻撃を試みる。

 それぞれ手刀と蹴りを出そうと振りかぶる。

 だがマナの動きの方が速かった。

 マナは2体目を斬り伏せた姿勢から、剣を水平に一閃し、3体目4体目の腹部を斬った。

 それは、アキラがマネキンに打った胴の一撃の、数倍の速さに見えた。


「す、すごい……」


 アキラはただただ魅入っていた。マナの一挙手一投足に。

 マナは剣を、空を斬るように血振りする。

 その剣に血は付いていないが、赤い糸が付いていた。

 振るい落とされた赤い糸と斬り落ちたマネキンたちは、黒く変色し、灰のように風に吹かれ消えていく。


「解除――」


 マナがそういうと、右腕のガントレットも剣も、ピカリと一度輝き、姿を消した。

 アキラは、辺りを見渡すマナに声を掛ける。


「た、助けれくれてありがとう。君はいったい……」

「名乗るほどでもない。この世界では、アレが普通?」


 無表情のマナは、マネキンがいた場所を見る。

 アレとは、マネキンのことだろう。


「いや、何が起きているのかワケが分からない。君のさっきの姿も」

異常イレギュラーだったみたいね。アナタはこのことを忘れたほうがいい」


 そういうと、マナのスカートが光り出し、再びフライトテイルに姿を変える。


「忘れろって言われても、無理だ」

「そう……それじゃあ誰にも言わないことをオススメするわ」


 フライトテイルが起動し、マナはふわりと宙に浮く。

 アキラにとって、もう何が起きているのか関係ない。

 ただ、遠く離れようとする女の子に向けて、声を上げる。


色浜いろはまアキラ、俺の名前だ! また会えるかな?」


 マナは返事もせず、空を飛んで消え去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る