1章「世界軸0624」
#0101 世界軸0624は正常ですか?
#0101「世界軸0624は正常ですか?」
200X年7月――世界軸0624。
時刻は、日本時間18時を過ぎた頃。
空の色は、青から赤へと染まり始めていた。
雲はまばらにあるが、奇麗に晴れている。
その空の中を、一筋の微かな光が落ちていった。
夜であれば、ハッキリとした流れ星として見えただろう。
流れ星のように落ちる物体は、大気圏突入でも燃え尽きることなく、地上へと落下する。
その物体の正体は、世界軸1216(SF世界)から遷移してきた少女――マナだ。
マナは、その身を丸めて、落下していく。
#0103「謎の脅威」
地上には、空から何かが落ちてくるとは知らずに、河川敷の道を自転車で進む制服姿の男子学生がいた。
彼の名は、
短く整えられた黒髪と白シャツ、黒いズボンで、目立った恰好はしていない。
顔はそこそこ整っているが、残念ながら物語の主役を張るような美男子でもない。
今現在特徴的な目印を挙げるとすれば、その肩に竹刀と木刀を入れた竹刀袋を担いでいるという点だけだろう。
彼は、学園の剣術部に所属しており、今日は県立武術館での練習を終えて、男子寮へと帰る途中であった。
人通りがない河川敷の道。
今日もアキラ以外には誰もいない、いつも通りの帰り道。
練習後の汗をかいたアキラの肌に、気持ちの良い風が吹く。
だが、その風に乗って何者かの気配が流れてくるのを、アキラは感じ取った。
アキラに第六感的な才能があったわけではない。
剣術を学んでいく中で培った経験が、アキラの肌感覚を敏感にさせていたのだろう。
気持ちが良いと感じていた風が、途端に寒気へと変わる。
アキラはブレーキを握りしめて自転車を止めた。
先程まで見ていたはずの前方に、突如それは現れた。
「マネキン?」
マネキンのような肌色の人形が立っていた。
頭部からはカツラのような髪が垂れていて、顔の部分はよく見えない。
人形だと分かった理由は、肘や膝、腹部の関節部分が球体になっているのが見えたからだ。
人形の大きさは、2メートルあるかないかくらい。
170センチ程だろうと、アキラは感じた。
人形との距離は、5メートルほど離れている。
(いつから目の前にいた? いや、どこから出てきた? そもそもアレはなんだ?)
アキラの脳内には数々の疑問が湧き出てくる。
その疑問は何一つ解消されることなく、新たな疑問を生ませるかのように、マネキンはカタカタと音を立てながら一歩、アキラに近づくために歩いた。
動きは遅いが、もう一歩、カタカタという気味の悪い音を立てて向かってくる。
(逃げよう)
アキラは未知の恐怖からそう考えた。
だが、今このマネキンから目を離すことのほうが怖いように思えた。
それに、目の前のマネキン以外からも、カタカタという音が聞こえ始めている。
その音は、左右背後、前のマネキンを合わせて四方から聞こえていた。
「なんなんだ! まったく!」
アキラは、担いでいた竹刀袋から木刀だけを取り出し、正眼の構えをとる。
当然、自転車から手を離すことになり、自転車は、ガシャンと大きな音を立てて倒れた。
その音が響くと共に、面前のマネキンの動きは早まった。
マネキンは、右腕を大きく振り上げ、アキラに目掛けて手刀を打つ。
アキラは木刀の剣先で器用に使い、マネキンの腕を受け流すようにいなす。
と同時に、木刀を横なぎに払い、マネキンの腹を力強く打つ。
「
アキラの眼は、倒れ行くマネキンの身体を追い、その動きを目視する。
マネキンの下半身は膝から崩れ落ち、上半身はしばし宙を回り、クシャリと音を立てて地面に落ちる。再び動き出す様子はない。
アキラはほっと胸をなでおろすが、まだ終わりではなかった。
新たに3体のマネキンが現れていた。
「怖いのは嫌いなんだ!」
アキラの声が上げる。
3体のマネキンは、倒れたマネキンの上半身と下半身を持ち上げて、それぞれを近づける。
近づけられた上半身と下半身は、赤い糸のようなもので縫われるように繋がっていき、半身同士が引き寄せ合って、くっ付いた。
そして、倒したはずのマネキンが、再びカタカタと音を立てて動き出す。
マネキンは4体になった。
アキラは再び木刀を構えて、マネキンとの間合いを測る。
視線は逸らさず、後ずさりをした。
マネキンたちは、アキラが後ずさりした分を詰めるように、少しずつアキラへと近づく。
マネキンたちが間合いを詰めて、今にも飛び掛かりそうな気配を出した。
その時。
#0104「出会い」
空から落ちてきたマナが、アキラとマネキンたちとの間に着地した。
砂埃が舞い、マナはゆっくりと立ち上がる。
目の前のマネキンたちを確認し、背後のアキラに視線を送る。
そして、マナは手に持つ小さな立方体を掲げ、声を上げた。
「装備、
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