ノーナンバー もしも、魔術のある世界だったらこんな光景があったかも
場所は平野平家の墓前だ。
平野平春平の墓、というより巨大な岩の周りを平野平秋水と正行、石動肇、その日は非番の猪口直衛が掃除していた。
祖父が亡くなり、岩の下に埋葬したのが半年前だ。
それから、国際スパイ事件に巻き込まれ、掃除する暇もなかった。
案の定、枯葉を掃除して、苔むしたところを洗浄する。
正行は高くなった落ち葉の山にアルミホイルで包んだサツマイモを入れてライターで火をつけようとしたとき、ライターを家に忘れたようだった。
ズボンやシャツのポケットを何度も叩き、慌てた。
「大丈夫、俺がつけてやるよ」
「え?」
猪口は非喫煙者である。
普段からマッチやライターを所持している人間ではない。
正行の疑問を他所に猪口は落ち葉に手をかざし朗々と言葉を紡いだ。
「炎の精霊よ、今一瞬の全ての炎をその手に委ねる……」
すると、落ち葉からチリチリと煙が出て火が灯った。
「どうやら、腕は落ちていないみたいだな」
目を開けた猪口には少し疲労の色が浮かんでいた。
「おおい。石磨きは終わったぞ」
そこに父である秋水と石動が近づいてきた。
だが、正行は目をキラキラさせて聞いた。
「猪口さんって魔法が出来るんですか?」
「魔法なんて、古臭いものを知っていますねぇ」
事を聞いた秋水は猪口を見た。
「俺、これでも刑事になりたての頃、イギリスに長期滞在してその延長線上でね……」
照れくさそうに猪口は頭を搔いた。
「あそこは古い文化が今でも平然と残っていてね。大真面目に『魔法犯罪課』なんて警察署内にあるんだ。オリエンテーションの一環でちょこっと教わった」
石動の顔はつまらなそうな顔だ。
彼は真逆のIT関連の会社社長だ。
「どういう原理なんです?」
正行が興味深そうに聞く。
「なぁに、君たちと同じだよ」
「?」
「自分の魔力を契約した精霊に与える。食わせるでもいいけど……その代価としてちょっと力を貸してもらう」
「精霊を無理やりに使うとどうなります?」
秋水も聞く。
「死ぬね」
急に秋水と正行は石動の背後に回った。
「あ、もしかして、真似事をしようとした?」
石動の背後にいる二人は激しく頷いた。
「いいよ。じゃあ、試しに四人で、この燻っている火を大きくしてみようか?」
「怖くないですか?」
正行が怯えた表情を見せる。
「俺と契約している精霊なら害はないよ」
「そういうことは三人でやってください」
石動が踵を返そうとしたとき、その肩に大きな手が乗った。
「ねぇ、石動クン。一緒にやろうよ、楽しいよ。ねぇねぇ、やろうよぉ」
目線を少し上げる。
そこには子供のようにキラキラ輝く恩師がいた。
この状態の秋水はどんな手段を使っても引き留める。
長い付き合いで分かる。
諦念、やるせなさ……
石動はそれらの思いを一つのため息にして吐き出した。
一番下に猪口、次に正行、石動、秋水の順で燻る火の上に手を置く。
「じゃあ、俺が導火線で君たちが発火剤だ。できるだけリアルに火をイメージして……」
四人は目を閉じた……ふりをしたのが二名いた。
猪口と石動だ。
彼らは薄く開いた視線と空いた手を少し動かして
――石動君、悪いね
――毎度のことです
「おーい、二人とも何やっているんです?」
目を完全に閉じていた秋水が聞いてきた。
慌てて猪口と石動は目を閉じた。
正行は必死で目を閉じ火を想像していた。
今度は真面目に猪口は三人の魔力を一つにまとめ魔力に変換した。
そして……
落ち葉の火は炎に変わった。
「おう!?」
「すげぇええ!」
「マジか……?」
思わず退く三人。
猪口は冷静だった。
――石動君の魔力はほぼない。ただ、覚えれば応用は出来るような気がするなぁ
――正行君はほぼ俺と同じ人並みの魔力。平々凡々だな
――意外だったのが……
猪口の視線は秋水がいた。
秋水の周りには多くの精霊が力を貸した。
ふとイギリスで魔法を押した刑事の言葉を思い出した。
【精霊が好む魔力がある。それは自分に正直で純粋な心を持った人間の魔力だ】
まさに、秋水にうってつけだ。
そんな思案をしている猪口を他所に石動は呆然としていた。
平野平親子は興奮をしていた。
「なんちゃら波‼」
秋水が某漫画のポーズを墓石の前でやった。
その瞬間、掌から出た巨大な魔力は墓石を崩壊させた。
「あ」
猪口は思い、誓った。
『秋水君には二度と絶対魔法は教えない』
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