第23話 幕が上がる前のお話
経済産業省の大物幹部A氏が海外へ日本の火力発電の技術を不正に輸出しようとしたニュースは世間とネットを賑やかにした。
そのA氏の部下、今里健は名無し、ネームレスの送迎のために成田空港のエントランスにいた。
産業スパイ。
小説やドラマでは若手俳優などが演じる有能な人物のように演じられる。
だが、目の前に現れたのは若干よれたノーネクタイのスーツを着た、白髪白髭の老人だ。
髪がぼさぼさしている。
目印である胸元に刺した万年筆を見るのも苦労していそうだ。
思わず、手を振った。
「あんたか? 俺に情報を売りたいというのは?」
いきなり老人は言ってのけた。
「いえ、自分は詳しい話を聞いていません。その話は、上司に言ってください」
老人は、つまらなそうに顔を歪めた。
「……相変わらず技術・経済大国のくせに文化レベルの低い連中だ」
忌々しく周りを見る。
確かに冬休みに入った子供たちが元気に走り回り、それを無視する親など「確かに」と頷きたくなる光景が広がっている。
と、黄色い声が背中を襲った。
今里は声のするほうをみた。
黒や茶、時々金髪の頭の集団が騒いでいる。
よく見るとスマートフォンやカメラである一人の人物を撮影したり、話しかけている。
「有名な歌手だ……本当に日本の文化程度は低い。一緒だと都合が悪い。タクシー乗り場まで案内してくれ」
老人はのそのそとアタッシュケースを持って外に向かって歩き出した。
慌てて今里は老人の案内を始めた。
追いかけるように歌手の集団も外に出た。
先導していた今里が途中で振り返った。
その瞬間、老人が横に跳んで落ちた。
「あの……」
老人の目と口はうつろでこめかみに穴が開いていた。
――殺された
「わああああああああああああ‼」
呼応するように外灯や看板が壊れ、撃ち抜かれる。
思わず伏せる。
これにより現場は大混乱になった。
「で、そこから逃げて、二度と現場には戻ってないんだね?」
猪口、と呼ばれる刑事が冷たいコンクリート打ちっ放しの部屋で尋問を始めた。
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