第20話 猪口の苛立ち

「はぁ⁉ 本部は動けない!?」

 猪口は文字通り開いた口が塞がらない。

 その言葉に向かい合った相手、公安部長はいささか驚いた。

「……わかってくれ、上からの指示なんだ。EUやアメリカ、中国と我々は『ツンドラ王国』に対して刺激をしないようにけん制し合っている。我々が下手に動くと他の国を刺激する。外交上、得策ではない」

「対策本部は……」

「あれは、世間の目を誤魔化すダミーだ。世間の目は名無しではなく、あの外国人歌手に注視している。彼には敵が多かった。理由なんぞいくらでもつくれる……」

「……わかりました」


 部長室から出た猪口は足早に自分の机へ向かう。

「どう……」

 迎えた、彌神は驚いた。

 猪口は何とも複雑な表情をしていた。

 怒っている。

 だが、口は笑っていた。

 猪口は誰にも言うわけでも無く言った。

「面白れぇ、本部が動かねぇなら、こっちから動いてやる!」

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