第9話 洗濯ウォーズ

 その日は一日中雨だった。

「あー、あ。こうも、雨続きだと嫌になんな」

 秋水はそう言いながら中身の入った洗濯かごを持って階段を上がり、物干し部屋に行った。

 ベランダが使えない以上空いている部屋にロープを張り除湿をかけ洗濯物を干す。

 基本的に、ここでの洗濯物ルールは女性は女性で、男性は男性で別々にする。

 ナターシャが妊婦のため、普段は洗濯物を干すが、つわりなどの時は夕方に仕事終わりの綾子が干す。

 ただ、家事の苦手な綾子である。

 秋水たちから見て「おいおい……」と飽きれるような干し方をする場合もある。

 男性陣でも石動は綾子から比べると常識的だが時々、「?」な干し方をする。

 そのため、いつのかにか、秋水と正行のどちらかが気になったら洗濯をして干すという暗黙のルールが出来た。


 秋水がドアに触れる前。

 かすかな違和感を肌が感じた。

 普通の、並の武道家や傭兵なら引き返す。

 だが、秋水は口の片端をにんまりさせた。

 この男の最大の特徴は「面白そうなら、例えそれがトラップだとしても、あえて立ち向かう」

 ドアを開けた瞬間、真っ白い物体が襲ってきた。

 思わず抱える。

 重さからして乾いた洗濯ものをシーツに包んだのだろう。

 そのまま頭を下げる。

 連続の蹴りが襲う。

 威力はない。

 ただし、威力はなくても急所を的確に狙ってくる。

 そういうふうにだ。

 まずは洗った洗濯物と乾いた洗濯物を安全地帯に置く。

 再び洗濯機を回すのは面倒だ。

 だが、この状態もよくない。

 目下の敵はまだ干している洗濯物の陰に隠れてどこにいるのかわからない。

 かく乱するという方法はあるだろう。

 それが、相手の狙うところだ。

 洗濯ものなどに気が少しでも向いたら攻撃してくる。

 だから、

 そして、その影は上から来た!

 ロープを上手に使って跳んだのだ。

 秋水はこの奇襲に手早く反応した。

 次の瞬間。

 石動の顔面に近くには巨大な拳があった。


 石動肇と平野平秋水は数分後。

 仲良く洗濯物を干していた。

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