第81話 予期せぬ魔物の襲来!(1)
「ここが最下層?」
第六階、七階を抜け辿り着いた最下層にシノアリスは周囲を見渡す。だがどうみても今までの階層の森林となんら変わりがない。
本当に此処が最下層なのだろうか。
訝し気なシノアリスにカシスは此処が最下層であることに間違いはないと告げた。
「どうしてわかるんですか?」
「水だ」
「水?」
この微睡みの楽園の中で、唯一水場があるのが最下層だという。
その言葉にシノアリスは今までの階層の中を思い出せば、確かに水場が一つもなかったことを思い出した。
カシスが何かを探すように見渡し、見つけたのか指をさす先を見れば小さな小川があった。
「あ、川がある」
つまりあの川が、此処が最下層だという証なのだろう。
「じゃあ、この階の何処かにボスが?」
「この階層にだけ祠がある」
「祠?」
「あぁ、その祠を通ればボスの部屋に辿り着く」
「祠の場所は分かるんですか?」
「ダンジョンによってはランダムに変わる、だが微睡みの楽園では変わったという情報はないな」
「へぇ・・・」
ダンジョンとはそんな仕組みなのかとシノアリスは不思議そうに頷いた。
やはりダンジョンとは未知な空間だと再認識する。
もし、この調査が終わったら暁達ともう一度潜ってみるのもいいかもしれない。シノアリスは、カシスから得た内容を忘れないようにメモへと情報を書き綴った。
「さて、君が見たという隠しルートの場所を案内してもらえるか?」
「あ、あぁ…わかった」
ズルーはマリブの言葉に頷き、此方だと先導するように歩き出す。
その背を追うようにシノアリス達も続いた。
しばらく森の中を歩いていたが、ふとシノアリスはその違和感に気付いた。
森が静かすぎるのだ。
今までの階層では、鳥の声や魔物の声と物音があった。
なのに、ここでは生き物の声どころか魔物の姿や音さえない。聞こえるのはサラサラと流れる小川の音や僅かにざわめく風くらい。
「カシスさん、あの・・・」
「黙ってろ」
シノアリスは自身の前を歩くカシスにそっと声をかけたが、返ってきたのは冷たい声だった。
それだけではない。
傍を歩くマリブやルジェ、そしてくーちゃんや暁さえも雰囲気が怖く空気がピリピリとしている。
周囲の雰囲気が変わっていく様子にシノアリスは無意識に唾を飲み込んだ。
明らかに警戒している様子に明星の方へ視線を向ければ、セレーネの顔も微かに強張っている。
一体何があったのか。
その空気に耐えられなかったセルザムは、進む足を止め先頭を歩くズルーの名を呼んだ。
「ズルー、少し待ってくれ。さすがに様子が・・・」
「・・・あそこです」
セルザムの声を遮り、ズルーは足が止め、指さした先は森の開けた場所だった。
手前には少し大きな泉があり、泉へと流れる川を辿れば、大きなトンネルの奥に滝が見える。ズルーが指さす先は滝の方へと向けられていた。
あそこにズルーの言う隠しルートが存在しているのだろうか。
「ズルー、あのトンネルの先は行き止まりなのは貴方も知っているでしょう?」
「その先にあるはずのない空間があったんだ」
「・・・」
ズルーの言葉にマリブは、そっとルジェとカシスへ視線を投げかける。
言葉はないのに、まるでマリブの意図を悟ったかのようにルジェはシノアリスの傍へと下がり、距離を詰めた。
傍に寄ってきたルジェに対しシノアリスは頭に?を浮かべるが、真剣な顔をしたルジェに対しなにかあるのだろうと口を噤んだ。
ルジェがシノアリスの傍に寄ったことをみたマリブはカシスと並びズルーの前へと立った。
「なら俺達がこのまま奥へ調査に向かう。悪いが君には一緒に同行を・・・」
「!!マリブ!」
「!?」
突如カシスの声が響くと同時に、激しい地鳴りによって全員がバランスを崩して倒れこみ地に手をついた。
フッと頭上に影が覆い、咄嗟に上を見れば巨大な物体が空から降ってくる。
「よけろ!」
誰かの指示する声が響き、シノアリスは暁の腕に抱かれその場を飛び退いた。
ドォン、と木々を揺らすほどの音が響く。
激しい土埃が舞う中、ゆっくりと姿を見せたそれはシノアリス達に威嚇するかのように咆哮をあげた。
「ゴァアアァアアア!」
「ベア・ゴーレム!?」
ベア・ゴーレム。
本来は“ゴーレム”という岩や土でできた生きた泥人形の魔物であり、さまざまな形によって名前が異なってくる。
その名の通りシノアリス達の前に現れたのは、体長約十五mはある巨大な熊の形をしたゴーレムだ。
主な生息地は湿気の多い山奥に生息いる。
さまざまなゴーレムの中で“ベア・ゴーレム”は一番身動きが素早い魔物として冒険者の中では知られていた。
「何故!?このダンジョンにベア・ゴーレムは存在しないはず!?」
青褪めた顔でベア・ゴーレムを見上げるセレーネ達の言葉からして、この魔物は本来此処には生息しない魔物なのだろう。
「くそ!この場所じゃあ俺達に不利だ!」
「え?!どうしてですか!?」
「ゴーレムは生きた泥人形だ、物理攻撃は効きづらい」
ルジェの説明によれば、ゴーレムは生きた泥人形のため物理攻撃は効きづらい魔物だという。
ゴーレムは泥でできているため、乾燥や炎に弱く過度の火力で乾燥させれば物理攻撃によって討伐も可能らしい。
だが水のある場所でとなると討伐はさらに難しくなる。
水によって直ぐに再生してしまうからだ。そのためゴーレムを討伐する際には水のある場所から遠ざけて戦わなければならない。
ルジェの言葉にシノアリスは青褪める。
何故なら今まさに、この場所には小川があるからだ。
「とにかくこの場所を離れ!!?」
「マリブさん!」
小川から少しでも離れようと指示するマリブにベア・ゴーレムの腕が振り下ろされる。
直ぐにその攻撃を避けるが、巨体なのにその素早さに振り切るのは無理だと悟る。ゴーレム自体、Aランクの魔物だ。
明星やマリブ達のランクでは討伐できるかどうか。
「奥に逃げましょう!!あそこならベア・ゴーレムには狭すぎて入れない!」
先導するイグナツィオにルジェは大きなトンネルへと目を向けた。
確かにトンネルの入り口はベア・ゴーレムの半分しかない。だが、あまりにもこの展開は出来過ぎている。
「ルジェ!?」
「ッ!大丈夫だ!」
ベア・ゴーレムの猛攻撃に咄嗟にルジェは身を翻して攻撃を避ける。
なぎ倒される木々を避けるも、身軽なベア・ゴーレムは直ぐに距離を詰めてくる。考える余裕もないまま、マリブ達はトンネルへと駆けだすしかなかった。
「ゴァアアァアアア!」
イグナツィオの言葉通り、ベア・ゴーレムには狭すぎたのか必死に手を伸ばしながら中に入ろうとしている。
幸いなことに誰も負傷者が出なかったのは不幸中の幸いだろう。
「これからどうする?」
「ベア・ゴーレムは出てくるなんて、他の冒険者にも危険がある」
マリブ達の後にも冒険者は入ってきている。
もし他の冒険者がベア・ゴーレムとエンカウントしてしまえば大変なことになる。
「そうだわ!イグナツィオ!貴方のあのスキルなら!」
「あぁ!確かにそれなら!」
突然声をあげたセレーネにセルザムの名案だと声をあげイグナツィオへ詰め寄った。
一体なんのことだと、とマリブ達は首を傾げるも。
「お前のエクストラスキル“
「“
一体どんなスキルなのかと耳を傾けるが、イグナツィオは申し訳なさそうに首を横に振った。
「無理だ、対象があまりにも大きすぎる」
「・・・そんな」
再び肩を落とすセレーネ達を後目に、シノアリスはこの状況を脱する方法を考えるように腕を組んだ。
「泥、炎・・・でも水はダメ」
「シノアリス、少しいいか?」
「はい?なんですか?」
「試したいことがあるんだ」
暁の言葉に、シノアリスは耳を傾けた。
伝えられた内容にふむふむ、とシノアリスは相槌をうち、今度はくーちゃんを呼び寄せる。
ヒソヒソと三人は顔を寄せ合いながら話を進め、ようやくまとまったのか三人は顔を揃えて巧みに笑いあった。
「あ、の・・・このまま此処にいてもベア・ゴーレムは去ってはくれません」
「・・・」
「このまま隠しルートに進みませんか?もしかしたら入口までの移転陣があるかもしれませんし」
「マリブ、どうする?」
ズルーはひたすら隠しルートに進もうと話をしてくる。
もはやマリブはズルーに対し酷く警戒をもっていた。つまりあの隠しルートと称されるアソコにはなにかがある。
そして、その場所に自分たちを連れ込みたいのだろう。
もしかすると突如現れたベア・ゴーレムもなにかしらの罠の可能性だってある。
せめてシノアリス達だけは逃がさなくてはならない。
マリブは慎重に言葉を選びながら、口を開きかけた矢先その声が響いた。
「暁!待て!!」
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本日の鑑定結果報告
・ベア・ゴーレム。
体長約十五mはある巨大な熊の形をしたゴーレム。
本来は“ゴーレム”という岩や土でできた生きた泥人形の魔物であり、さまざまな形によって名前が異なってくる。
主な生息地は湿気の多い山奥に生息しており、さまざまなゴーレムの中で“ベア・ゴーレム”は一番素早い魔物。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。
少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければ応援やコメントを頂けると大変活力となります(*'ω'*)
更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。
最近タイトルを考えるのがしんどいです。
(理由:ネーミングセンスが壊滅的なため)
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