第77話 ダンジョン “微睡みの楽園”(4)
拝啓、親愛なるお母さんへ。
お元気ですか?あなたの娘シノアリスは元気に屋台のおっちゃんの串焼きを堪能しております。
勿論お野菜もちゃんと摂取しています。
前回のお手紙ではお話できませんでしたが、相棒と助っ人ができました!
暁さんはとても強くてカッコよく優しい鬼人なんです。
お料理もできるんですよ、これがお隣のおばさん(未婚)が言っていたいつでもお嫁にいける!という事だよね!
くーちゃんは愛らしい猫なのに、可愛い人間にもなれちゃう凄い魔法使いなんです。
この間も森を全焼する勢いで火を放ったんだよ、一瞬で炎の海になって凄いよね!!
二人とも自慢の仲間です。
そんな自慢の仲間に囲まれているわたしですが、いま迷子防止のため命綱をくくり付けられています。
遺憾の意、です。
シノアリスは、そっと故郷にいる母親を思いながら文を心の内で綴り、自分の腹部に厳重にくくり付けられたロープを見やった。
「・・・解せぬ」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
括りつけた縄の先を持つカシスの疲労と怒りに満ちた声にシノアリスは静かに口を閉じた。
極楽鳥と共に空に羽ばたいたシノアリスを無事救出したものの、暁とくーちゃんを除いた全員が疲労に満ちた顔で座り込んでいた。
追いかけた矢先で出会った魔物は、全て暁の拳で地に叩きつけられ、くーちゃんの魔法で一刀両断に刻まれた光景に明星はドン引き、カシス達も頭を抱えていたからだ。
ルジェも暁達に落ち着くようにと何度も声を荒げたが、暁もくーちゃんも目はシノアリスしか見ていない。
そんな暴走機関車ごとく走る暁達を必死に追いかけていたので、こんなにも疲労に満ちた顔をしていたのだ。
さらに、ダンジョン内でこんな状態で座り込んでいれば、魔物に襲われるのだがシノアリスの持ち込んだ“魔物除けの香炉”により魔物を寄せ付けない状況にも現実を受け止めきれないでいる。
「ルジェ、現在地は確認できたか?」
「あぁ、うん。あと少し先にいけば二階への道につくよ」
疲労はありつつも、既にシノアリス達の奇行に慣れつつあった狼の鉤爪だけは現在地などを調べていた。幸いにもここは調査済みの階なのもあったのも救いだ。
そんな中、最初に現実に戻ってきたセレーネは直ぐにシノアリスの元に行き、ダンジョンでの禁止事項を強く説明していた。
「シノアリスさん、調査済みのダンジョンとはいえ軽率な行動は命取りになります」
「はい」
「仲間一人の身勝手な行動が皆を危険に晒すこともあるでしょう、今後は必ず行動する際には報告をしましょうね」
「はい、ごめんなさい。心に刻みます」
シュン、とアホ毛共に項垂れるシノアリスにセレーネには、悪戯をして怒られしょげる孤児院の子供とかぶってしまったのか、直ぐに慈愛の笑みを浮かべシノアリスの頭を撫でた。
明らかに子供の対応に、嬉しい反面複雑なシノアリスであった。
そんな光景を苦笑いで見つめていたマリブとルジェは思い出したようにくーちゃんを見た。
「そういえば・・・」
「くーちゃん、飛べたんだね」
極楽鳥からシノアリスを奪還する際に、暁がくーちゃんをシノアリスに向けて投げたときにはマリブやルジェは思わず叫んだ。
だがくーちゃんは全属性を極めている魔法使いなので、シノアリスを掴むと同時に攻撃魔法で極楽鳥を仕留め、そのまま落下するシノアリスとくーちゃんだが、焦ることなく「
その光景に明星のメンバーは驚愕した。
理由は簡単だ。
浮遊魔法など、伝説級の魔法といわれ誰も成功したことがないからだ。
「飛べますが、魔力の消費がとてつもなく激しいのが欠点ですにゃ」
「そんなに消費が激しいの?」
シノアリスの記憶ではくーちゃんは特に苦もなく飛んでいる姿しか思い出せない。
くーちゃん曰く、浮遊魔法は魔力と風と一体化させ体に纏わせて飛ぶ魔法だ。
そのためまず体全体に魔力を操作して風と一体化させるなど、専門的な用語をツラツラと並べていき、最終的に魔力の消費が非常に激しいと告げた。
シノアリスは半分以上理解できておらず、ふんふんと頷いていたが要は簡単にコツを掴むのは難しいということだろうと結論付けた。
「も、もっとわかりやすく教えてくれないか?」
同じ魔術師として浮遊魔法を解明したいのか説明を求めるズルーにくーちゃんは少しだけ考え込む。
「風と一体化するまで走り続ければコツは掴めるのでは?」
「それはもう無理前提じゃないか」
魔術師であるズルーはこれで自身も浮遊魔法を極めれば魔術師協会からも一目置かれると聞き耳を立てていたのだが、くーちゃんの説明にガクリと酷く肩を落としていた。
風と一体化できるなど肉体系ではない魔術師にはまず無理は話だろう。
その会話のやり取りを暁は後方で聞きながら、ダンジョン内なのに天井に広がる青空を見上げた。
「俺は魔力がないから無理だが、空を動けるのは羨ましいな」
「あ、じゃあコレいりますか?」
暁は、ただ何気なくつぶやいただけだった。
だがその呟きに即座に反応を返したシノアリスは、暁にタッセルを渡した。渡されたタッセルの先端にはアクアマリンの魔石がついており、暁は不思議そうにシノアリスに問いかけた。
「これは?」
「この魔道具を身に着けた状態で指定の呪文を唱えれば、空を飛べるんですよ」
「そんなことができるのか?」
「はい、
重力操作は、その名の通り重力を操れるものだ。
以前、商品化できず御蔵行きとなった一品“重力の杖”にて、小突けば対象に重力をかけることができるが、反対に重力をなくすことはできなかった。
それをシノアリスのスキル“創作”にて
だがシノアリスの好奇心はそこで終わらなかった。
「これで空を飛べば魔女っ子になれるのでは?」
前世の記憶にて箒にまたがって空を飛ぶ女の子を思い出し、それを再現できたら面白いのではという好奇心から“
“
これを合体させれば空を浮遊できるのでは、と何度か試行錯誤を重ねた。
だがなにが原因なのか全く成功せず、気付けばシノアリスの創作スキルはレベルをあげていた。
レベルが上がったことにより、より成功率が鮮明になる内容が現れ“杖では成功率が低下する”という原因を突き止めた。
なので、仕方なく杖を解体しタッセルというアクセサリーへ変貌させ、“
シノアリスはその情報を簡易的に説明しつつ、アクアマリンの魔石がついたタッセルを小突いた。
「“
「凄いな」
「速度は馬と同じくらいの速さが出ると思いますよ」
「シノアリスはつけないのか?」
暁の言葉に、シノアリスはスンと真顔になる。
「私で実験した結果、天井に突き刺さりました」
「・・・あぁ、あのとき、か」
シノアリスの言葉に暁も思わず遠目になる。
それはダンジョンに赴く前日のことだった。
暁やくーちゃんは各自持ち物の準備をしていたが、突然背後から激しい衝突音が聞こえ慌てて背後を振り返れば、そこには天井に頭を突き刺しぶら下がっているシノアリスがいた。
勿論暁とくーちゃんは悲鳴をあげて即座にシノアリスを救出し、なぜ天井に刺さったのか理由を問い詰めたがシノアリスは決して答えなかった。
つまり、あの悲惨の事故の原因がコレだったという訳だ。
「どうやらコントロールがとても難しくて」
「そうなのか」
「もう少し調整をすれば私でも飛べるかもしれませんが、暁さんならきっと上手にコントロールできるはずなので、よければ使ってください」
「・・・分かった、ありがとうシノアリス」
「いえいえ」
シノアリスは気付いていなかった。
己のした所業がどれほど凄いことなのかを。そして、相棒がさらに最恐の一歩へと進化していることに。
「あ!あんなところに“マンドラウサッコ”が!行きます!」
「待て!上に肉食植物がいるだろうが!?」
電光石を片手に走るシノアリスにピン、とカシスはシノアリスの命綱を引っ張り遠ざける。
「あ、あれは!ダンジョンでしか採取できないと言われた“ロイヤルマイタケ”が!!行ってきます!!」
「シノアリス嬢!落ちる!落ちるから待ってくれ!」
巨大な大樹の枝の端っこに生えた素材をとろうとよじ登り手を伸ばすシノアリスに、マリブはピピン、とシノアリスの命綱を引っ張る。
「あ、あれは!寝ているときにしか咲かない鬼蛙の花!!行くっきゃない!」
「「「「頼むから動くな!?」」」
鬼蛙は、体長七メートルの巨大な蛙であり、頭には鬼のような鋭い角が生えている。
そしてその真ん中に咲く小さな花は“鬼蛙の花”と言われ、希少な素材でもあった。
何故なら鬼蛙が眠っているときにしか花を咲かない。
また鬼蛙は寝ているときは全く動かないが、微かな微音でも目を覚まし、その巨体を生かし大暴れする凶暴な魔物なので目を覚ませばとんでもないことになる。
その鬼蛙にリラクゼーションアロマを手に近づこうとするシノアリスを明星の全員が拘束し、押さえつけた。
数秒後、ルジェとセレーネによるダンジョンでの“命大事に”お約束講座が強制的に開かれ、シノアリスの脳内に叩き込まれたのは言うまでもない。
****
本日の鑑定結果報告
・
シノアリスが作成した現在世界に一つだけの飛空魔道具(タッセル)。
重力の石に“
速度は馬ぐらいの速さらしい。
精密なコントロールがいるので、武闘派の暁であるからこそ扱えるだろうとプレゼントされる。
シノアリスが使用すれば天井に頭を突き刺す事例が起きるので、まだまだ改良の余地が必要なので現時点では売りに出すつもりはない。
寧ろ、売ったら確実にヤバい。
・マンドラウサッコ
ウサギの耳の形をした草が生えており、引っこ抜くと雄たけびをあげ、悲鳴を聞いたものを麻痺状態にさせ、また数秒後に目を開眼させ相手を混乱状態にさせる。
採取方法としては電撃など直接浴びせ、失神させて採取するのがお勧め。
・鬼蛙の花
体長七メートルの巨大な蛙。頭には鬼のような鋭い角が生えており、その真ん中に咲く小さな花。
希少な素材でもあり、入手が難しい。
何故なら鬼蛙が眠っているときにしか花を咲かない、また鬼蛙は微かな微音でも目を覚ます凶暴な魔物なので眠ったままやリラックス状態での採取は非常に難しい。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。
少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければブクマやコメントを頂けると大変活力となります(*'ω'*)
更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。
そーらを自由にとびたーいなぁ~!・・・・は誰もが夢見ることだと思います。
わたしもよく空を飛ぶ夢を見ます!
必ず3秒後には落下するオチまでがセットです。せめて10秒くらい飛び続けてくれないだろうか。
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