第70話 腕試し大会(5)
吾輩の名はレレイ、猫族と人族のハーフだが暗部ギルド所属にしており実力は上位に食い込んでいる実力派の暗殺者。
現在レレイは、とある場所でその時を待っていた。
此度の目的は彼女の得意とする暗殺でも苦手な密偵でもなく、対象の少女に“奴隷印”を刻むこと。
本来は特殊な首輪をつけさせる予定が、なんらかのトラブルにより作戦遂行が不可となったので首輪から別の計画へ変更された。
影に所属する身でありながらトラブルで計画に穴をあけるなどもってのほかである。
だが、隊員の一人はずっと通信機越しにて「キレてるんだ、もの凄くキレててヤバいんだ」と意味不明な発言を繰り返している。
遠目から対象を観察していたが、おバカそうに見えたが意外に短気な性格なのだろうか。
「まぁ、そんなものどーでもいいにゃ」
このミッションをクリアすれば、破格の報酬と数日の休みがもらえるのだ。
港町シェルリングが再び漁業を再開させた情報は入手済み、この依頼を早く完了させ大好物の魚食べ歩きをする。
レレイは静かに目に闘志を燃やすとガタリと浮遊感に襲われた。
ようやくかとレレイは笑みを深めたのだった。
*
会場の裏にて、シノアリスとくーちゃんは待機していた。
「くーちゃん、すっごく可愛いね!」
「にゃあぁ、ごしゅじんさま!くーは照れてしまいますー」
「愛い愛い!」
シノアリスは興奮気味のくーちゃんの黒髪を撫で続けている。
あの後、くーちゃんの
「くーちゃん!ターンして!」
「にゃーん!」
身長はシノアリスの太腿付近までしかなくおおよそ百センチほどだろう。
セミロングの黒髪に、頭には猫耳を生やし衣装は黒と白のエプロンドレスを着用している。
くるりとその場でターンをすれば、スカートから除くカボチャパンツと尻尾が見え、くーちゃんの愛らしさを引き立てていた。
その姿は前世の記憶でよくみる猫耳メイドさんでシノアリスは既にメロメロだった。
「くーちゃん、愛い愛い!!」
くーちゃんからすれば先ほどの筋肉質な体の方が便利だったのだが、大好きなシノアリスがここまで愛でるのであれば、この姿も悪くない。
「ごしゅじんさま、体調は大丈夫ですか?」
「え?うん、平気だよ。なんで?」
「いえ、わたしがこの姿を維持し続けると、ごしゅじんさまの魔力も使用状態となりますので」
くーちゃんは前回シノアリスが倒れた原因を忘れていない。
なぜなら助っ人なので自身は魔力を持っていない。
くーちゃんの使用する魔法は全てシノアリスの魔力を使っているのである。
シノアリスは、くーちゃんの説明にようやっと魔力枯渇の原因を知ったのか両手を叩き納得したように何度も頷いていた。
「あぁ、そういうこと」
「にゃー、ごめんなさいにゃ」
「気にしないで、くーちゃん!んー、でもそうか私の魔力を消費するのかー」
ふとシノアリスは何かを思い出したのか、くーちゃんの頭を撫でながら問いかけた。
「ねぇ、くーちゃん。それって魔石から補うとかでも大丈夫?」
「魔石ですか?」
「うん、まだ錬金術士として稼働する前に魔力のコントロールで練習した魔石がいくつかあるんだけど」
魔力のコントロールに、魔石を使用して鍛錬するのは一般的な方法だ。
その応用で属性魔法を限界まで圧縮させたのが発火石や電光石である。
シノアリスは、ホルダーバッグから紫色に発行する小粒の魔石をくーちゃんに見せるとくーちゃんは目の色を変えた。
「こ、これはなんて高度な魔石!」
「そうなの?」
「はい!この魔石があれば 暫くはごしゅじんさま自身の魔力を消費せずにすみます!」
くーちゃんの言葉にシノアリスは安堵の笑みを浮かべ、小粒の魔石を入れる物をホルダーバッグから探し出す。
そして掴んだのは、卵型のシルバーペンダント。
卵型のピルケースとなっており、薬などを入れるのにも最適で尚且つおしゃれなネックレス。
これは亡き錬金術士の師匠から貰った贈り物。
「はい、くーちゃん。これあげる」
シノアリスは卵型のケースに小粒の魔石を入れ、チェーンを通してくーちゃんの首へと下げた。
くーちゃんは生まれて間もないが、そのペンダントがとても高価な細工物だというのは見てすぐにわかった。
「こ、こんな高価な物いいのですか?」
「くーちゃんにだから、いいの!」
くーちゃんはシノアリスから貰ったペンダントに嬉しさと感動で顔を真っ赤にし目尻に涙を浮かべつつ大切にペンダントを握りしめた。
「九番の方!準備をお願いします!」
「あ、はーい!じゃあ行ってくるね、くーちゃん!」
「はい!いってらっしゃいませ!」
可愛いメイドに見送られながらシノアリスは係員の案内により会場へと足を踏み入れた。
シノアリスは知らなかった。
くーちゃんにあげたペンダントがとてつもない代物だということを。
「じゃあ、あの扉の先が会場だからね」
「はい、ありがとうございます!」
係員の案内によりたどり着いた扉の前にてシノアリスは深呼吸をする。
会場がどのようになっているのか、控えていた選手には分からない。
シノアリスは緊張気味に扉を開き中を覗き込むと部屋の全体が鏡張りの部屋になっており、中央には?が掛かれた箱が鎮座していた。
シノアリスには鏡張りの部屋しか分からないが、この鏡の向こうでは観客が見ているのだろう。
そう思うと緊張してしまい、ギクシャクと硬い動きで箱に近寄る。
箱の傍には、この箱への説明と制限時間、回答時には大きな声でハッキリと回答するように記載されていた。
ふと箱の傍らには砂時計の砂が既に落ち始めている。
「よぉし!いくぞ!!」
シノアリスは、覚悟を決め箱の中に手を突っ込んだ。
箱の中で待機していたレレイは、対象の手が侵入してきたことに笑みを深めた。
レレイは現在獣人化、子ネコの姿になり作戦を遂行すべくお題のボックスの中で待機していた。
レレイは人族と猫族のハーフである。
そして彼女には変身能力が備わっていた。
本来、獣人は人や獣になることはできない。だが彼女の父親である人間には特殊なエクストラスキルをもっていた。
エクストラスキル“獣人化”
自身を望む動物の姿へ変身させるスキル。このスキルの所為なのか理由は判明していない。
だが、レレイは父親のスキルを受け継いだかのようにレレイはネコの姿になることができる。彼女はその能力を活かして暗部ギルドの上位にまで上り詰めた。
何も知らずに無防備に伸ばされる手にレレイは用意した奴隷紋を吐き出す。
あとは対象の血を採取すれば奴隷紋は自動的に発動し、作戦は成功だ。
レレイを探るように動く両手に、自ら近寄る。
ビクリとシノアリスの手がレレイに触れたことにより驚くも、ゆっくりと体格を確かめるように撫でていく。
その手つきに、レレイは少しだけ喉を鳴らしてしまった。
「はにゃぁん」
シノアリスの手は、レレイのひげまわりを人差し指で撫でる。
モニモニと加減された力加減が筋肉を程よく刺激していった。
「にゃ、ぁぁん」
そして、ゆっくりと指は顎の下へ移動し指を使ってそっと撫でてあげる。
「ふ、ふぁあぁああん」
思わず箱の中で蕩ける声が出てしまう。
だが箱の外にいるシノアリスにはその声が届いていない。
届いていないはずなのに、レレイが蕩けそうな気分になっていると分かっているかのように喉を撫で続けた。
ここがええんじゃろ?これがええんじゃろ?と言わんばかりの愛撫にレレイはゴロゴロと自然に喉がなってしまう。
「ゴロゴロ、ゴロゴロ」
どれほどそうしていたのか、シノアリスの指が離れた瞬間レレイはハッと我に返る。
自身の任務を忘れ、対象の手に蕩けさせていたなんて、屈辱にもほどがある。
レレイは直ぐに奴隷印を刻ざむために指に噛みつこうと口を開くも。
「あふぅうううん」
尻尾の付け根をトントンと優しく叩かれ、毛並みに沿って数本の指または手のひらで滑らかに撫でていく。
なんだ、このテクニックはとレレイは内心戦慄しつつ、その手の心地良さに負け思わず腹を見せる。
見えていないはずなのに、その手は腋の下は優しく撫でて腹部を“の”の字を描くように撫でていく。
「にゃぁぁあん!らめぇぇぇ!」
そんな箱の中の惨状を知らないシノアリスは、すっと箱の中から手を引いた。
「分かりました、答えはネコです」
ピンポーンと間抜けな音が響き、後方の扉が開かれる。
外ではくーちゃんが笑顔で出迎え、シノアリスが正解したことを自分のことのように喜び祝福してくれた。
「くーちゃんのお陰だよ」
「にゃ?に、にゃぁあん」
不思議そうに首を傾げるくーちゃんの顎の下を撫でれば、直ぐにゴロゴロと喉を鳴らし始めたのだった。
****
本日の鑑定結果報告
・猫族
ネコの獣人族。
獣人族では、一番長命の一族。
***
最後までお読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。
少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければ嬉しいです(*'ω'*)
更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。
エロ同●誌みたいな展開にしたかった・・・
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