第68話 腕試し大会(3)

オレーシャとナストリアの今後の付き合いも兼ねて開催された腕試し大会。

あの後撃沈していたセルザムは気力で立ち上がり青白い顔のまま、大丈夫だと半泣きのシノアリスの頭を撫でながら応援もしてくれ内股の状態でシュティーナと裏方へ引っ込んでいった。

そして何事もなかったかのように大会が始まる声が上がり、今度お詫びも兼ねてなにか魔道具依頼があれば無償で引き受けようと決意したシノアリスだった。

その様子を見守っていたカシスは、ふと疑問に思っていたことを口に出す。


「そもそも、なんでこの大会に出ようとしたんだ」

「白米が欲しくて」

「ハクマイ?」

「白米。いまの私には白米が必要不可欠なんです」


眼の色を変え真剣な顔で告げるシノアリスにカシスは大会の景品場所を見つめ、なるほどと納得する。

カシスは街中でよく見る女性やカップルたちを思い出し、そしてシノアリスを見やる。

男性にほしいものを強請り着飾る女と比べれば、シノアリスはどちらかと言えば清楚な方だ。だからなのか着飾る姿が想像できない。

だからと言って着飾らない方が良い訳ではない。


「?なんですか?カシスさん」

「・・・別に。・・・・おい」


視線を感じ、シノアリスがカシスを見上げるが顔を反らされてしまい、頭上に?を浮かべるシノアリス。

だがカシスは受付を片付けようとしたノイムルへ声をかけた。

勿論、突然声を掛けられたノイムルは驚くように肩を震わせた。


「は、はい?なんでしょう?」

「俺も参加したいんだが、間に合うか?」

「え?あ、はい!じゃあこのエントリーシートの記入を・・・」


「シノアリス」


ノイムルの傍でエントリーシートを記入するカシスの背を見ていれば、恐る恐ると声をかける暁にシノアリスは振り返る。


「はい?どうしました?暁さん」

「本当にシノアリスも参加するのか?」

「そうです、ごしゅじんさまが参加なさらずとも私が獲物を勝ち取ってみせますよ」


どうやら暁もくーちゃんも戦闘向きではない錬金術師のシノアリスが参加するのに、不安があった。

自分たちがシノアリスの望む白米を入手するつもりなので、彼女に無理はさせたくない。


「大丈夫ですよ、欲しいものはちゃんと自分で手に入れなくては」


が、そんな二人の内心を知るはずもないシノアリスは拳を握りしめる。

やる気に満ちているシノアリスにこれ以上反対がし辛い1人と1匹はせめて、この腕試しが暴力的な物ではありませんようにと願うしか出来なかった。




「大変お待たせ致しました!これより腕試し大会を開催します!」


盛大な銅鑼の音と司会進行するシュティーナの声に参加者や野次馬の視線が集中する。

シュティーナは自身に視線が集まっているのを確認をし、此度の大会の内容を説明し始める。


「我が故郷オレーシャは樹の精霊の加護ドライアド様の加護により大自然に恵まれています」


オレーシャはその恵みの恩恵を授かりながらも、盗賊や魔物など被害は此処数百年以上起きていない。

だが住民はそれを驕ることなく樹の精霊の加護ドライアドに感謝と自分たちを鍛えてきた。その故郷で育つ住民たちは樹の精霊の加護ドライアドの森で五感の内1つを鍛える。

それが研ぎ澄まされたことで成人と認められるのだ。

オレーシャ出身であるシュティーナは視覚に、セルザムは聴覚に特化しており一般の人間よりも優れている。

勿論それをはるか上にいく亜人には適わないが、冒険者を目指す人達にはとても強みとなる。


「まずこの腕試しでは参加者様の五感がとても重要となります」


シュティーナは傍に置いてあったタルの蓋をあけ、中の物を取り出し周囲に見せるよう掲げる。


「皆さまに最初に競っていただくのが“視覚”です」

「あれは?」

「魔石ですね」


魔石とは、魔力を秘めた石のことだ。

シノアリスの御蔵行シリーズである発火石や電光石のような属性の魔力が込められた石と同じように、魔石もまた中に魔力を秘めている。

魔法使いたちは己の魔力を操作して魔術を生み出す。だが魔力のない人間でも魔法を使うために必要とするのが魔石である。魔石はどこにでもあるわけではない。

魔力のある強い魔物の体内や魔力が濃厚に満ちた場所で生まれる。

オレーシャは樹の精霊の加護が掛かった森があるといっていた。恐らく樹の精霊の魔力の残りが結晶化したのだろう。


「ここに100個の鉱石を用意しており、その中に魔石を12個まぎれています」


つまり自分の眼で100個の鉱石の中から魔石をみつけなければいけないようだ。

これは魔力を扱いなれている魔法使いが参加していれば有利な内容。そうとしった参加者の一人が手をあげた。


「道具の使用は可能か?」

「いいえ、不可です。これは皆様の視覚を試すもの、ご自身の眼で魔石を探し当ててください」


これは初っ端から難しいのが来たものだ、とシノアリスは納得する。

周囲を見渡すも腕試しと言われていた為か、判定に自信がある物は余裕の顔をする者やどうやって見分けるかと様々な思考顔をし悩んでいる者もいる。


「ちなみに選んだ鉱石は思い出の品としてお持ち帰りいただいて結構です」


シュティーナの言葉に会場は少しだけ笑いに包まれる。

当たれば魔石をタダで獲得できるが、外れれば使い道のないお荷物が増えてしまうという訳だ。だが商業ギルドでも鉱石は買い取ってくれる。

ただし50個で銅貨一枚だが。



「制限時間はこの砂時計が落ちるまでです!ではスタート!」


開始の合図と共に参加者は一斉に鉱石へと群がる。

先ほど砂時計を見たが、砂の量からして制限時間はわずか五分。その五分の間に見極めないといけないが、シノアリスはムフフと微かに笑みを浮かべスキルを発動させる。


「“鑑定”」


ズルというなかれ。

鑑定というスキルも取得には目利きが必要となるので、自身の力と言える。シノアリスは周囲の鉱石を見て、ふと濃い輝きを放つ石を見つける。

殆ど魔力も感じない石の中で一際輝くそれにシノアリスは無意識に手を伸ばした。


妖精の落とし物フェアリードロップ(品質:上)】

妖精の体内で化石となり排泄された魔素の塊、主に武器作成などに使用される

滅多に採取できない貴重な鉱石。

【追記】



「・・おぉう」


まさか魔石に紛れてかなりのお宝に巡り合えてしまった。

これは競技後回収されるのだろうか。

いや、先ほどシュティーナは選んだ鉱石はお持ち帰りして良いと宣言してくれた。つまりこれの所有者はシノアリスという事になる。

妖精の落とし物は本当に希少な素材なので思わぬ収穫にシノアリスのアホ毛は踊る、不意に鑑定結果の明記の下にあった追記の項目に気付いた。




【追記】

別名 妖精のウ●コ



その瞬間、シノアリスは妖精の落とし物フェアリードロップを本能的に放り投げようと振りかぶるが錬金術士として素材への執着がそれを寸前で抑え込む。

脳内で天使と悪魔が戦うかのようにシノアリスは片手に持ったフェアリードロップに頭を抱えながら唸りだす。そんな奇行を周囲は首を傾げながらも魔石探しへと戻っていく。


「時間です!皆様手をお止めください!!」


タイムアップの声と共に、参加者は魔石を掴む手を止める。シュティーナは全員が手を止め此方に視線を向けているのを確認し机が並んでいる位置に移動するよう誘導をする。

結局シノアリスはフェアリードロップしか掴んでいないので、それを手に机の前へ移動した。


「では魔石であるかの鑑定を行わせていただきます」


オレーシャで村一番、鑑定と同列に視覚に冴えているのはシュティーナである。

だが一人で鑑定していては時間がかかるので他の判定人が数人現れる。

早速机の上に並べられた石を見ていく。

次々と脱落者と合格者があげられる中、既に合格者としてその場に残っている暁やくーちゃん、カシス達がシノアリスの合格を待っている。


「最後が貴女ですね」


シノアリスの持つフェアリードロップを見るのは、シュティーナではなく他の審査員の女性だった。

女性は何度か角度を変えてフェアリードロップを見つめ、持ち上げようと手を伸ばした瞬間に思わずシノアリスは「あっ」と声を漏らしてしまう。

別名の名を知ってしまったが為か、しかも相手が女性であったため思わず声を出してしまった。


「なにか?」

「いえ、その、なんでもありません」


訝し気な視線を向けられシノアリスは、モゴモゴと口ごもるが最終的には何でもないと申し訳なさそうに頭を下げた。


「残念ながらこれは魔石ではありませんね、普通の鉱石です」

「え、あの・・・」


普通の鉱石、と言われた瞬間、シノアリスが思わず控えめな挙手をする。

だがギロリと審査の女性に睨まれてしまう。

私の判定に文句でもと言わんばかりの威圧を出されるが、シノアリスは引くに引けない。


「確かにこれは魔石じゃないですけど、鉱石でもないです」

「はぁ!?あなた、私の判定に誤りがあるとでも!?」

「うーん、半分当たりで半分外れでもありますね」

「な!!」

「ちょっとなにを騒いでいるの」


ヒステリックに審査の女性が叫んだ所為か主催者のシュティーナが傍にやってくる。

すぐさま審査の女性はシノアリスの発言を報告すれば、今度はシュティーナがフェアリードロップに視線を向けた瞬間、大きく目を見開いた。


「こ、これは!?」

「やっぱり魔石じゃないとダメですか?」


フェアリードロップは魔石以上にレアな素材なのだが、ダメであれば仕方ない。フェアリードロップを入手できただけでも儲け物だ。


「あの、シュティーナ様。どうされたんです?」

「貴女こそ、どうして気付かないの?これは魔石ではないわ、“妖精の落とし物フェアリードロップ”よ」

「!?」


シュティーナの言葉に、審査の女性は慌ててフェアリードロップを見やる。

何度も何度も汗を浮かばせながら鑑定をし、ようやっとその石が鉱石ではなくフェアリードロップだと気づいたのだ。


「・・・あのー、結局合格なんです?それとも」

「合格よ!もちろん合格に決まってるわ!!」


叫ぶように吠えるシュティーナにシノアリスは両手を上げて喜んだ。

勿論見守っていた暁やくーちゃんも直ぐにシノアリスの傍に駆け寄り、合格を祝ってくれた。







「・・・ねぇ。このフェアリードロップだけど」

「あげません」

「いや、でも代わりの他の魔石を」

「いやです」


さり気なくフェアリードロップを回収したかったシュティーナだったが、シノアリスの笑顔の拒絶により泣く泣く諦めたのだった。


****

本日の鑑定結果報告


・魔石

魔力を秘めた石

魔力のある強い魔物の体内や魔力が濃厚に満ちた場所で生まれる。


・“妖精の落とし物フェアリードロップ

妖精の体内で化石となり排泄された魔素の塊、主に武器作成などに使用される

滅多に採取できない貴重な素材。

別名 妖精のウ●コ


***

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければ嬉しいです(*'ω'*)

更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。


【更新予告】

年末年始での仕事の都合上により次回更新は【1月13日】になります!

24日から12日までお休みとさせていただきます。

申し訳ございません(´Д⊂ヽ

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