第65話 戻った日常?
とある遠い森の奥にある廃墟となった城に、それはいた。
「あーぁ、折角あげたスキルが無駄になっちゃった」
かつては王座であっただろう朽ちかけている王座に座る一人の男。
傍には、この王座に座っていたのであろう骸となった骸骨が倒れている。男はその骸骨の頭をつま先で突きつつ不満げに唇を尖らせた。
「ま、べつにいいけどさー。僕の手持ちが亡くなったわけじゃないし?」
気にしていない、という言い回しにしては何処か不貞腐れたような声が響く。
男は骸骨の傍にあった朽ちた王冠を指でクルクルと回しながら、ふとなにかを思いついたか深い笑みを浮かべた。
「良いことおもいついちゃった、くふふふ」
楽し気に笑う声が静寂に満ちた城内に響く。
回していた王冠を放り捨て、それは静かに歩き出す。まるでこれから楽しいことがおこるぞと言わんばかりの楽し気な足取りで。
*
「何をふざけたことを申しておる!」
場所は戻り、ナストリア国へと変わる。
王宮の一室にて、厳しい声が響き渡った。
此処は王族と関係者のみが入れる特別な私室でもある。話が漏れないよう特殊な防御壁に守られた部屋のため暗殺や内密の会話をするのに最適な場所でもあった。
その場所にて密会をするのは、ナストリア国の王“エイヴォリー・マレスカ・ナストリア”と宰相のベルカノーゼの二人。
特に国王でありエイヴォリーはひどく興奮をしているのか、顔を真っ赤にしながら怒りに震えている。
「国王様、お体に触ります。どうか落ち着いてください」
「黙れ!」
「・・・」
「放浪の錬金術士を呼び寄せることもできず、更には召喚士も此処に呼び出せないとは、どういう了見だ!」
此度の魔物の暴走にて、エイヴォリーはその功績を祝うために冒険者を召還するよう冒険者ギルドに命を出した。多大なる貢献をした冒険者に褒賞を与えるのは間違いではない。
だが国の本音は、生き残れることが出来ないとされた魔物の暴走で生還した国としてこれから、ナストリアの名は世の中に知れ渡る。
そうすれば、功績を残した冒険者の名も知れ渡るであろう、その前に国で囲っておこうという算段があった。
特に、いまナストリアには謎のベールに包まれた放浪の錬金術士が未だ我が国に滞在している。
事前にベルカノーゼに、放浪の錬金術士とコンタクトを取れるよう命じたが、いまだ難航していた。だがそれだけでなく魔物の暴走にて未知な召喚獣と契約した召喚士がいる。
その存在が他国に渡らないよう、また牽制できるように繋がりを持とうという打算があった。
だが結果、放浪の錬金術士も召喚士も王城に召還されていない。
王命なのにもかかわらず、だ。
勿論ベルカノーゼも直ぐにギルドに叱咤をし、放浪の錬金術士はまだしも召喚士を連れてくるよう連絡をいれたのだが、王城に現れることはなかった。
「申し訳ございません、陛下」
ベルカノーゼは深く深くエイヴォリー王に頭を下げる。
放浪の錬金術士に関しては、ロゼッタのスキル“直感”での予言により王も渋々保留としてくれたが、納得したわけではない。
いまでもその機会を虎視眈々と狙っている。
だが、無名の召喚士を呼び寄せることが出来ないことで不満が爆破したのだろう。
「なんでも召喚士は、冒険者ギルド在籍の者ではなく商業ギルド在籍の者でして」
「それがどうした」
商業ギルドであろうが、冒険者ギルドであろうが王命を平民が断るはずがない。
そう言わんばかりに顔に出ている王にベルカノーゼは、言葉を詰まらせながら報告を続ける。
「・・・その召喚士は、ロゼッタの保護下にあります」
ロゼッタの名に王は顔を顰める。
ロゼッタは商業ギルドの受付嬢に過ぎない。
なぜ彼女の名が此処まで王の顔色を歪ませるのかは、彼女のこれまでの実績が物語っていた。彼女のスキルのお陰で魔物の暴走だけでなく、幾多の危機を免れているのも事実。
王族お抱えの星占い師の予言よりも的確に当たる。
星占い師は、星を読み未来を占うとされている。
これもエクストラスキル“星読み”というスキルがあって出来る力だが、国の危機が迫ることは予言できても、それが何時何処でどうすればいいのかまでは細かく予言できない。
だが、直感は違う。
この場所で、近い時期なのか今すぐなのかを悟る。そして対策に対してそれは最善かを感じ取れる。
今ナストリアに放浪の錬金術士が長く滞在してくれているのもロゼッタの助言があってこそ。
星占い師とロゼッタが王族お抱えになれば、国はさらに栄えるだろう。
しかし、そんな王国の欲望さえもロゼッタには読まれていた。
「くそ、やはりあの時囲っておくべきだったか」
最初は、ロゼッタに爵位でも与え王族直系の者と婚姻をさせ囲もうとしたが、彼女からは断りを入れられている。ならば家族だけでもと父親にも爵位の話をしたが、彼は領主の補佐で充分だと辞退された。
ロゼッタは強制を強いらないのであれば、ナストリアから移住せず国のために力を貸すと宣言をしているので無理強いは出来ない。
そんなロゼッタの保護下にある召喚士を無理に呼び寄せれば、宣言を撤回される恐れもある。
「つまりロゼッタ嬢には此方の思惑は筒抜けということか」
「“直感”は厄介なスキルでもありますね」
ベルカノーゼの言葉にエイヴォリーは額に手を当ててため息をついた。
これ以上下手な動きを示せば、それは直ぐにロゼッタの直感が動くであろう。そうすれば貴重な戦力がたちまち失われる。
「まったく・・・どうしてこうも上手く事が運ばないものか」
王宮に在中する召喚士や魔術師は、王城に上がってくるであろう無名の召喚士を今かと待ち構えている。
だが、召喚士が来ないのであれば彼らからの反発も面倒になるのだがロゼッタを敵に回すと考えれば、それらを抑える方が利益なのは当然。
王は執務室に積まれた数多くの書状を思い出す。
魔物の暴走から生き延びた事で、他国からナストリアの恩恵に預かりたいといくつもの国や独立した領主が同盟を持ち掛けてきている。
更に放浪の錬金術士がナストリアに長く滞在をしているのを聞きつけたのか友好国になろうとする国も増えてきた。
出来れば放浪の錬金術士が我が国のお抱え錬金術士であれば、帝国さえも凌駕できるというのにままならないものだ。
「 」
ふと王の心に悪魔の声が囁きかける。
奴隷にしてしまえばいいので?と。
なにも身分を奴隷に落とすのではない、奴隷のように逆らえないよう絶対服従紋を刻めれば召喚士だけでもこの手中に納めることができるのでは。
「・・・ベルカノーゼ」
「はい」
「奴隷商と呪術師を内密に呼べ」
「!?王、それは・・・」
「国の発展のためだ」
エイヴォリーの言葉に、彼がなにをしようとしているのか悟ったベルカンーゼは額にうっすらと汗を浮かべる。この選択が間違いないのか、もしや国を衰退させる判断ではないのかと。
だが、エイヴォリーはベルカノーゼが忠誠を誓った王。
彼がそれを望むのであれば、ベルカノーゼは従う他ない。
「仰せのままに、陛下」
くふふ。
くふふふふ。
愚かな道化にそれは楽し気に笑う。
今度はどんな終わりを見せてくれるのだろう。
さぁ、新しい舞台の始まりだ。
*
商業ギルド内の統括長室にてお茶を飲んでいたロゼッタはふとカップから口を放し窓の外を見た。
「・・・
「あん?どうした」
「しばらくお暇をいただきたいのですが」
「は?」
「またシノアリス嬢に作成してもらいたい薬や魔道具があれば早めに依頼する方が良いと思います」
「・・おい、それは」
ロゼッタの言葉に、なにかを悟ったスルガノフの顔が強張る。
だがロゼッタは窓から見える晴天を見上げながら、呆れるようにため息を吐いた。
「全く、どうして平穏は続かないものなのかしら」
不意に、ロゼッタの脳裏に好意を全身で露わにして笑顔を見せるシノアリスを思い出す。
しばらく彼女に会えなくなる、そう思うと少しだけロゼッタは寂しい気分となる。だけどそれを口には出さず、誤魔化す様に少し冷めた紅茶を飲みほした。
***
最後までお読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。
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更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。
【更新予告】
明日も更新します(*'ω'*)
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