第61話 【幕間】盾と善意 (2)
「ところで、今日はベルツさんたちとご一緒ではないんですか?」
「あぁ、アタイ達は武器がないから依頼を受けられないんだ」
「武器がない?」
不思議そうに首を傾げるシノアリスに、コリスは
すると話を聞いたシノアリスは、小さな声で何かを確認するよう呟いていたが直ぐに顔をあげコリス達に問いかけた。
「あの、私が直しましょうか?」
「え?」
「そんなことできるのかい?」
「はい、壊れた武器の部位が揃っていれば出来ますよ」
武器の修理に関して二人は詳しい知識はない。
そんな簡単にできるものなのかとコリスとアマンダは首を傾げるが、本来通常の錬金術士ではそんなこと出来ない。
壊れた武器を直すのはとても難しい。
打ち直しても、その箇所から衝撃に弱くなり再び壊れてしまう。
そのため武器屋でも修理を受ける場合、一度武器の状態を見てからでなければ受けてくれない。
シノアリスは部位さえあれば出来ると簡単にいいきったのには勿論、理由がある。
その理由はヘルプに武器の修復方法が簡単に載っていたからだ。
ご丁寧に解説と手順付きで。
それを知らないアマンダ達は互いに顔を見合わせた。
「ボクはもう武器屋に出したから大丈夫だよ」
「ならアタイだけお願いしようかね」
アマンダの言葉にシノアリスは笑顔を浮かべた。
元々アマンダは武器を新調するつもりだったので、たとえ修理できても、できなくてもシノアリスを責めるつもりなど全くなかった。
シノアリスの善意を無化にしたくなかった、ただそれだけだった。
「ちなみにアマンダさんは、これがあったら嬉しい
「ん?なんだい、急に」
「あれば教えてください!」
「そうだね、タンクは耐久が主だから、
タンクは主に敵の攻撃を受け止める役割なので、攻撃手段は特攻をかける戦士が行う。
反撃の手段がないが、タンクは味方を守る大切な盾の役割だ。
「
「あとは、そうだね。敵を引き寄せやすいとありがたいね」
「引き寄せ・・・」
「まぁ、そんな武器みたこともないけどね。夢は語るのは自由さ」
「分かりました!ありがとうございます!!」
出来るはずがない前提で話すアマンダに対し、シノアリスは最後まで笑顔を浮かべてアマンダから壊れた盾を受け取った。
このとき、アマンダはこの軽はずみに発言したことを後悔するなど思いもしなかった。
*
それから二日後。
シノアリスから渡された盾は、完全に修復された状態で返された。
いや修理されているだけでなく、以前よりも軽く強度が上がっていることにアマンダだけでなく仲間の皆も驚いていた。
「すげぇ!これが真っ二つに割れてたとはおもえねぇ!」
「アリスちゃんは武器の修理もできるんだね」
「あぁ、これは鍛冶屋も顔負けだね。下手に買わなくてよかったよ」
まさか本当に修理できるとはアマンダもコリスも夢にも思わなかった。
アマンダもあれから新しい盾を探してはいたのだが、どうもしっくりと合う武器がなかったので妥協して買おうかと悩んだ矢先に、シノアリスから修理が完了したと連絡が入った。
「これなら今日の討伐に支障はなさそうだな」
コリスのダガーも修理が終わり、戦う常夏の現場復帰としてロロブスの森までやってきたのだ。
今日の依頼はロロブス付近に出没するクロコスネの討伐。
「クロコスネなら余裕だな」
「馬鹿いうんじゃないよ、そういう慢心がパーティーを全滅に追いやるもんだ」
「俺たちは、あの魔物の暴走から生き延びたんだぜ?あれと比べたら全然だろ」
ノスの余裕宣言に対しアマンダは警告するがノスには届かない。
自分たちはあの、絶望的な魔物の暴走を生き残った。
更に数多くの魔物を倒したことで、有頂天になっている冒険者が幾人もいた。だがリーダーのコリスだけは違った。
「あれは、アカツキさんやアリスちゃんがいたからこそ、生き残れたものだよ」
自分たちだけでは、きっと屍になっていただろう。
コリスの言葉にノスは思わず黙ってしまう。
あの戦いで一番誰よりも貢献したのは鬼人の暁だ。そして絶望的な状況から救ってくれたのはシノアリスである。
「ボクたちはまだまだ弱い」
「・・・コリス」
「だから、いつかアカツキさんと背を合わせられるように強くなりたいんだ」
コリスの力強い眼差しにベルツはトンと背中を軽く小突いた。
「・・・なろう、俺達ならきっと出来る」
小声ではあったが、しっかりと皆の耳にベルツの声が届く。
その言葉に皆が誓うように拳を突き合せた。
「!早速獲物のお出ましただ!」
話をしていても周囲の警戒を怠らなかったノスは、目的の気配に気づいたのか慎重に奥へと進めば討伐対象であるクロコスネを発見する。
早速アマンダは敵を引き寄せるために盾を構えながら、ゆっくりと
クロコスネは近づいてくるアマンダに気付いたのか、ジッとアマンダの動きを観察していた。
本来警戒心の高いクロコスネは、よほどの空腹でない限り敵が視界に入ってきても襲わず、逃げることが多い。
此方から攻撃を仕掛けるなどしない限り、クロコスネは素早く身を隠してしまうのだが。
「・・え」
クロコスネは、アマンダの盾をジッと見つめたかと思えば、無防備に近寄ってきた。
これにはコリス達も驚いた。
また盾を構えたアマンダもこの展開には驚いてしまい、思わず身を引いてしまう。
だがそれを許さないとばかりに詰め寄ったクロコスネは、体当たりするように
【
機械的な声が聞こえたと同時に目の前にいたクロコスネが木端微塵に砕け散った。
「「「「は?」」」」
その光景に処理が追い付かないのかコリス、アマンダ、ノス、ベルツの顔が宇宙猫のような顔で現実逃避をしていた。
「一体なにが・・・」
ふとアマンダの脳裏に今朝方シノアリスから盾と一緒に渡された紙の存在を思い出した。
慌てて懐から紙を取り出して、内容に目を通せばアマンダは全身を震わせた。
「アマンダ?」
その様子をみたコリスは声をかけるもアマンダからの返答はない。
一体なにが掛かれているのか、とコリスは手紙の内容をみるために覗き込んだ。
「なになに?この盾には二つのスキルが付与されています。一つは
その説明に魔術師であるベルツはサッと青褪めた。
『それは禁忌のスキルの一つ“洗脳”だ』
「禁忌って、そんなにヤバいのか?」
『あぁ。洗脳や魅惑のスキルを持っている人間は問答無用で捕まる』
「え、じゃあアマンダ捕まるのか?」
『いや、スキルを取得している
自信のない回答だが、問題がないとしても禁忌とされる魔法が付与された盾を持っている時点で問題大ありだ。
なぜこんな危険なスキルが盾に付与されているのか。
不意にコリスの脳裏に酒場でアマンダが冗談交じりに答えた、あったら嬉しい
「・・・まさか」
嫌な予感を覚えつつも、コリスはもう一つの付与されたスキルの説明文へと目を通した。
もう一つは
つまり先ほどクロコスネが砕け散ったのも盾に触れた衝撃が十倍に跳ね返った結果ということなる。
「・・・」
記載された文面に、もはや言葉を失うコリス。
ふと最後にシノアリスからの追伸が書かれていた。
「ちなみにどちらも手動で切り替えられるように設定しておきました、と」
シノアリスからの変な気遣いを残して手紙は終わった。
再び重い沈黙がメンバーを包みこむ。
「ギギィ」
「「「「!!」」」」
すると物音が聞こえ、振り返った先には砕けたクロコスネの血肉を求めてやってきたゴブリンが姿を見せた。
咄嗟にコリス達が振り返ったことで、ゴブリンとアマンダの視線が重なった。
正確にはゴブリンの視界にアマンダの盾が映った。
「ギギャァァア!」
その瞬間ゴブリンの眼はハートになり、発情せんばかりの奇声をあげてアマンダの盾へと飛びついた。
【
再度機械的な声が聞こえたかと思えば、ゴブリンの体は問答無用で木端微塵に砕け散る。
その光景を、コリスは思考放棄をしたのか遠い目で静かに地を見つめていた。
「あんの、ばかアリスーー!!」
唯一、盾の持ち主であるアマンダは怒りのままに空に向かって大声で叫んだのだった。
「(もぐもぐ)もぁ?」
「どうした?シノアリス」
「ひへ・・・今呼ばれたような?」
「へいお待ち!!追加の串焼きだ!!」
「まってましたー!!」
が、その当の本人は今日もナストリアにて極上の串焼きを堪能していたのだった。
*****
本日の鑑定結果報告
・
相手の攻撃に合わせて自動的に反撃を行うスキル、主にタンクではなく戦士などが取得しやすいスキルである。
此度シノアリスの手によって“相手の攻撃に合わせて自動的に10倍(最大)威力の反撃を行う”に変更されていた。なお手動でも切り替え可能らしい。
・
引き寄せたい対象を意識することで、強制的に相手の意識を向け引き寄せる禁忌とされている洗脳魔法。
本来、洗脳や魅惑のスキルを取得している
またこちらも手動でオフにすることが可能らしい。
***
最後までお読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。
少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければ嬉しいです(*'ω'*)
更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。
戦う常夏はヤバいアイテムを入手した!
しかし(善意という名の)呪いにより放棄することができない、ナンテコッタイ/(^o^)\!
【更新予告】
次回更新は、25日です。
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